地域一番店は不正の温床だった。

北朝鮮の北東部、咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)は、首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)市場と並ぶ全国二大卸売市場の水南(スナム)市場のある大商業都市だ。

一般的に北朝鮮の国営百貨店は、売る商品がなく開店休業状態だが、清津百貨店は地域一番店の地位を守るべく、様々な手法を取り入れている。しかし最近、朝鮮労働党中央委員会(中央党)の検閲(監査)を受ける羽目となった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事の発端は今年2月末まで遡る。清津百貨店の従業員が出した、店の幹部の不正行為に関する信訴(内部告発)を中央党が受理した。信訴とは、何らかの不正行為を訴えるために存在する内部告発制度だが、地元の朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)、清津市委員会(市党)に出してはいけない。

国営企業や機関の幹部は、地方政府、党の幹部と昵懇の仲だ。不正行為をグルになって行い、利益を山分けすることも当たり前のように行われている。そこに告発したところで握りつぶされるだけならまだマシで、仕返しに遭うことすらある。

そこで従業員は頭を働かせた。中央党で働く親戚を持つ人に状況を伝え、その人を通じて中央党に直接告発を受理させたのだ。

中央党は、ほっておいては地方政府にもみ消されると判断し、急遽検閲グルパ(監査チーム)を清津に派遣し、調査に取り掛かった。

「(中央党は、百貨店幹部が)物資をどれほど横流しして、ワイロをどれほど受け取ったら、従業員の信訴が中央党にまで届くのかと、従業員を一人ひとり呼び出して、面談を行って幹部の問題を探った」(情報筋)

百貨店で扱っているのは、国営企業から卸される商品ではなく、個人の商人から委託された商品が6割以上を占めていた。それらを目につきやすいところに陳列して売上を伸ばし、商人から手数料とワイロを受け取り、百貨店、道党、市党、人民委員会(道庁、市役所)の幹部が私腹を肥やしていたことが明らかになった。

情報筋は、摘発された幹部に対する処分について言及していないが、彼らも非常に悔しい思いをしていることだろう。

本来なら国営企業は、国から予算が得られるところだが、今は予算が得られず、自分たちで予算を確保しなければならない。しかし、国の流通網で供給される商品は量が少なかったり、トレンドを無視した売れ筋でない商品だったりする。そこで、商人から商品を委託販売したり、店の一部を貸し与えたりして、賃料を取る。

言わば大型スーパーの「専門店街」だ。

その収益を百貨店の運営予算に充てたり、国から課されたノルマを金額ベースで達成したりする。そんなやり方を地方政府に黙認してもらうために欠かせないのがワイロなのだ。

複数の従業員が立ち上がって信訴したほどなので、よほどやり方が乱暴で、私腹を肥やしすぎたのだろうが、現在の北朝鮮で生き残るには、間違ったやり方とは言えないのだ。今回は摘発されたが、ほとぼりが冷めれば後任者はまた同じことをやるだろう。