番組公式サイト」より

 日曜夜10時30分から放送されている『だが、情熱はある』(日本テレビ系)は、お笑いコンビオードリー若林正恭高橋海人)と南海キャンディーズ山里亮太森本慎太郎)が主人公の実話を元にした青春ドラマである。

 二人は「たりないふたり」という漫才コンビとして、トークバラエティ番組『たりないふたり-山里亮太と若林正恭-』(日本テレビ系)に出演していた。

物語はコロナ禍の2021年に行われた解散ライブ「明日のたりないふたり」の生配信の開始が描かれた後、二人が出会った2009年を経由し、若林が高校2年生、山里が高校3年生として別々の高校に通っていた1995年へと遡っていく。

 人としていろいろなことが“たりない”二人は、強いコンプレックスを抱えて生きていたが、その“たりなさ”が、やがて芸人としての武器へと変わっていく。だが、二人の青春は回り道の連続だった。

 若林は中学からの同級生の春日俊影(戸塚純貴)と共にお笑いコンビ「ナイスミドル」を結成するが、仕事はほとんどなくオーディションにも受からない。一方、山里は相方へのダメ出しがキツすぎて、組んだコンビは喧嘩別れによる解散を繰り返していた。しかし、山里はしずちゃんこと山崎静代富田望生)を誘い「南海キャンディーズ」を結成。

当初は自分も目立ちたいからと二人でボケていたが、しずちゃんのボケを活かすためにツッコミに転向。すると今まで受けなかった漫才が受け始め、ようやく活路が見え始める。

 本作を観て、まず目を引くのが俳優陣の好演だ。若林はKing & Princeの高橋海人、山里はSixTONESの森本慎太郎が演じている。ジャニーズ事務所に所属する華やかなアイドルの二人が鬱屈した内面を抱える若林と山里を演じるのは難しいのではないかと思っていたが、しゃべり口調もビジュアルもどんどん二人に近づいている。

 春日を演じる戸塚純貴と、しずちゃんを演じる富田望生の演技も素晴らしく、「本人が演じているのでは?」と錯覚しそうになる。

 若林と山里が役作りに協力的で彼らの若手時代の映像がたくさん残っていたため、演じる上での環境は充実していたかもしれないが、まさかここまで再現できるとは思わなかった。彼らの芝居を追いかけるだけでも、楽しめる。

 また、興味深いのが昨年、NHKとDisney+で放送された『拾われた男』との類似性である。同作は俳優の松尾諭の同名エッセイを原作とする1990年代以降を舞台にした青春ドラマだが、『だが、情熱はある』の企画も、プロデューサーの河野英裕が山里と若林のエッセイを読んだことをきっかけに思いついたものだった。

 『拾われた男』には、松尾の出世作となったテレビドラマや映画のエピソードが登場し、松尾が付き人をしていた女優の井川遥が本人役で出演して、当時のエピソードをドラマ化していた。対して、『だが、情熱はある』では『エンタの神様』(日本テレビ系)等の2000年代のお笑い番組や、あの時代に活躍した芸人たちの姿が描かれる。

 また、松尾が1975年生まれ。山里は77年生まれ。若林は78年生まれと年齢が近いこともあってか、現在40代の男性が体験した90~2000年代を舞台にしたノスタルジックな青春ドラマとしても楽しめる。『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)や連続テレビ小説『舞い上がれ!』(NHK)もそうだったが、1990年代から現代に至る時代の流れを描いたドラマを作りたいという思いが、ドラマ制作者の間で広がっているのかもしれない。

 過酷なお笑いの世界で、若林と山里が精神的に追い詰められていく姿を観ていると辛くなるが、この辛さから目を逸らさずに描いているからこそ『だが、情熱はある』の青春は美しく見えるのだと思う。

 本作の毎話のタイトルは、第1話が「何を求めていますか?」第2話が「大きな声が出せますか?」と、疑問形になっている。

おそらくこれは、山田太一脚本の青春ドラマ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)へのオマージュだろう。『ふぞろいの林檎たち』に出演していた柳沢慎吾も山里を見守る警官役で出演しているのだが、暗い青春の中であがく若林と山里の姿は、かつて『ふぞろいの林檎たち』が描いていた若者たちと重なるものがある。

 『だが、情熱はある』と放送時間帯が重なっている岡田惠和脚本のドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系、日曜夜10時放送)も、山田太一の『思い出づくり。』(TBS系)を彷彿とさせる内容となっている。プロデューサーの河野英裕はと岡田は『銭ゲバ』(日本テレビ系)、『泣くな、はらちゃん』(同)、『ど根性ガエル』(同)といった傑作ドラマを生み出してきた盟友だ。そんな二人が、山田太一の影響を感じるドラマを同時期に作っていることに不思議な巡り合わせを感じる。

 次の第7話では、いよいよ若林と山里が『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)に挑戦する。オードリーも南海キャンディーズも「M-1」でブレイクしたコンビなので、どのように描かれるのか楽しみである。

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日刊サイゾー2023.04.30