『週刊ダイヤモンド』7月3日号の第一特集は「ゴルフ復活!」です。コロナ禍でゴルフ人気が復活しています。
異例のトップ人事が固まった瞬間
今からさかのぼることおよそ10年前のことだ。政財界のごく限られた人物しかメンバーになれない日本屈指の名門ゴルフ倶楽部、神奈川県茅ケ崎市のスリーハンドレッドクラブに食品業界の重鎮4人が集った。
その4人とは、サントリーホールディングスの佐治信忠社長(当時、現会長)、日清食品ホールディングスの安藤宏基社長、日本コカコーラの魚谷雅彦会長(当時、現資生堂代表取締役社長兼CEO)、そしてローソンの新浪剛史社長(当時)だ。同クラブのメンバーである佐治氏が、いずれもゴルフ好きの安藤氏、魚谷氏、新浪氏を招いたのだった。
4人のこの日のラウンドはビジネス目的ではなく、純粋にゴルフを楽しむためのもの。そんな中でも佐治氏が目を見張ったのは、新浪氏のゴルフであった。
新浪氏は250ヤードを超える豪快なドライバーショットを放ったかと思えば、グリーン周りでは繊細なアプローチを見せた。グリーンに切られたピンの位置から逆算して組み立てるコースマネジメントもよく練られていた。もちろん、ゴルファーとしてのマナーやエチケットといった振る舞いにも品格が漂っていた。
佐治氏は、自身を上回る80台のスコアで回った新浪氏のプレーに嫉妬するどころか、むしろすがすがしさを感じたのだった。
佐治氏と新浪氏は共に慶應義塾大学の卒業生で、OB組織「慶應三田会」を通じて互いをよく知る仲ではあった。
当時60歳を超えていた佐治氏は、自身の後継者を誰にするか悩んでいた。佐治氏にとって新浪氏は後継候補の一人であり、経営不振のローソンを立て直した新浪氏の経営手腕を高く評価していた。「この人ならサントリーを立派に経営してくれるだろう」。佐治氏の思いは固まった。
そして、あのラウンドから約4年後の2014年。粘り強いアプローチが実を結び、佐治氏はサントリーホールディングスのかじ取りを新浪氏に託すサプライズ人事を発表したのだった。