中国との国境に面する北朝鮮・新義州市にある百貨店で、20代女性店員による大規模な横流し事件が発覚し、波紋を広げている。横領や横流しが横行する北朝鮮において、今回の件が特に注目を集めたのは、その巧妙な手口にある。
事件の主役は、新義州百貨店の子ども用品売り場で勤務していた20代の女性店員キム氏(仮名)だ。百貨店の売上管理担当者が、売り場ごとの5月分の売上を集計する中で、キム氏の勤務時間帯に限り、販売記録、在庫、決算内容の間に繰り返し不一致が生じていることに気づき、不正が発覚した。
百貨店側は2週間にわたり各階に監視カメラを設置。その映像を分析した結果、キム氏が勤務中に商品を自ら決済し、持ち出す姿が複数回確認された。
キム氏は、高価な子ども用おもちゃや輸入菓子、おむつなどを、自分が必要として購入したかのように見せかけて電子決済カードで決済し、その売上金を少しずつ家族や知人名義の電子カードにチャージしていたという。
情報筋によると、これは「長年働いてきた他の販売員たちでも思いつかなかった巧妙な手法」であり、「百貨店の試算では被害総額は1200万北朝鮮ウォン(約5万610円)に達する」という。これはコメ換算で約863キロに相当する。
百貨店側はキム氏を呼び出し追及。その結果、彼女が商品を中古市場に転売して私的利益を得ていたことが明らかになった。
当初キム氏は、「ミスだった。全額返済する」と反省の意を示し、百貨店側も反省文の提出で穏便に済ませようとしていた。
「思想闘争舞台に立ちます。処罰されればそれで済む話じゃないですか」
これは自己批判をさせる公開の「吊し上げ」の場を意味するが、彼女はそれにすら反抗するような態度を示したのだ。
この態度を重く見た百貨店側は、新義州市の安全部(警察)に通報し、さらに事件は朝鮮労働党新義州市委員会にまで報告される事態となった。
これにより、キム氏だけでなく、彼女の売り場があるフロアの責任者は即時解任され、経営部幹部2名は減俸処分、さらに問題を発見した経理担当者まで処罰対象となった。
党委員会はこの事件を「見せしめ思想事件」と位置づけ、物資管理の担当幹部に対する思想教育を緊急に実施するよう指示。委員会内部では強い非難の声も上がったとされる。
一方、百貨店ではその後、電算システムの再点検と在庫調査が実施され、電子決済の一時停止と関連機器の交換も行われた。
その後、キム氏は安全部に身柄を引き渡されたが、予想に反して寛大な処分が検討されているという。
情報筋はその理由について次のように述べた。
「キム氏の親戚に地方の主要機関に勤める幹部がいて、両親も司法当局にコネを使い、『全額弁済するので、今回は見逃してほしい』と懇願しているためだ」