上場企業が社外取締役に、アナウンサーやスポーツ選手らを起用するケースが相次いでいます。「お飾り」との指摘が上がることもある“タレント社外取”に、企業は報酬をいくら支払っているのでしょうか。
「国際性」と「サステナ」に専門性
安倍元首相に“食い込んだ”記者が社外取締役に――。コーヒーチェーンを展開するドトール・日レスホールディングスは5月28日、元NHK政治部記者で、フリージャーナリストの岩田明子氏を社外取に起用した。岩田氏は、故安倍晋三元首相に最も食い込んだ特ダネ記者として知られる。
同社は株主総会招集通知の中で、岩田氏を起用する理由をこう説明している。「メディアを中心に、過去及び現在幅広く活躍しており、当社グループの事業に対する専門的知見を有する取締役とは異なる新鮮な視点で当社の経営を監督し(ていただく)」。
同社が公表した、取締役の知見や経験などを示す「スキルマトリックス」では、岩田氏は「国際性」と「ESG・サステナビリティ」に専門性があるとしている。
近年、企業が岩田氏のような著名人を社外取に起用する動きが加速している。ダイヤモンド編集部では、1万590人いる社外取(2022年12月期~23年11月期の有価証券報告書記載ベース)をチェックし、有名人をピックアップし、報酬額を独自に試算した。複数の企業の社外取を兼務している場合は、全社の金額を合算して実際に受け取っている報酬額に近づけた。
報酬額が多かった10人の顔触れと実額を見ていこう。
「サステナ」の専門性が目立つ
JTなどの3社の社外取を兼務する作家の幸田真音氏(73)の推計報酬額は5539万円に上った。JTの社外取は今年退いたものの、在任期間は12年にわたった。兼務している三菱自動車工業の社外取は6月20日の株主総会で再任され、7年目に入っている。三菱自動車が開示したスキルマトリックスによると、幸田氏は「世界情勢や社会・経済動向等に関する識者」に分類されている。
また、フリーアナウンサーの福島敦子氏(62)は不動産大手のヒューリックやカルビー、キユーピー、名古屋鉄道の4社の社外取を兼任し、推計報酬額は計4796万円に上っている。ヒューリックが株主総会招集通知の中で公表しているスキルマトリックスでは、福島氏の代表的なスキルとして「サステナビリティESG」を挙げている。
福島氏のように元アナウンサーやキャスターの社外取のスキルには、サステナビリティやESGといったものが目立つ。
元フジテレビアナウンサーで弁護士の菊間千乃氏(52)の推計報酬額は4635万円。コーセーや、繊維商社のタキヒヨー、マネーフォワードなど5社の社外取を兼務する。マネーフォワードが開示するスキルマトリックスでは、菊間氏は「法務・コンプライアンス・リスク管理」に加え、「人材開発」、そして「サステナビリティ・ESG」の専門性を持つとしている。
SBIホールディングス(HD)とディップの社外取を兼務し、同1867万円の元TBSアナウンサーの竹内香苗氏(45)。SBIHDは竹内氏の選任理由について、「『女性の視点に立った経営戦略』が重要な当社にとって、その分野に極めて高い知見を有している」と強調。
報酬額の多い10人のうち、大半を占めるのがアナウンサーやスポーツ選手の出身者である。企業経営の経験はなく、法務や会計など経営にかかわる専門性を備えているケースもまれだ。企業統治の要である社外取としての役割を果たしているのかどうかが問われている。