「ポリッコゲ」ーーー朝鮮語で「麦の峠」を意味する。前年の収穫の蓄えが底をつき、初夏の麦の収穫まで飢えに苦しむ「春窮」のことを指す。

そんな状況に必死に堪えている北朝鮮の農民たちは、「生産ノルマを達成しろ」と迫る農場幹部にうんざりしている。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

現在、金野(クミャ)郡のある農場では、所属する農民の半数以上が1日1食にもまともにありつけていない。いわゆる「絶糧世帯」にほぼ近い状態だろう。

農民にとっては最もつらい時期だが、空気を読めない幹部のせいで、不平や不満が募っているという。

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情報筋によれば、農繁期に突入した現在、郡内の各農場では朝鮮労働党の里(リ、村の意味)の朝鮮労働党書記、農場の管理委員長、技師長ら幹部が連日現場に出向き、作業班長や分組長(小班のリーダー)を集めて生産計画(ノルマ)達成を強調する会議を行っている。

ある農場では、管理委員長が作業班長と分組長を呼びつけ、「一心団結して今年の農業生産計画を必ずや完遂せねばならない」とプレッシャーをかけた。

この管理委員長は作業班長と分組長に対し、「生産計画を達成すれば秋には分配の取り分が増えると作業班員や分組員に伝えよ」と指示した。しかし、この言葉を聞いた農民たちの反応は冷ややかそのものであった。

北朝鮮の農場は、かろうじて運営されているが、農民の生活は日に日に厳しくなり、改善の兆しはまったくない。そのため、献身や忠誠を強調する言葉には嘲笑が起きるとのことだ。

情報筋は、「農民たちは学習や講演会でおとなしく聞いているふりをするが、畑で働いている最中にまで献身や忠誠を強要されることには一様に不満を漏らしている」と語った。

かつては「収穫物をふんだんに分配する」との言葉で、農民たちのモチベーションを上げていたが、汗水垂らして働いても、取れた穀物は国や軍に徴発され、手元にはほとんど残らない。そんな状況がやる気を削いでいるのだ。

「今ではそんな甘い言葉に騙される者はいない」(情報筋)

農民の反応は嘲笑、冷笑にはとどまらず、作業班長や分組長への怒りとして現れている。農民たちは、幹部の言葉を上から下へと受け流す作業班長や分組長を「無能」と評価しているという。

実際、生産計画達成と分配を強調する管理委員長の言葉をそっくりそのまま伝えた某分組長は、農民から、「今の状況でそんな話なんか聞いてられるか」「釜の蓋を開けても何も入ってないというのに、そんな馬鹿げた話があるか」との怒声を浴びせられたとのことだ。

情報筋は「状況をうまく判断し、うまく伝えることも分組長の能力と見なされる雰囲気である」と述べた。そして、「空腹で働くのはつらい上に、こうして働いても何の見返りもないことを皆が知っている。働かざるを得ない身の上を嘆きつつ、日々を何とか耐えしのぐのが、ここ(北朝鮮)の農民の現実だ」と語った。

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