【人物コラム/田幸和歌子】木村佳乃主演のドラマ『恋する母たち』(TBS系/毎週金曜22時)に出演中の磯村勇斗が、毎週、SNSを大いにざわつかせている。柴門ふみの同名漫画の原作×「恋愛ドラマの名手」大石静脚本による同ドラマは、木村、吉田羊、仲里依紗演じる同じ高校に通う息子を持つ3人の母たちの恋愛と友情を描いた物語だ。
【写真】『恋する母たち』磯村勇斗、吉田羊にオフィスで壁ドン
■“壁ドン”“全裸待機”…吉田羊との不倫シーンが話題に
放送開始前から序盤では、“不倫“が描かれることに拒否反応を示す人が多かった。にもかかわらず、途中からはシンプルにワクワク感、ハラハラ感を楽しむ視聴者が増えている。他人事として見ると実に面白いコメディ要素もあれば、ゾクゾクするホラー要素もある。しかし、この作品に対する視聴者の反応の変化を担う大きな要素の一つとして、確実に磯村の存在があるだろう。
磯村が演じているのは、吉田羊演じるキャリアウーマンの優子と不倫に陥る部下・赤坂剛だ。赤坂は何でもそつなくこなす優秀な部下で、恋愛もそつなくこなせてしまうだけに、長続きしない。そんな彼が上司である優子に惹(ひ)かれていき、オフィスで「壁ドン」してみたり、とあるハプニングから出張先で同じ部屋に宿泊することになり、バスルームから出てくる優子を「全裸待機」して押し倒したり。
深い関係になってからは、遠方から夜遅くに車で駆けつけ、路チューしたり、「離婚して! 僕だけの優子さんになってほしい!」と独占欲をむき出しにしたり。挙句、別れを受け入れた後も、千葉で初めての営業仕事を頑張る優子に電話し、「すぐ切りますから」と言い、“営業のワンポイントアドバイス”をくれて…。
この赤坂が、単なる若さで突っ走る押しの強い青年にならないのも、単なる「かわいい年下男子」にならないのも、性欲むき出しなのに罪悪感全開のドロドロでなく、ほどよいエロス+笑っちゃうかわいさになっているのも、どれもこれも磯村が演じているからではないかと思う。強引さや、かわいさ、ドロドロ不倫など、どこか一方向に強烈に偏って引っ張られていたとしたら、おそらく嫌悪感を抱く視聴者ももっと多かったはずだ。
磯村が演じる赤坂はその点、ドキドキも与えてくれるのに、健気さにキュンとさせてくれたり、ふとしたときに笑わせてくれたりもする。
■好青年からヤンキー、オネエ…演じるキャラクターの幅の広さ
優子と別れた後も心配し続ける誠実さ、優しさには、SNS上で「ワンコ感がすごい」と多数つぶやかれていた。確かに赤坂にも、演じている磯村自身にも、黒目がちなビジュアル・人懐こそうに見える性質ともに、「犬」的愛らしさがある。これは彼の知名度を一気に押し上げたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』で演じた、ヒロイン・みね子(有村架純)に思いを寄せた後に結婚相手になる好青年・ヒデにも共通している点だろう。
ところが、2018年放送の『今日から俺は!!』(日本テレビ系)では、細眉+オールバックの「実際にこういう本気で怖そうなヤンキーいたよな」と、ある世代には懐かしさすらこみあげるリアルな極悪非道のツッパリ・相良猛を演じた。コミカルな同作の中で、時代やフィクションという枠組みを超え、リアルのヤンキー隆盛期の世界から本物のヤンキーがやってきたようなド迫力である。
そうした流れから、多くの視聴者に大きな衝撃を与えたのが、昨年放送の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)で演じた同性愛者の青年「ジルベール」こと井上航だ。自分にベタぼれの恋人・大策(山本耕史)の愛を確かめるため、ワガママや気まぐれで振り回しまくり、悪態をつく“ドS”ぶりを発揮する。が、ひどい仕打ちを受ければ受けるほど大策は喜ぶ…という、完全に需要と供給のバランスがとれた超絶面白カップルだった。いつも変なTシャツを着て、頭もボサボサで、だらしなく寝そべっていても、なんだかかわいい。でも、作り込まれたあざとい方向でなく、自由さに、うっかり笑ってしまう。
磯村の特異な点は、人懐こさや愛嬌を感じさせる「犬」的魅力と同時に、気ままさ・自由さ・気まぐれさ・わけのわからなさ・色気という「猫」的魅力も持ち合わせていることだ(余談だが、犬も猫もご本人は好きだが、残念ながら犬、猫アレルギーらしい ※本人ブログによる)。
その不思議な魅力を再確認したのが、11月13日に放送された『A-Studio』(TBS系)の出演時。もともと中学時代に自主制作した映画がきっかけで役者を志し、高校時代からは芝居を学ぶために地元の劇団に入り、舞台に立っていたという彼。番組では、地元・沼津の演劇研究所に所属していた頃の舞台の秘蔵映像が紹介されたほか、年齢が大きく離れた当時の「仲間」たちが登場していた。
一高校生男子が、いくら芝居がしたいからといって、かなり年上ばかりのおじさん・おばさんたちばかりの地元の劇団に一人で入っていくというのは、並大抵のことじゃない。それを成立させたのは、磯村の芝居に対するひたむきさ・熱意とともに、誰の懐にでもフラットにスルリと入り込める人懐こさだろう。
ちなみに、バナナマン×サンドウィッチマンのトーク番組『バナナサンド』(TBS系)に「サウナ好き」として登場した際には、4人からそれぞれに「ホントいい子なのよ!」「ロケのとき、『あ! 僕買ってきます!』って率先して動いてくれるのよ』などと絶賛されていた。
演技力だけでなく、下積みが長いからこその気配りや、年齢を超えた人付き合い経験値の豊かさは、一緒に仕事をした人たちに高く評価され、それがまた別の仕事にもつながっていく。爽やかさと色気、愛らしさと気ままさなど、相反する「犬」的&「猫」的魅力を制覇する磯村勇斗。少し時間はかかったが、売れるべくして売れた信頼度抜群の役者なのだ。(文:田幸和歌子)
<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムをさまざまな媒体で執筆中。