北朝鮮南西部・黄海南道海州市で、軍向けに生産された水産加工品を大規模に横流ししていたとして、朝鮮人民軍傘下の水産事業所幹部らに対する公開裁判が今月中旬に行われた。背景には慢性的な軍の食糧不足と配給制度の崩壊があり、前線兵士の間で栄養失調が深刻化する一方、軍幹部らも生活苦から不正に手を染めざるを得ない実態が浮かび上がっている。

デイリーNKの現地消息筋によると、問題となったのは人民軍傘下の水産事業所で軍納用として生産された「イカ塩辛」「牡蠣塩辛」「エビ醤油」など数十トン規模の加工品。これらは本来、軍の商店を通じて兵士向けに供給される予定だったが、今年1月ごろから市場に大量流出していたことが発覚した。

関係者らは、高価な塩辛製品を粗悪品にすり替えるなど大胆な手口を用い、人気商品を闇市場の有力商人へ転売。帳簿上は「輸送中の破損」や「変質による廃棄」と虚偽報告していたという。得られた資金は私腹を肥やすだけでなく、上級幹部への口止め用賄賂にも流れていたとされる。

特に軍向け祝日配給用の物資にまで手が付けられていたことから、当局は「反国家的犯罪」と位置付け、道検察所が約3カ月にわたり捜査を進めていた。公開裁判には事業所幹部だけでなく、横流し品を受け取った市場商人らも引き出された。

現場では住民らが被告人に対し「兵士と人民の口に入る食糧を盗んだ」と激しく罵声を浴びせ、軍関係者からも怒りの声が上がったという。一部被告には無期教化刑に近い極刑判決が言い渡され、会場は重苦しい空気に包まれたとされる。

ただ、北朝鮮内部事情に詳しい消息筋は、「問題は単なる腐敗ではない」と指摘する。近年、北朝鮮軍では食糧の横流しがほぼ常態化しており、末端兵士への配給量は著しく減少。部隊によっては兵士らが慢性的な空腹状態に置かれ、栄養失調が相次いでいるという。

一方で、横流しに関与する軍幹部側も十分な配給や給与を受けているわけではなく、家族を養うことが難しい状況が続いているとされる。ある脱北軍関係者は「幹部たちも生き残るために軍需物資や食糧の流用に手を染める悪循環が広がっている」と証言している。

金正恩政権は近年、「軍紀粛正」や「反社会主義・反国家闘争」を強調し、不正摘発を公開裁判という形で見せしめ化している。しかし、経済難と配給崩壊が続く限り、軍内部の腐敗と兵士の飢餓は解消されないだろう。

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