韓国国会立法調査処(立調処)は4月10日、「北朝鮮エリート内権力構造の変化と示唆点――崔龍海非公式組織の公式組織掌握を中心に」と題する報告書を発刊した。同報告書は、崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長を中心とする「単一後見体制」が、北朝鮮体制の安定と将来的な不安定要因の両面で重大な意味を持つとしている。
こうした見方が妥当か否かは今のところ未知数だが、興味深い内容なので以下に概要を示す。
報告書を作成したのは国会立法調査官のイ・スンヨル氏で、崔龍海氏が北朝鮮の支配エリート層において「非公式組織」を基盤に公式権限を掌握し、単一後見体制を確立した過程とその影響を詳細に分析している。
崔龍海氏は2017年10月、金正恩総書記によって朝鮮労働党中央委員会第7期第2回全員会議で組織指導部長に任命された。この役職は「党の中の党」とも称され、首領(最高指導者)の唯一的指導を執行する中核的地位であり、北朝鮮権力内で事実上のナンバー2の役割を果たす。
崔氏はこれにより、党の最高人事権と監査権を事実上掌握し、側近らを公式ポストに登用する「非公式組織の公式組織化」の権限を得たと、報告書は分析している。このような権限は、過去には2013年に処刑された張成沢(チャン・ソンテク)氏以外に前例のないものであったという。
崔氏は職務上の縁故や忠誠心を重視し、軍・党・政府の要職に自身の側近を次々と登用した。この作業は、2019年4月の最高人民会議第14期第1回会議までにほぼ完了したという。崔氏の下に配置されたエリートたちは、金正恩氏に忠誠を誓うと同時に、崔龍海氏に対しても、職務上の縁故に基づいた忠誠を誓っている形だと報告書は指摘する。
報告書は崔龍海氏の軍内部の非公式組織の構成員として、2012年に崔氏が総政治局長を務めた時期に朝鮮人民軍総参謀長、副総参謀長、総政治局組織副局長を歴任した李永吉(リ・ヨンギル)、努光鉄(ノ・グァンチョル)、金秀吉(キム・スギル)の3氏を挙げた。彼らは崔氏の組織指導部長就任の翌年、総参謀長、人民武力相、総政治局長に昇進し、権力の表舞台に登場した。
また、党内の非公式組織としては、朴泰成(パク・テソン)内閣総理、鄭京擇(チョン・ギョンテク)人民軍総政治局長、金才龍(キム・ジェリョン)党規律部長らが含まれる。
報告書によれば、2022年12月の第8期第6次全員会議の前後に、崔龍海氏を中心とする支配エリート単一後見体制は完成を見た。この過程で、競争者であった趙甬元(チョ・ヨンウォン)組織指導部長兼組織書記の権限は著しく縮小された。趙氏は第8期第5次全員会議で組織指導部長を兼任し、党・軍への影響力拡大を試みたが、崔氏の積極的な対応により抑制されたというのが、報告書で示された見方だ。最近では趙氏の主な公開活動は「地方発展20×10」事業に限定されている。
崔氏を牽制する役割を果たしていた金与正(キム・ヨジョン)氏は、2020年4月に国際社会で「後継者説」が浮上したが、翌2021年1月の第8回党大会で全ての職責から退いた。このことも、崔氏の影響力強化と競争構図の消滅を象徴する動きであったという。
こうした崔氏による「単一後見体制」の確立により、金正恩政権初期に見られた権力闘争と大規模な粛清は事実上終了したという。報告書は、2017年の崔龍海氏の組織指導部長任命を契機に、粛清政治が事実上消滅したと指摘している。
代表的な事例として、2023年の干拓地浸水被害復旧現場で金正恩氏から「政治未熟児」と痛烈に非難された当時の内閣総理・金徳訓氏が健在であることや、軍事偵察衛星打ち上げ任務に失敗した国家非常設宇宙科学技術委員長・朴泰成氏に追加の実験機会が与えられたことが挙げられた。これらは、かつてのような失敗や不満に対する即時の粛清が行われなくなった証左だとしている。
イ・スンヨル調査官は、崔龍海氏が現在、公の場での活動を最小限に控え、「見えざる手」として金正恩氏の統治行為を支えていると指摘する。
しかし、イ調査官はこの安定が長期的に維持されるかについて懸念を示している。非公式組織が公式化され、単一の後見人を頂点とする体制は、政治的柔軟性とエリート間の牽制・監視機能を著しく低下させた。これにより、北朝鮮首領体制の統治原理である「抑制と監視による統制」が制限されるという逆説的状況が生じているのだという。
さらに、この「単一後見体制」の成立は金正恩総書記自身が事実上容認した結果であると分析された。この容認の背景には、金正恩氏の権力運営能力が父・金正日氏と比べて劣っているという事情があるとされた。
イ調査官はこうした権力構造が、「今のところは問題ないが、将来的には相当な不安定要因となり、金正恩氏が首領体制を運営する上でかなりの障害要因に変わる可能性が高い。その拡張を事実上容認したのは金正恩氏であり、権力運営ノウハウがかなり劣っていると見なければならない」と指摘した。
結論として、報告書は今後の北朝鮮体制の将来を決定する主要な変数として、金正恩氏の持つ正統性と、崔龍海氏の実行力の安定的な持続が維持できるかどうかにかかっていると強調した。このバランスが崩れることは、体制の深刻な不安定化につながる可能性が高いとしている。