児童虐待が多発する中国だが、大人の世界でも人権を無視した壮絶な体罰が問題になっている。

「東網專訊」(6月30日付)などによると、パンツ1枚になった10名ほどの男たちが夜の街を徘徊させられている写真が、インターネット上に投稿された。

その男たちは湖南省長沙市の美容店の従業員で、ノルマを達成していないという理由で、体罰を受けたのだった。それだけではなく、トイレの便器の水を飲まされたり、地べたを舐めさせられたり、尻を棒で叩かれたりしたという。

 これに対し、ネット民からは非難の声が上がったが、「洗脳に成功」「オーナーはSM好きだな」といった分析も見られた。

 それにしても美容店でなぜ、ノルマを問われるのだろうか? 上海市在住のビジネスコンサルタントの日本人男性(39歳)は、こう説明する。
「中国の美容院にはたいてい、プリペイドカードがあり、5,000元(約7万5,000円)や1万元(約15万円)といった高額のチャージをさせて、顧客を囲い込もうとしています。美容師は、髪を切りながらこれを客に売りつけるのですが、あまりに強引なため、トラブルになることも少なくありません。
なぜそこまで必死に売ろうとするのかというと、売れれば歩合がもらえるというのもありますが、ノルマを課せられているからです。中国の美容師は、営業マンでもあるのです」

 行きすぎた体罰は、エリートが働く金融機関でも横行している。

 6月18日、山西長治漳澤農商銀行が行った行員研修の途中、8名の行員がステージに上げられ、ケツバットを食らわされた。その動画がインターネット上に投稿されると、すぐさま拡散。8名のうち半分は女性だったが、おもちゃのようなバットを握る男は、執拗なまでに繰り返しケツを叩く。相当力を込めているようで、「ビシッ」という大きな音が会場に響く。


「新聞晨報」(6月22日付)によると、ケツバットを食らわせたのは上海市で従業員への研修代行サービスを行う企業の経営者。今回の3日間の研修費用は、28万元(約420万円)になるという。ちなみに前出のビジネスコンサルタントによると、中国にはこうした研修代行を行う企業が相次いで誕生しており、業績を上げているという。

「厳しいノルマ」という共通の背景がある2つの事件だが、問題の本質は別にあるようだ。

「権力志向の強い中国人にとって、社長や先生は絶対的な存在。上に君臨する者と下に属する者たちとの間には、明確な壁があります。
日本のように友達みたいな関係というのはほとんどなく、上に立つ者は、なんらかの形で自らの権力を誇示する必要があります。その行きすぎた形が、体罰というわけです」(同)

 従わない者には鉄拳制裁ということか。中国の企業は、日本以上にブラック体質のようだ。
(文=中山介石)