“薩摩おごじょ”という言葉がある。優しくしっかり者でありながら、男性を立てる薩摩の女性を現した言葉だ。
大河ドラマ西郷どん』で、吉之助の弟・吉二郎の妻、園(その)役を演じているAKB48NGT48柏木由紀は、鹿児島県出身。2012年には「鹿児島大使」にも任命されている。そんな柏木にとって、故郷の偉人・西郷隆盛(鈴木平)を題材としたこの作品への参加は大きかったようだ。

【写真】『西郷どん』“薩摩おごじょ”柏木由紀の演技シーン

 8月5日放送の「三度目の結婚」で登場した園だが、オファーが来たのはその直前。「今回の大河ドラマは、放送前から地元の盛り上がりがすごかったんです。私自身も第1回から放送を観ていたので、まさか自分の地元が舞台になってる大河に、しかも観ていたドラマに出させていただくなんて…。驚きましたが、うれしかったです」。

 登場するや否や、普段の“アイドル”姿とは一転、吉之助や家族の前で産気づくというインパクトのあるシーンを、浅黒い日焼け姿で熱演。セリフの“薩摩ことば”の自然さも相まって、話題を呼んだ。

 「放送後、両親や地元の友達から感想が…鹿児島の人はみんな観てますからね(笑)。あと、AKB48、NGT48のメンバーも感想をくれました。赤ちゃんの抱っこの仕方が下手くそと言われて、自分でも見てそうだなと。
そこは猛反省しました」。

 新たに西郷家に加わる園の“薩摩おごじょ”なキャラクターも、鹿児島育ちの柏木だからこそ、自然と受け入れられたようだ。

 「薩摩の女の人は、三歩下がって男性を立てるんです。母や周りの鹿児島の女性を見ていてもそう感じることが多くて…私自身も、理想としている女性像は“薩摩おごじょ”です」。

 しかし、加わるのは撮影後半。「演技に苦手意識が強くて、私が出ていいのか、という不安は常に持っていて…」と語る彼女にクランクインの心境を尋ねると、アイドル“柏木由紀”に戻り「人生で一番緊張しました。オーディションとは比べものにならないくらい緊張しました!」と親しみやすい笑顔を見せる。

 「前の晩はずっと台本が頭の中にあって、1時間も寝られなくて…。クランクインの瞬間、『西郷園役の柏木由紀さんです!!』ってやるじゃないですか、あれめちゃめちゃ緊張するんですよ! 普段メンバーといると全然緊張しないんですけど、撮影中はほぼ記憶がないです(笑)」。

 思い返すと「もう一生あんな思いはしたくないっていうくらい緊張しました」と笑う柏木。しかし、そんな彼女を支えてくれたのは、西郷家のメンバーだった。 「役としても西郷家としても、皆さんがなじみやすく明るい雰囲気を作ってくださったおかげで、楽しく“普通”に居させていただくことができました。
『分からないことや気になることがあったら、後から入ってきたとか気にせず、自分にでもいいから言ってください』という亮平さんの言葉も心強かったです」。

 夫・吉二郎役の渡部豪太とは、撮影中に自然と夫婦役の絆が出来上がっていったという。

 「西郷家のシーンは、アドリブでしゃべるシーンが結構あるんです。そこで話しかけてくださったり、夫婦の雰囲気が出るように自然とリードしてくださったり…撮影中、緊張で眠れていなかったこともでも吉二郎さんにだけは言えたんです。結果、『寝ないとだめだよ』って優しく言われたんですけど(笑)。唯一、最初から弱音を吐けたのは吉二郎さんでした」。

 「今は西郷家の方々と会ったり、合間に話したりしているだけで楽しくて。撮影の緊張も含めて“楽しい”と思えるようになりました」という彼女。今は「素敵なキャストの方と一緒に出させていただけるだけで、自分の糧になる」と考えを改めた。

 しかし、物語はいよいよ戊辰戦争へと突入していく。明るく、暖かな西郷家だからこそ、園にとっても、演じる柏木にとってもつらい展開が待っている。

 「脚本を読んで、客観的に読んでいたはずなのにすごく泣いてしまって…もちろん園として読んでも泣いてしまう、つらく悲しい回でした。
亮平さんも撮影中、『しんどいねえ』と常におっしゃっていたくらい…」。

 撮影で作ってきた“絆”があってこそ、登場人物たちの悲しみがより胸に迫る演技となる。戊辰戦争後、西郷家を支える女性となり、「かなりたくましくなった園が観られると思う」と柏木に言わしめた園。その変化は、柏木自身にオーバーラップしていくのかもしれない。(取材・文:川口有紀)
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