北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)が、中国への情報流出事件を受け、国内の行政・教育機関に対する情報通信監視を強化していることが明らかになった。デイリーNK現地情報筋によると、先月中旬から今月1日にかけて、平安北道の主要機関を対象に、国家資料通信網(イントラネット)の利用記録や電子メールの送受信履歴を抜き打ちで検査する大規模な「緊急検閲」が行われた。

国家資料通信網は、中央と地方の一部行政機関や大学、研究所でのみ利用される閉鎖型ネットワークで、政策指示や業務報告書のやり取りに用いられる。

今回の検閲のきっかけとなったのは、6月初旬に発覚した情報流出未遂事件だ。平安北道に住む40代男性の貿易会社幹部A氏が、国家から下達された行政・教育関連文書を記録媒体に保存し、輸出品に紛れ込ませて中国側取引先に渡そうとしたところ、当局に摘発された。

この中国側取引先の背後に、中国の情報当局がいるのか、あるいは第三国の機関がいるのは定かではない。だが、中朝関係は冷え切っており、中国当局による情報収集であったとしても不思議ではない。

流出しようとしたデータには、道人民委員会各部の上半期行政指示や内閣による事業計画、下半期教育資料など、国家運営に関わる詳細な情報が含まれていた。保衛省は、これらの資料が国家資料通信網から不正にダウンロードされたと断定。直ちに接続履歴や資料閲覧記録、保存経路の調査に乗り出した。

検閲の結果、権限のない部門や個人による資料閲覧、無許可の複製や外部保存、反復的なデータコピーなど数十件の規則違反が確認された。報告書では、A氏がどのようにして他部署の通信網にアクセスし、資料を入手・複写できたのかという管理体制の脆弱性も指摘された。

この「利用実態総合報告書」は2日に中央党へ提出され、違反した機関名や責任者名が列挙された。保衛省は、情報管理の不備に対しては機関責任者にも党籍・行政・法的責任を問う方針を明示しており、今後、関係者への懲罰措置が取られる見通しだ。

検閲後、平安北道の行政・教育機関では「通信網への接続を極力減らし、報告書は直接手渡す」という保守的な運用が広まりつつある。利便性や効率は低下するものの、情報流出の防止が優先される状況だという。

一方、現地では貿易関係者への不信感が高まっている。情報筋によれば、「貿易幹部のせいで、便利だった通信網の利用が制限され、資料を見るのも怖くなった」という声が上がり、「一部の貿易幹部が中国側のためにスパイ行為をしているのではないか」との疑念も広がっている。

北朝鮮当局が今回の検閲を通じて示したのは、外部勢力、特に中国による情報収集への強い警戒心だ。今後、国家資料通信網の利用はさらに制限され、監視と統制が一層厳格化するとみられる。

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