いつも評判が悪いが、今回はさらに悪かったようだ。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の総政治局は、4月15日の故金日成主席の生誕記念日(4.15節、太陽節)を控え、陸海空の各部隊に政治講演会を開催させた。

この種の強制動員に倦み疲れている兵士たちであるが、今回は通常以上に内容の陳腐さが際立っていた。米政府系メディア、ラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

軍内部の情報筋によれば、今月のある日、総政治局が配布した録音講演資料を聴取する「録音講演」が全軍で実施されたという。

総政治局は、年間に7~8本の録音講演用テープを制作している。その大半は金正恩総書記への盲目的賛辞で構成され、残りは人民軍内部の規律弛緩や違規行為の摘発をテーマとした、「耳で聞く吊し上げ」だ。

2月8日の人民軍創建記念日にも同様の録音講演が行われており、今後、7月27日の戦勝節や10月10日の朝鮮労働党創建記念日にも同種の講演が予定されている。

情報筋は、「今回の4月15日に向けた講演も、従来の金正恩氏を称賛する内容と大同小異であった」と述懐した。前回の講演内容をほぼ無加工で流用した可能性が考えられる。ただし、辛うじて新規の要素も含まれていた。

「2023年9月、金正恩氏がロシアを訪問した際、プーチン大統領が作戦地図を広げ、金正恩氏に助言を請うた」
「金正恩氏が瞬時に作戦的回答を示したことで、プーチン大統領は前線の窮地を打開できた」

このような「最高指導者万能伝説」は、北朝鮮体制特有の政治美談であるが、金日成氏や金正日氏が「縮地法」で瞬間移動するなどと喧伝されていた過去に比べれば、幾分「現実味」を装った演出といえるだろう。

さらに講演では、「米国は北東アジアおよび世界において常に北朝鮮の存在を意識せざるを得ず、自由に軍事演習すら実施できない」といった主張も展開されたという。

別の両江道の軍関係者によれば、4月8日から12日にかけて、人民軍各部隊において録音講演が実施された。

演題は「チュチェ(主体)の先軍の太陽を戴く偉大な祖国よ」であった。

講演の尺は約1時間40分に及び、その主旨は「金正恩氏の存在があってこそ英雄的な朝鮮人民軍が存在し、世界最高の祖国が形成された」という陳腐な賛歌で占められていた。
講演の四大柱として掲げられたのは、「軍事強国建設」「人間愛」「正義の化身」「世界が仰ぎ見る父」であった。講演終了後には、各中隊単位での学習集会および感想発表会が行われたという。

この関係者は、率直な感想を次のように述べた。

「録音講演は豪奢な楽曲と美声ナレーションで演出されていたが、内容自体は極めて曖昧かつ抽象的であった」

例えば、「金正恩氏が兵舎を視察し、劣悪な毛布の状況に心を痛め、直ちに新しい毛布を支給した」という美談が紹介されたが、具体的にどの部隊に、いつ、何枚の毛布が支給されたかについては一切明かされなかった。

そもそも、軍隊の基本装備であるべき毛布が「施し」の対象となること自体、体制の劣化を示しているにもかかわらず、こうした視点は完全に欠如していた。

情報筋はさらに指摘する。

「とりわけ『正義の化身』や『世界が仰ぎ見る父』といった表現は、帝国主義勢力の圧迫や孤立化策動を粉砕する金正恩氏の胆力と戦略を世界が称賛している、という趣旨であったが、その実証性は皆無であり、感動よりもむしろ荒唐無稽で陳腐な印象を誘った」

北朝鮮国内、とりわけ若年層においては、このような押し付け型の思想教育、指導者神格化プロパガンダへの拒絶反応が日に日に強まっている。この種の講演をいくら繰り返したところで、もはや人民の忠誠心を培養する効果は見込めないだろう。

なお、今回の録音講演からは国境警備隊および海岸警備隊が除外されていた。

情報筋によれば、過去に両隊の隊員を通じて軍事機密が外国に漏洩する事例が多発したため、センシティブな内容の講演については、彼らを対象外とする措置が時折取られているとのことである。

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