NHK連続テレビ小説『まんぷく』のタカちゃん役で親しまれ、その名を全国に広めた岸井ゆきの(27)。同ドラマでヒロイン・福子を演じた、所属事務所(ユマニテ)の先輩・安藤サクラの大きな背中を追いながら、近年、女優として急成長を遂げている。
どこにでもいそうで、どこにもいない、唯一無二の不思議な存在感。彼女の“人を惹(ひ)きつけてやまない魅力”は、いったいどこから生まれてくるのだろうか?

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 2009年、志田未来らが出演したドラマ『小公女セイラ』(TBS系)で女優デビューを果たした岸井は、その後、数々の映画、ドラマ、舞台で実力を磨き、2016年、『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)では松本潤演じる主人公・深山大翔に思いを寄せる自称シンガーソングライター・加奈子を好演。同年、NHK大河ドラマ『真田丸』では堺雅人演じる主人公・真田信繁の側室となる豊臣秀次の娘・たか役に抜てきされ、一躍注目を浴びる。

 2017年には『おじいちゃん、死んじゃったって。』で長編映画初主演を務め、『まんぷく』が始まった2018年には、『99.9 -刑事専門弁護士‐ SEASON II』(TBS系)、『モンテ・クリスト伯‐華麗なる復讐‐』(フジテレビ系)、さらに映画『ここは退屈迎えに来て』など、立て続けに話題作に出演し、次世代を担う演技派女優として、その名を全国に知らしめた。今年もその勢いは止まらず、『大奥 最終章』(フジテレビ系)、『名探偵・明智小五郎』(テレビ朝日)に出演し、19日には、成田凌共演の最新主演映画『愛がなんだ』が公開された。

 ざっくりとキャリアをたどってみたが、特に2016年以降の岸井の活躍は目を見張るものがある。外側から見ていると、「時代がようやく岸井の才能に気づき、各製作陣が彼女の争奪戦を繰り広げている」…そんなイメージすら沸き起こる超売れっ子ぶりだが、なぜこれほどまでに、観客を、視聴者を、そして製作者たちを虜(とりこ)にする存在になれたのか。先日行われた映画『愛がなんだ』のインタビューの語録をひも解いてみると、2つの理由が浮かび上がってきた。

 1つは、あくまでも作品を際立たせる役者としての「スタンス」。どの出演作品を観ても、演技という「行為」を感じさせないくらいリアルで自然体。「憑依」と言えば大袈裟だし、「カメレオン」と言えばなんだか陳腐。
しいて言えば「同化」だろうか、岸井の演じる役が1つのパーツとして物語と見事に溶け合っているのだ。『まんぷく』では、軸に“タカちゃん”というキャラをしっかり据えながら、小柄なサイズ(身長148.5cm)をフルに生かし、髪型や表情、言葉遣い、動きなどで14歳の少女を見事に演じ、その後も年代ごとに色を変え、仕事一直線の夫とひょうきんな息子を束ねる30代後半の小言妻までを軽やかに表現した。 映画『愛がなんだ』では、片思いに全力疾走する等身大のOL・テルコを演じているが、岸井自身は、「私は何もかも捨てて、好きな人に向かっていくタイプではない」ことから、役づくりに最初は苦戦したのだとか。それでも、「好きな人に対する熱量は私にもあって、それをテルコのように行動に出すか、出さないか、あるいは別の方法を取るか、だけの違いだと思ったので、そのすり合わせを心の中でとことんやりました」と、最終的には着地点をしっかりと見い出している。なんとかテルコとのつながりを探り出し、自分の気持ちとリンクさせることで、もう何十年もテルコであったかのように物語の中に溶け込む見事な変ぼうぶりを見せた。キャラを作り上げ、作品を盛り上げながらも、役に溺れず出しゃばらない。だからこそ岸井の演技は素直に受け入れられ、高く評価されるのだ。

 そしてもう1つは、郷に入れば郷に従う「順応性」。同作の今泉力哉監督が演技に対して何も指示を出さないことから不安に陥っていた岸井だが、「監督は現場のサプライズ感やライブ感を楽しんでいる」と直感した彼女は、自分が思う通りに演じてみることを決意。それに対して今泉監督がどう反応するか、というやり方を選択し、結果、テルコというキャラを伸び伸びと演じることができた。監督の思惑をいち早く汲み取り、演技に反映させる順応性は、作品によって全く違う岸井の魅力を引き出し、ひいては、メガホンを取った監督たちをも虜にする。引っ張りだこの要因は、そういうところにもあるのではないだろうか。


 事務所の先輩・安藤サクラを「誰も真似できない、規格外の人」とリスペクトしながらも、その大きな背中を必死に追いかけ、進化し続ける役者・岸井ゆきの。これからの活躍にますます期待で胸が膨らむばかりだ。(文:坂田正樹)
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