年収が上がった喜びよりも、下がった痛みの方が、ずっと大きい。人間は、同額の利益と損失があった場合、損失の方に心をより強く揺さぶられるものである――。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が、自身のプロスペクト理論の中で、そう指摘している。

 今回は、前回の「年収が上がった会社ランキング」に続き、直近の3月期決算も反映した最新版「年収が下がった会社ランキング」を取り上げてみたい。

 直近と前期の平均年収の金額を比較して、減った会社をランキングした。単体の従業員数が50人以上の会社が対象である。前期比で従業員数が20%以上増減した会社と、従業員の平均年齢が2歳以上、上下した会社は除外した。

上位10社のうち電通など3社が減益決算
アイビー、シンバイオの2社は赤字

 平均年収の減少金額で上位10社を見ると、10位となった電通(前期比92万円減の年収1179万円)を含め、3社が直近で減益決算だった。2社は赤字だった。

 1位の日比谷総合設備は、138万円減の686万円。同社の年収の一部は「営業利益にリンクしている」(IR・広報室)。19年3月期の営業利益は前期比35.4%減の20億円だった。これを受けて、平均年収は16.8%削られた。

 ただ、業績が好調な時期は、多額の報酬が支払われている。

56億円の営業利益を稼いだ17年3月期の平均年収は916万円だった。

 5位のクロスフォーは、115万円減の394万円。山梨県に本社がある会社で、宝石の輸入や製造・販売を手掛けている。

 同社は平均年収の大幅減額について「若い社員を多く採った影響によるものだ」と強調する。18年7月期末時点の従業員数は前期比11人増の77人。ただ、平均年齢は34.2歳と0.2歳しか若くなっていない。

 年収の前期比減少率は、上位10社の中で最も大きい22.6%だった。2年前に新規上場したが、18年7月期の直近決算で減収減益に沈み、株価も低迷中だ。社員の痛みを伴う大幅減額は、業績面の影響がかなり大きかったとみられる。

 2位のアイビー化粧品は、125万円減の452万円。19年3月期は、美容液の売り上げ低迷や生産調整によるコスト増が響き、純損益は10億円の赤字転落(単体ベース)。年収は前期比で21.7%も減少した。

同社の担当者は「冬の賞与がなかったことが響いた」と話す。

 4位のシンバイオ製薬は、118万円減の1076万円。同社は、他社から希少疾患の新薬候補となる物質を導入し、開発と製品化に取り組んでいる。業績は、10年連続で純損益が赤字となっており、年収との連動性はあまりない。

 シンバイオは、これまで販売を外部委託してきたが、現在自社の営業組織をゼロから立ち上げようとしている。このため、「比較的年齢の若い中途採用者が増え、その影響で平均年収が下がった」(IR担当者)という。平均年齢は48.9歳で、前期比1.0歳若くなった。

直近決算で増益確保のぴあと平和、
前期の減益で年収減額

 それ以外の5社は、いずれも直近が前期比で増益決算だった。平均年収が100万円以上減ったのは、それぞれ事情があるので確認していこう。

 7位でチケット販売最大手のぴあ(109万円減の655万円)と、8位でパチンコ・パチスロ機大手の平和(107万円減の581万円)は、19年3月期に共に増収増益を確保している。

 両社に確認したところ、賞与が前期の業績に連動する仕組みだった。18年3月期は、いずれも減益となっていた。

 3位で不動産業のビーロット(123万円減の686万円)は、有価証券報告書の注記を確認すると、平均年収の計算に執行役員が含まれていることが分かる。

 直近の18年12月期末は、従業員54人の中に執行役員が2人。一方、その前の期末は48人中、5人も含まれていた(このうち3人はその後取締役に昇格)。同社の広報担当者も年収の減額について「執行役員の人数が減った影響が大きかった」と説明している。

 三菱電機系商社の菱電商事(113万円減の684万円)が6位となったのは、「人事制度の変更によるもの」(IR担当)。同社の平均年収は総合職ベースの数値となっている。賃金水準が高くない女性一般職がなくなり、新たに平均年収の計算対象に含まれた影響が大きかったという。

 9位の神戸天然物化学は100万円減の596万円。18年3月に新規上場したことから「前期は上場記念賞与を出したが、19年3月期はこれがなくなったため」(経営企画室)としている。

(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

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