上場企業が非上場化して、株主への配当総額の半分をグループ従業員に配った場合、どれくらい年収を上げられるかをシミュレーションした。今回の対象は愛知県に本社を置く企業で、配当総額は直近の実績ベース(2022年1月12日現在)、対象期間は20年9月期~21年8月期とした。
年収623万円アップを見込める企業も
上場企業は、どれだけの利益を株主に分配しているのか。直近の実績値で配当性向(配当総額÷純利益)を計算したところ、純利益の80%以上を株主に配っている企業が214社に上った。
ローソン、三菱商事、エーザイ、出光興産、東京海上ホールディングス(HD)、キヤノン――。その214社には、日本を代表するそうそうたる顔触れが並ぶ。これに加え、純損益が赤字なのに配当した企業も308社あった。
投資ファンドを筆頭に、株主への分配を増やすよう求める動きは依然として強い。
だが、もし各社が上場を廃止し、利益を従業員に分配すれば、賃上げが原動力となってさらなる成果を発揮する可能性もあるだろう。
そこでダイヤモンド編集部は、愛知県に本社を置く企業が非上場化して株主への分配一辺倒ではなくなり、配当総額の半分をグループ従業員に配った場合の「年収上昇可能金額」を試算した。
その結果、年収を100万円以上も上げられる企業が7社に上った。中には、600万円以上の賃上げが可能な企業もあった。一方、世界の自動車業界をリードする“絶対王者”であるトヨタ自動車はトップ5から外れた。
非上場企業になれば、経営者も株主の目を気にせず、従業員が納得できる給料を支払うことができるようになるかもしれない。
年収が「非上場化」で上がる会社ランキング【愛知県】で1位となったのは、中古車オークションを運営するユー・エス・エスだ。年収上昇可能金額は623.7万円と、ランキングの中でも頭一つ抜けていた。
ユー・エス・エスは1980年に設立。運営するオークションでは、複数の会場をインターネットや衛星テレビ回線でつなぎ、顧客が遠隔地から欲しい車に入札できる仕組みを取り入れている。全国展開している中古車買い取りチェーン「ラビット」も、同社の傘下だ。
2位はコメダHDで、203.9万円増だった。同社は、カフェチェーン「コメダ珈琲店」の運営企業を率いる持ち株会社である。
コメダ珈琲店で新メニューがヒットしたほか、テレビ番組などで取り上げられる機会が増えたことで、コメダHDの2021年3~11月期の連結業績は増収増益と好調。飲食業界全体が新型コロナウイルス禍の影響を受ける中、同社は“勝ち組”の座を確固たるものにしている。
3位には、フジミインコーポレーテッドがランクイン。半導体ICチップの表面加工などに使われる「研磨剤」の専門メーカーで、米インテルとも取引のある実力派だ。
それ以降の順位も見てみよう。4位にトビラシステムズ(115.5万円増)、5位にダイセキ(115.2万円増)が続いた。
今回のランキングでは、単体ベースの平均年収も載せた。例えば、首位のユー・エス・エスは616.9万円だ。各社は有価証券報告書の中で、平均年収を公開している。
ただし、記載されているのは単体ベースの数字のみ。この金額は各社の年収の相場観をつかむためのものであり、あくまで参考値として見てほしい。
また今回の試算で、配当総額を単体ではなく連結従業員数で割った理由についても解説しておこう。持ち株会社制に移行した企業の場合、連結に比べ単体従業員数が極端に少なくなるケースが多いのだ。
2位のコメダHDを例に説明すると、連結従業員数441人に対し、単体はわずか8人である。配当総額18億円の半額をたった8人で割ったのでは、年収上昇可能金額として明らかに不適切だと判断した。
ランキング完全版では、トヨタ自動車を含む6位以下の全150社の顔ぶれと年収上昇可能金額、配当総額、単体の平均年収を掲載している。
さらに、年収上昇可能金額が50万円を超えた27社を抽出し、業種別の動向も整理している。ぜひ確認してみてほしい。