金正恩総書記に人民が駆け寄り、涙を流しつつ歓喜の意を全身で表し、記念撮影に臨む――北朝鮮国営メディアで頻繁に報じられる場面である。

しかし、誰もが金正恩氏のそばに近づけるわけではない。

厳格な思想審査を通過し、政権に忠誠を誓うと認定された「選抜者」のみが、その栄誉を得る。この者たちは「1号接見者」と呼ばれ、社会的成功、地位向上へのパスを手にする。だが今回、その1号接見者多数が保衛部(秘密警察)に拘束される異例の事態が発生した。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

先月15日、故金日成主席の生誕記念日(4・15節、太陽節)に合わせ、和盛(ファソン)地区第3段階1万世帯住宅の竣工式が行われた。金正恩氏が進める象徴的プロジェクトである。同地域の建設には地方住民の労働力が動員され、飢餓に苦しむ地方の犠牲の上に、タワマン群が建設されたのだ。

式典では、金正恩氏が住民と握手、抱擁する光景が演出された。これら住民は、通りかかった人ではなく、いずれも式典の10日前から秘密裏に入場証を受け取り、1号接見者として指名された者たちである。

接見に際し、次の厳格な行動指針が示された。

◯自ら元帥様(金正恩氏)に飛びつかない
◯握手の際は力を入れず、軽く触れるにとどめる
◯発言は丁寧にし、極力控える
◯元帥様が発言する前に口を開かない
◯発話時に唾を飛ばさない
◯元帥様のお嬢様を驚かせない

黒いスーツとサングラス姿の長身男性、すなわち警護員と見られる者たちが、平壌市保衛部において接見者一人ひとりの身体検査を実施し、行動指針を数日間にわたり反復学習させた。加えて、金正恩氏の至近距離で不審行動を取れば容赦しないとの警告が発せられた。

さらに、秘密保持契約書への署名も義務付けられた。金正恩氏に関する情報は国家最高機密とされ、外部漏洩は重大な制裁対象となる。同氏に健康異常説が浮上すれば、国家の安定すら脅かされかねない。

このような緊張状態において、圧迫感を感じない者は皆無であった。中には極度の緊張から過呼吸や呼吸困難に陥り、冷静さを失って交代させられる事例も報告されている。

情報筋によれば、「第1号行事において元帥様を至近距離で拝見した住民たちは、警護員の指針に従おうと極度に緊張し、心臓が締めつけられるような感覚に陥った」と証言している。

それにもかかわらず、一部の高齢者や女性が「金正恩氏が発言する前に口を開いた」「距離を詰めすぎた」等の行動指針違反を犯し、保衛部に連行された。

違反者らは拷問をされた上で管理所(政治犯収容所)送りになったわけではないが、こっぴどく叱られ、20枚に及ぶ反省文の提出を求められたうえで釈放された。さぞかし肝を冷やしたことだろう。

なお、竣工式終了後、1号接見者らには食料品セットとベルベット素材の女性用布地1反、男性用スーツ地1反が贈与された。さらに秘密保持の徹底を改めて保衛部から強調されたという。

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