2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」。

 SDGsの認知度の向上とともに、企業の取り組みへの関心も高まっている。

そこでブランド総合研究所は2021年7月に『企業版SDGs調査2021』を実施した。同社が独自に210社を選出し、各社のSDGs活動が一般消費者にどのくらい認知・理解され、評価されているのかの調査を実施し数値化したものだ。

 今回は、その調査の「SDGsの取り組みの評価が高い業界別ランキング」(※1)から、「紙・化学・繊維」「エネルギー」「建設・不動産」の業種に絞ってランキングを紹介する。

※1 調査を行ったのはブランド総合研究所(調査概要 https://news.tiiki.jp/articles/4685)。アンケートは全国の調査モニターより、年代(20代、30代、40代、50代、60代以上)と性別で均等に回収。2021年7月25日~31日にかけてインターネットで調査を実施した。各企業の回答数をそれぞれ1000人ずつ回収し、不完全回答および信頼性の乏しい回答を除く計1万8403人の有効回答を得た。なお、選出した210社は、原則として消費者が評価しやすいブランド名を優先している。
「あなたは各社がSDGs(持続的な開発目標)への取り組みをしていると思いますか」との設問に対し5段階で回答してもらった結果をもとに点数を算出した。
また、SDGsの17ゴール別の評価やESGにつながる活動への評価などに関する設問もある(詳細は後述)。

【紙・化学・繊維】
花王が1位を獲得
SDGsゴール別で高い評価

 紙・化学・繊維業界では、花王が1位(18.7点)、2位はブリヂストン(17.4点)、3位にユニ・チャーム(16.0)がランクインした。

 この分野は事業内容が多岐にわたっているため、すべての企業、ブランドを同じ業種として比較することが少し強引とも捉えられるかもしれない。

実際に、消費者からの評価は各社によって特徴が表れている。

 SDGsのゴール別評価を見ると、花王は「ゴール3:すべての人に健康と福祉を」で210社中で9位(12.5%)、「ゴール12:作る責任、使う責任」は14位(8.2%)、「ゴール6:安全な水とトイレを世界中に」が5位(7.5%)と評価が高い。「ゴール14:海の豊かさを守ろう」では2位(4.7%)にランクインしている。つまり、消費者の安全・安心な生活面での視点において高い評価が得られている。

 一方、ブリヂストンは、「ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう」が17位(11.6%)、「ゴール12:作る責任、使う責任」では全業種で2位(10.3%)と、製造技術面での評価が高くなっている(※2)。

※2 「SDGsのゴール別評価」については、SDGsで設定されている17のゴールそれぞれについて、「各社が取り組んでいると思うもの」を選んでもらった(複数回答可)。本記事の表には記していない。

 ブランド総合研究所の田中章雄社長は、「花王は、独自のESG(環境・社会・企業統治)戦略に基づいて、サステナビリティの取り組みを強化している。微小プラスチックのマイクロビーズを天然由来の代替材料に変更するなど、海洋プラスチックごみ問題への対策が高い評価につながっている」としている。

 ユニ・チャームに関しては、「女性が活躍している」で4位(12.6%)と高いほか、「ゴール3:すべての人に健康と福祉を」は9.9%で、この業界グループでは1位(全体では16位)と評価が高い。

「ジェンダー平等」で
ワコールがダントツ1位

 これら3社以外で、SDGsのゴール別において特色が表れている企業を見てみよう。TOTOは「ゴール6:安全な水とトイレを世界中に」において1位(17.7%)を獲得しており、LIXILが2位(13.2%)と高い評価が集まった。

「ゴール5:ジェンダー平等を実現しよう」では、ワコールが全業種を通して1位(12.0%)、ミズノが2位(8.0%)であった。

「ワコールが唯一2ケタの12.0%と高い評価を得たのは、女性向け下着を展開していることもあり、女性が活躍する土壌が確立されているといえる。2位のスポーツ用品のミズノはスポーツを通じて女性の自己実現につながっていることが評価されたのだろう」と田中社長。

 ESGイメージでも「女性が活躍している」でワコールが1位(20.8%)。4位ユニ・チャーム(12.6%)、8位花王(10.6%)を大きく凌ぐ(※3)。

※3 ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する11の項目について、「各社の企業活動について、あなたの考えやイメージに合うもの」を選んでもらった(複数回答可)。

【エネルギー】
ENEOSが1位
石油・石炭製品業が上位へ

 エネルギー業界は、同カテゴリーの電気・ガス会社よりも石油業が上位にランクインする結果となった。1位になったのはENEOS(18.9点)、2位がコスモ石油(14.1%)である。テレビCMを通して消費者にSDGsに関する取り組みを伝える企業が増えていると考えられる。

 SDGsのゴール別評価では「ゴール7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」で、ENEOSが全業種を通じて1位(23.0%)となった。2位が東北電力(20.8%)、5位関西電力(16.8%)、6位出光興産(16.7%)、7位コスモ石油(15.7%)、8位東京電力(14.8%)、9位東京ガス(14.2%)と上位を独占し、業種別では平均14.6%と最も高い数値である。

 田中社長は、「ENEOS、東北電力などエネルギー企業が上位に入った。

石油・石炭のような化石燃料から再生エネルギーによる脱酸素社会への移行に、多くの人たちが期待しているのだろう」と述べる。

 また、「ゴール13:気候変動に具体的な対策を」への評価も最も高い業種だ。気候変動への対応は業界や企業に問わず喫緊の課題となっているが、全業種中で3位が東北電力(5.6%)、7位に関西電力(4.7%)、12位がENEOS(4.3%)と続いた。

【建設・不動産】
積水ハウスが1位
住宅設備企業が上位を独占

 一方、建設・不動産業界では、SDGsにおけるまちづくりへとつながる取り組みを行う企業も多い。その中で1位となった企業が積水ハウス(17.0点)、2位が住友林業(16.6点)、3位がトヨタホーム(15.6点)であった。

 SDGsのゴール別評価では「ゴール11:住み続けられるまちづくりを」は全業種で上位を占めている。1位は積水ハウス(21.5%)、2位が大和ハウス(18.4%)、3位にミサワホーム(18.1%)である。そして、4位から13位まで建設・不動産業界が独占した。

 田中社長は、「住宅設備企業が上位を占めているだけではなく、大林組、大成建設、清水建設のような大手ゼネコンが名を連ねている。住宅設備や不動産、建設などの企業は、街の再開発などにも関わり、ゴール11への期待が高いのはうなずける」と話す。

「ゴール12:作る責任、使う責任」においても、業界別結果では平均6.4%と建設・不動産業が最も高い。8位に積水ハウス(8.8%)、12位に大和ハウス工業(8.2%)、16位に清水建設(8.1%)が入った。

 良質な建築物の構築に伴い、持続可能な都市づくりへ貢献する取り組みが、一般消費者へも届いていると評価できる。

テレビ・新聞・イベントなど
種々の媒体での情報発信が目立つ

 また、建設・不動産はSDGsの情報が最終消費者まで比較的届いている業界でもある(※4)。特に「テレビ番組やニュース」「新聞や雑誌の記事」「イベントや展示会」で最も高い評価を獲得している。

※4 「各社のSDGsに関する情報は主にどこで入手しましたか」の設問に対し、「テレビ番組やニュース」など12の媒体(入手経路)の中から選んでもらった(複数回答可)。本記事の表には記していない。

「テレビ番組やニュース」では、16位の清水ハウス(11.3%)、17位の住友林業(11.2%)、23位の大和ハウス工業(10.9%)が上位にランクインした。いずれも、テレビ番組やニュースなどでSDGsの情報を取り上げられる機会が多い企業ということになる。

 続いて「テレビCM」において、7位に積水ハウス(19.5)、17位にミサワホーム(18.3%)がランクインしている。テレビCMを通じてSDGsに関する取り組みをアピールする企業も増えているようだ。

「イベントや展示会」は、コロナ禍の影響もあり中止や延期を余儀なくされていることが多い。特に建設・不動産業界は、直接目に触れることに対する利点は大きい。今後、イベントや展示会が再開されれば消費者の評価はさらに上がるのではないだろうか。

(フリーライター 西嶋治美)

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