北朝鮮の首都・平壌では、市内東部に位置する大城(テソン)区域と三石(サムソク)区域を結ぶ新たな大通りの建設が始まるとの情報が飛び交っている。これに対し、一部の住民からは懸念の声が上がっている。
平壌の情報筋によれば、金正恩総書記が主導し2021年から推進されてきた「毎年1万世帯ずつ5年間で5万世帯の住宅を平壌に建設する」という大規模プロジェクトは、本来であれば今年で完了するはずであった。しかし、なおも工事が継続するとの噂が広まっているという。
今年2月には、金正恩氏が出席するなか、最後の1万世帯住宅を建設する和盛(ファソン)地区第4段階の起工式が執り行われた。また、先月には第3段階1万世帯住宅の竣工式も開催された。
このプロジェクトは終盤を迎えたかに思われたが、「和盛通りと繋がり、大城区域から三石区域まで延びる新たな大通りの建設が始まる」との情報が出回っている。第1段階では、大城区域の大城洞(テソンドン)、安鶴洞(アナクトン)、高山洞(コサンドン)を通る区間を完成させ、次に三石区域まで延長する計画とされる。
この情報に対し、大城区域周辺に居住する住民は歓喜している。一方、過去5年間、昼夜を問わず住宅建設に動員され、各種物資の提供を強いられてきた他区域の住民は、「再び数年間にわたって住宅建設に振り回され、苦痛を強いられるのではないか。もう勘弁してほしい」とため息をついているという。
徹底した身分社会である北朝鮮において、「選ばれし者」である平壌市民の間にも超えられない壁が存在する。中心部は「30号対象」と呼ばれ、配給や電力供給などで優遇されている。
大城区域においても、故金日成主席と故金正日総書記の遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿や、最高学府の金日成総合大学など重要機関が存在する地域は「30号対象」であるが、それ以外の地域は「410号対象」である。
これら「410号対象」の地域は交通の便が悪く、市内職場への通勤も不便である。通常時の配給や名節(お祝いの日)の特別配給においても、市内中心部との差は大きい。このため、大通りの建設によって「30号対象」に格上げされるかもしれないとの期待から、住民は喜んでいるのである。
平壌の別の情報筋は、「まだ家を所有していないか、新居に入居する余裕のある人々は、新しい大通りの建設を歓迎するかもしれないが、大多数の住民は好意的に受け止めていない」と述べた。
この計画は前述の和盛地区第4段階の起工式で発表され、最近になって具体的な計画内容が市内に広まりつつある。今後、再び建設作業に動員され、長期間振り回されることを懸念する声が高まっている。
平壌市民は、住宅建設のため市内中心部から遠く離れた和盛地区および松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区まで頻繁に通わされ、数年間にわたって労働に従事させられた。この経験が、今回の新たな建設計画に対する不安の背景となっている。
「三石区域方向に延びる新たな大通りの建設がどの程度の期間を要するのかは誰にも分からず、市民は和盛地区よりさらに遠く、交通の不便な地域を頻繁に行き来しながら住宅建設に動員されるのではないかと懸念している」と情報筋は語った。
タワーマンションが立ち並ぶ平壌市中心部であるが、意外にも老朽化した平屋が密集する地域が存在する。
松新・松花地区もかつて同様の状況であったが、それより市内寄りにも同様の地域が複数存在する。情報筋は、「平壌市中心部にも、老朽化し密集した平屋住宅が蟻の巣のようにひしめく地域が複数存在する。こうした地域を再開発せず、なぜ外郭に向けて市街地の拡張を続けるのか理解に苦しむ」と不満を述べた。
中心部に比較的近い地域を再開発すれば、老朽住宅に住む住民にとっても利点があり、平壌の景観も大きく改善されると考えられる。しかし、もしそのような事業が実施されれば、結局はさらなる勤労動員によって市民の苦労が続くことになる。この点について情報筋は言及していない。