テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(4月28日~5月4日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします
ますだおかだ・岡田「令、ワオ!」昭和から平成に移行したときはレンタルビデオ店が繁盛した、という話がある。天皇崩御に伴う当時のテレビの「自粛ムード」を象徴するエピソードとして、よく聞く。
対して、今回の改元時のテレビは、おおむね「祝賀ムード」が基調だったように思う。で、Twitterなどを見ていると、そんなテレビに対しては「またお祭り騒ぎをやってる」みたいな批判的な声もあるようだ。バカみたいにはしゃいでるだけでつまらない、というような。今回はレンタルビデオ店ではなく、動画配信サービスが人気だったのではないか、みたいなツイートも目にした。
なるほど、そういう「お祭り騒ぎ」の面はあったかもしれない。30日の夜、年越しならぬ時代越しの前後には、NHKをはじめ複数の番組は渋谷のスクランブル交差点にカメラを構え、集まった群衆を映していた。
「令和ギャグ」もいくつか見かけた。チョコレートプラネット・松尾はIKKOのモノマネで「令和~」といい、ますだおかだ・岡田は「令、ワオ!」と叫んでいた。芸人ではないけれど、DAIGOは平成を「KZN(絆)」と振り返り、令和を「RW(ロックでワイルド)な時代にしたい」と展望していた。
平成最終日の30日は、民放でどちらかというとマジメ路線の番組が多かった。
こういった状況を見ると、なるほど確かに、テレビは今回「お祭り騒ぎ」に興じていたみたいな批判も、わからないではない。
ただ、実際にテレビが「お祭り騒ぎ」一色だったかというと、そういうわけでもない。
たとえば、30日夜に放送された『NHKスペシャル』(NHK総合)では、女系天皇や女性天皇の可能性をめぐる過去の議論の経緯が振り返られていた。男性皇族が減り、皇位継承者が限られている現在。
報道番組の中では、4日放送の『上田晋也のサタデージャーナル』(TBS系)が、今後の象徴天皇制の存続のあり方に関し、短い時間で複数の論点を取り上げていた。番組の冒頭、街頭インタビューで「“国民の象徴”とは?」と街ゆく人に問いかけ、そもそも私たちの多くが明確な答えを持っていない現状を浮き彫りにしていたのが印象的だった。
ドキュメンタリー番組や報道番組が「お祭り騒ぎ」から距離を取るのは、ある意味で当然かもしれない。では、バラエティ番組はどうか。
「なんか、マスコミだけが騒いでるような感じがする」
先週も通常営業だったのが、『5時に夢中!』(TOKYO MX)だ。令和になった感想を聞かれた美保純は、特に話す内容がないとでもいうように「んー(笑)」とほほえみ、新しい元号が何か問われた岩井志麻子は「絶倫元年だろ?」と答えた。
「令和の初日には働いていた職場が倒産し無職になり、昨日は付き合っていた彼女に逃げられ、今日は毎日連絡をこっそり取っていた別の女性と連絡が取れなくなり、すべてが令和になってから私から去っていきます」
そして、30日の夜、フジテレビで放送された『平成の“大晦日”令和につなぐテレビ』。総合司会のタモリは番組の最後、令和はどんな時代になってほしいと思うか問われ、次のように答えた。
「ちょっといいですか? さっき平成とか漢字がいっぱい出てきましたけども、何年か前に省庁が合併したりなんかしまして、看板があるんですね。あの漢字の中で、いかがなものかというのがかなりあるんで、この際どうですかね。ちゃんとあれをこう、漢字をやればいいんじゃないかと思いますけども」
平成はどんな時代だったか。令和はどんな時代であってほしいか。数々の有名無名の人々が、先週のテレビでこの問いに答えていた。そんな中、日本で最も有名な人といっても過言ではないタモリが、約6時間半に及ぶ放送の最後に発した言葉が、省庁の看板をキレイに書き直したほうがいい、である。そのメッセージすら、「ちゃんとあれをこう、漢字をやればいいんじゃないか」とあやふやに。
これまでにもさまざまな現象に茶々を入れ、権威的なものを脱力させてきたタモリ。今回もまた、「ちょっといいですか?」と一拍おいて、「お祭り騒ぎ」の同調圧力の気圧を、少し抜いていた。そんな場面も、このたびの改元前後のテレビの中にはあった。
話の角度を変えて、最後に短めのエピソードを2つ。
1つ目。1日放送の『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)で、有吉弘行がこんな話をしていた。年齢を重ねれば重ねるほど、自分は変態になると思っていた。たとえば、森繁久彌のように。けれど、芸能界はもう変態が生息しにくい場所になってしまった。
「あんまりにも芸能界の人もキレイすぎてさ、大吉さんと赤江さんの野っ原座ってるやつ、デートっていわれてさ。かわいそうに。あんなんがそういうふうに言われちゃうぐらい、クリーンだよ」
2つ目。29日放送の『テレビ千鳥』(同)で、千鳥の2人が海を見に湘南へドライブしていた。車はノブが先日購入した1000万円超のベンツ。屋根をオープンにしたベンツの助手席に座る大悟は、ライターで炙ったスルメを食べ、缶ビールを飲み、タバコを吸いながら語る。
「口ん中にイカがあって、イカの臭いがグダーっとつくやろ? その臭いをビールで、この出てきたイカの汁をビールでいくんよ。口がむちゃくちゃなっとるとこを、タバコの煙で。いま3つ口ん中で混ざって、これが一番うまい」
ノブはそんな大悟に、「きったねぇ人間!」とツッコむのだった。
芸能界は「クリーン」になってきている。けれど同時に、タバコをテレビで普通に吸う「きったねぇ人間」が人気者になったりもしている。どちらか一方が誤りというわけでもないだろう。
平成から令和へ時代がまたいだ先週も、テレビは多面的にお送りされていた。
(文=飲用てれび<http://inyou.hatenablog.com/>)