アサヒビールが2月末から発売する予定のノンアルコールビールテイスト飲料「ドライゼロ(写真左)」が業界に波紋を広げている。
「細心の注意を払いノンアルコールビール市場を作り上げてきた立場として、非常に懸念している」(松沢幸一・キリンビール社長)「市場の健全な発展を阻害する」(相場康則・サントリー酒類社長)と、同業他社のトップから異例の物言いがついたのだ。
理由は単純明快。このドライゼロがアサヒの看板商品「アサヒスーパードライ(写真右)」にそっくりだからである。
そもそもノンアルコールビールテイスト飲料は、飲酒運転防止を念頭に置いて発売された。ところが、妊産婦などアルコールが飲めない客や、昼間の“ノンアルコール”飲み会など、当初は想定しなかった需要も取り込み、市場は急成長した。
ただ、この“ビール味の清涼飲料水”には問題もあった。ノンアルコールビールと間違えて本物のビールを飲んでしまう誤飲の可能性である。これを懸念した消費者団体は、ノンアルコールビールとビールは、デザインやブランドコンセプト、販売方法を明確に区別するなどの要望を業界に出し、業界もそれを守ってきた経緯がある。 ノンアルコールビールの商品デザインやブランドについて、業界団体等で明文化された申し合わせ等は無い。ただ、先行するキリン、サントリーは、大手5社が加盟するビール酒造組合が決めた「酒類の広告・宣伝および酒類容器の表示に関する自主基準」中の、「酒類の容器又は包装の表示に際しては、清涼飲料、果実飲料等の酒類以外の飲料と誤認されないよう、色彩、絵柄等に配意する」という規定を元に、ノンアルコールビールに関してはデザイン面でも既存のビール商品と極力類似しない製品を意識的に発売してきた経緯がある。
そこにアサヒの看板ブランド「スーパードライ」に瓜二つに見える「ドライゼロ」が出たことで、業界首脳による他社批判という異例の事態が起こったのだ。
「ドライゼロ」発売の発表を受け、大手消費者団体のアルコール薬物問題全国市民協会は1月10日、国税庁、消費者庁、酒類業界団体などに緊急要望書を送付。同協会の今成知美代表は「これが許されるのであれば、他社もなし崩しに自社の看板ブランドに酷似したデザインのノンアルコールビールテイスト飲料を出してくることは明らか。
なぜアサヒは議論を呼びそうなリスクを犯してまでこうした新製品の投入に踏み切ったのか。「最後発のアサヒは確信犯的に禁を破ったとしか思えない」(ビール大手幹部)との憶測も飛んでいる。今、ノンアルコールビールテイスト飲料はビール業界にとって数少ない「成長市場」だからだ。
2011年、サントリーのノンアルコールビール「オールフリー」は、前年比292%増の587万ケース(大瓶換算)売れ、看板商品のザ・プレミアム・モルツの売上高のおよそ4割にまで達した。サッポロビールの「プレミアムアルコールフリー」も、震災直後の発売でほとんど広告を打たなかったのに、目標のほぼ倍の112万ケースが売れた。
市場全体で見ても、2011年はビール類が4%減ったのに対し、ノンアルコールビールテイスト飲料は20%の増加。2012年も同様にビール類が3%減少するのに対し、ノンアルコールビールテイスト飲料は12%増加することが見込まれている(キリンビール推計)。この市場で売り上げを伸ばすことはまさしく、各社の業績向上に直結するのである。
世界では、酒類の販売や広告宣伝の方法が法律で厳格に規制されている国が多い。対して日本の酒に関する規制は、世界からみれば比較的緩やかと言われる。業界団体などが自主規制を作り、それを守ることで法規制を免れてきたからだ。
「業界の自制が崩れれば、ノンアルコールビールテイスト飲料というせっかくの成長市場になんらかの法的規制がかかる可能性がある」と、大手ビールメーカー幹部は気をもむ。
渦中のアサヒは「『ドライゼロ』は缶体中央に商品名より大きく”ノンアルコール”の文字を配し、上部にも”アルコール0.00”と目立つように帯を入れる。ビールにも缶体に”お酒”マークを2月から入れる予定となっており誤飲の可能性はない」とコメントしている。
伸び盛りのノンアルコールビールテイスト市場を巡る戦いは、新年早々波乱含みの展開になりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)
「細心の注意を払いノンアルコールビール市場を作り上げてきた立場として、非常に懸念している」(松沢幸一・キリンビール社長)「市場の健全な発展を阻害する」(相場康則・サントリー酒類社長)と、同業他社のトップから異例の物言いがついたのだ。
理由は単純明快。このドライゼロがアサヒの看板商品「アサヒスーパードライ(写真右)」にそっくりだからである。
そもそもノンアルコールビールテイスト飲料は、飲酒運転防止を念頭に置いて発売された。ところが、妊産婦などアルコールが飲めない客や、昼間の“ノンアルコール”飲み会など、当初は想定しなかった需要も取り込み、市場は急成長した。
ただ、この“ビール味の清涼飲料水”には問題もあった。ノンアルコールビールと間違えて本物のビールを飲んでしまう誤飲の可能性である。これを懸念した消費者団体は、ノンアルコールビールとビールは、デザインやブランドコンセプト、販売方法を明確に区別するなどの要望を業界に出し、業界もそれを守ってきた経緯がある。 ノンアルコールビールの商品デザインやブランドについて、業界団体等で明文化された申し合わせ等は無い。ただ、先行するキリン、サントリーは、大手5社が加盟するビール酒造組合が決めた「酒類の広告・宣伝および酒類容器の表示に関する自主基準」中の、「酒類の容器又は包装の表示に際しては、清涼飲料、果実飲料等の酒類以外の飲料と誤認されないよう、色彩、絵柄等に配意する」という規定を元に、ノンアルコールビールに関してはデザイン面でも既存のビール商品と極力類似しない製品を意識的に発売してきた経緯がある。
そこにアサヒの看板ブランド「スーパードライ」に瓜二つに見える「ドライゼロ」が出たことで、業界首脳による他社批判という異例の事態が起こったのだ。
「ドライゼロ」発売の発表を受け、大手消費者団体のアルコール薬物問題全国市民協会は1月10日、国税庁、消費者庁、酒類業界団体などに緊急要望書を送付。同協会の今成知美代表は「これが許されるのであれば、他社もなし崩しに自社の看板ブランドに酷似したデザインのノンアルコールビールテイスト飲料を出してくることは明らか。
アサヒには早急にデザインを変更してほしいと要求している」と話す。
なぜアサヒは議論を呼びそうなリスクを犯してまでこうした新製品の投入に踏み切ったのか。「最後発のアサヒは確信犯的に禁を破ったとしか思えない」(ビール大手幹部)との憶測も飛んでいる。今、ノンアルコールビールテイスト飲料はビール業界にとって数少ない「成長市場」だからだ。
2011年、サントリーのノンアルコールビール「オールフリー」は、前年比292%増の587万ケース(大瓶換算)売れ、看板商品のザ・プレミアム・モルツの売上高のおよそ4割にまで達した。サッポロビールの「プレミアムアルコールフリー」も、震災直後の発売でほとんど広告を打たなかったのに、目標のほぼ倍の112万ケースが売れた。
市場全体で見ても、2011年はビール類が4%減ったのに対し、ノンアルコールビールテイスト飲料は20%の増加。2012年も同様にビール類が3%減少するのに対し、ノンアルコールビールテイスト飲料は12%増加することが見込まれている(キリンビール推計)。この市場で売り上げを伸ばすことはまさしく、各社の業績向上に直結するのである。
世界では、酒類の販売や広告宣伝の方法が法律で厳格に規制されている国が多い。対して日本の酒に関する規制は、世界からみれば比較的緩やかと言われる。業界団体などが自主規制を作り、それを守ることで法規制を免れてきたからだ。
「業界の自制が崩れれば、ノンアルコールビールテイスト飲料というせっかくの成長市場になんらかの法的規制がかかる可能性がある」と、大手ビールメーカー幹部は気をもむ。
渦中のアサヒは「『ドライゼロ』は缶体中央に商品名より大きく”ノンアルコール”の文字を配し、上部にも”アルコール0.00”と目立つように帯を入れる。ビールにも缶体に”お酒”マークを2月から入れる予定となっており誤飲の可能性はない」とコメントしている。
伸び盛りのノンアルコールビールテイスト市場を巡る戦いは、新年早々波乱含みの展開になりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)
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