M-1グランプリ2015完全版 漫才頂上決戦 5年分の笑撃~地獄からの生還…再び~

【2001-2004】【2005-2007】【2008-2010】

■2015年 第11回大会

オートバックスと朝日放送に大不義理をして大会を終わらせながら、結局元さやに戻って復活したこの年。参加資格が結成10年以内から15年以内に伸び、審査員に歴代の『M-1』王者が顔をそろえるなど、リニューアル感満載の大会となった。

・敗者復活が視聴者投票に

第10回大会までは審査員による選出だった敗者復活が、視聴者投票に。その結果、知名度のあったトレンディエンジェルが、自ら「7ウケか8ウケだった」という出来にもかかわらず、圧倒的な票数を獲得してファイナルに進出する。

その勢いをかって一気に優勝まで駆け上がったため、敗者復活戦における視聴者投票の是非という問題がうやむやになった感もあり、議論を呼びながらも結局昨年まで採用され続けることになった。

・ヒザの峠越え

5番手にジャルジャルが登場。審査員9人中6人がトップの得点を入れ、ファーストステージを1位通過。後藤(加藤のイントネーション)から始まり、微妙にワードをズラしたり遠くに投げたりという、ジャルジャルの漫才の中でもかなり上位のネタだと思ったが、中川家・礼二の「細かい言葉のラリーが多かったですけど、大きなネタの枠があって、付録でそういうのをつけていただくと、より一層漫才っぽくなる」というコメントが、この後、ジャルジャルを苦しめることになる。

そして、このジャルジャルの得点により、トップバッターだったメイプル超合金が暫定席から姿を消すことになった。

・7位に沈んだ“衝撃”

5年ぶりの『M-1』、そのトップバッターとはつまり祝祭の復活を告げる役割を担うということだ。その意味で、メイプル超合金はうってつけの存在だった。何しろ、見た目がド派手なのである。

インパクト最強、無名なのに漫才おもろい、「ここWi-fi飛んでね?」ってなんだよ。会場も大ウケに見えたが、まったく得点は伸びなかった。ただでさえ得点の出にくいトップバッターで、審査員は全員初めて、しかも5年ぶりの『M-1』とあって、『M-1』がどんな大会だったか、どんな大会になっていくのか、誰もが様子を見るしかなかったのだろう。

7位という成績とは裏腹に、この翌年のメイプル超合金は優勝したトレンディエンジェルよりも多くのテレビ番組に出演し、ブレイクタレントランキング(ニホンモニター調べ)で1位を獲得している。

■2016年 第12回大会

昨年の9人から一気に5人に審査員が減った今回。銀シャリ和牛スーパーマラドーナというbaseよしもとから5upに移行する時期をともに過ごした3組が最終決戦に進み、3組の中で唯一、空白期をまたいで連続出場していた銀シャリが三つ巴を制した。

・敗者復活戦を辞退した2組

準決勝で敗退していた南海キャンディーズとアルコ&ピースが、ともにスケジュールの都合で敗者復活戦を辞退。この年の敗者復活戦は和牛が勝ち抜いたが、とろサーモン(4位)、マヂカルラブリー(11位)、錦鯉(15位)、霜降り明星(18位)という後の歴代王者4組が敗退しているという今となっては豪華すぎるステージだった。

三四郎小宮浩信の「松ちゃん待っててね~」が生まれたのもこの年の敗者復活戦である。

・テレビスター・カミナリの誕生

まったく知らないコンビがめちゃくちゃ面白かった! という現象は『M-1』のひとつの醍醐味であり、そのために予選や準決勝を見ないという人も少なくないと思うが、カミナリもまたそんな衝撃を与えたコンビの1組だろう。

しかもカミナリは、ネタ時間4分のうちの最初の1分をボケなしでゆっくりお話に使った。やれツカミはなるべく早く、ボケ数は多く、という『M-1』の定石をまったく無視した漫才である。そして「5・7・5じゃなくて7・9・7だな!」というツッコミとともに石田たくみの右手が振り下ろされると、その後は拍手笑いの連続となる。

得点こそ伸びず7位に沈んだが、スリムクラブと並んで座っていた暫定席からの退場を告げられると、たくみは内間政成の坊主頭を思い切りひっぱたき「おめえ、カミナリじゃねえな!」とかまし、この日いちばんのウケをさらった。カミナリもまた、翌年のブレイクタレントランキングで優勝者・銀シャリを抑え1位となっている。

・和牛のネタはこの年がいちばん好き。

ドライブデートと花火。このくらいシンプルな和牛が好きでした。

■2017年 第13回大会

03年から『M-1』にエントリーし、10回目の準決勝をようやく突破したとろサーモンが、そのまま王者に。最終決戦はとろサーモン4票、和牛3票となり、ここから和牛の苦難の道が始まることになる。

・「笑神籤(えみくじ)」ってなんだよ

この年から、出順が直前までわからない「笑神籤(えみくじ)」が導入される。これにより出演者は終始緊張が強いられ、本番中はトイレに行くこともできないという事態に。敗者復活が10番手に登場する有利を少しでも平等にしようという施策だったが、導入当初は業界内外で賛否両論があった。

今ではすっかり楽しい要素になっているが、出演者の負担が減ったわけではない。

・ミキの全国デビュー

ミキが渡辺正行上沼恵美子から最高得点を受けて650点、3位で最終決戦に進出した。審査コメントを振られた礼二、松本人志博多大吉の3人がそろって「ネタは別におもしろくない」という意味の発言をしていたが、勢いとテンポで全員90点以上という高得点を手にしている。後にミキの漫才はホームラン級のボケがない「バント漫才」と揶揄されることになるが、それだけ技術が高いということである。

・ジャルジャルについての2、3の出来事

10番手に登場したジャルジャルは「ピンポンパン漫才」を披露。松本が自己最高の95点を入れるも、合計636点で6位という結果に。この結果が出た瞬間、後藤淳平が「審査員の方、こしょばしたら点数が~」とボケる横で福徳秀介は頭をかきむしり、「おまえ、ようボケれんなぁ、今」とテレビの生放送中とは思えない表情で落胆する。さらに礼二の低評価コメントが追い打ちをかけ、福徳の目にみるみる涙がたまっていった。

大会終了後、GYAO!で配信された事後番組で、いよいよ福徳は泣き出してしまった。

この結果を受け、暫定席3位のとろサーモンが最終決戦に生き残り。

・誰もトップだと思っていない

そのとろサーモンのファーストステージの採点では、誰もトップ評価を入れていない。7人中5人が93点で並び、最終決戦にも和牛、ミキに次ぐ3位での進出だった。「ウエディングプランナー」「旅館」とハイクオリティな伏線回収ネタを2本そろえた和牛が有利に見えたが、この日は久保田和靖が笑いの神様に愛されたような、屈辱にまみれ、それでも折れなかった久保田にこの日だけ女神が振り向いたような、そんな夜だった。

■2018年 第14回大会

前年、準決勝で敗退し、楽屋の床にはいつくばって泣きじゃくっていたせいやと「(キャリアに)水差されたわ」とブチ切れていた粗品のコンビ・霜降り明星が王者に。吉本の若きニュースターが芸能界のド真ん中に躍り出た年。大会後にインスタライブでなんか言ってたスーパーマラドーナ・武智のことを、粗品はまだ許していないようだ。

・予選、敗者復活でちょっと、いろいろありました

準々決勝敗退者で争われたワイルドカードで魔人武骨が勝ち抜いたが、最多再生回数を争うGYAO!のページの1番手に掲載されていたことから一部で不公平感を指摘する声が上がった。このイメージを嫌い、魔人武骨は令和ロマンに改名することになった。

また、敗者復活戦ではラストイヤーのプラス・マイナスが大爆発。自他ともにファイナル進出を確信する出来だったが、ここで視聴者投票の歪みが現れ、敗退することになった。

・それにしても堂々としたものです

せいやは芸歴5年目。ネタ中は堂々とした振る舞いだったが、ネタ後のインタビューパートではかかりまくり、点数発表でも途中からおおはしゃぎ。静かな顔で見守っていた粗品が、せいやが浮かないようにテンションを合わせて万歳する一幕もあった。さらに、志らくの審査コメントの後に、思わず「変な反応はしません、生放送だから」と暗に不満があったことを打ち明けてしまったり、最終決戦の結果発表でも会場が明るくなる前から「えぐい! えぐい!」と叫びだしてしまったり、なかなかに若手らしい姿を見せた。その後ろで、ジャルジャルの福徳が3年連続準優勝となった和牛・水田の肩を抱いていた。

考えてみれば、25~26歳の若者が松ちゃんたちを爆笑させてるって、とんでもないことですよね。

(文=新越谷ノリヲ/【2019-2022】につづく)