東京・築地から移転する豊洲新市場で、観光施設「千客万来」を整備・運営する事業者が、ようやく決まった。全国で日帰り型と宿泊型の温泉施設を展開する万葉倶楽部だ。

 千客万来は築地が持つ独特なにぎわいを継承し、発展させるのに必須とされ、当初は市場と同じ今年11月にオープンする予定だった。

 ところが事業者の大和ハウス工業や「すしざんまい」を展開する喜代村が相次いで辞退したため、計画は頓挫。都は昨年秋、慌てて事業者を再公募し、3チームの提案から万葉が代表を務める「チーム豊洲江戸前市場」を選定した。

 施設は200前後の飲食・物販店が並んだ商業ゾーン(開業は2018年夏)と、温泉・ホテル(同19年夏)で構成され、年間集客数は計200万人弱を想定。展望デッキに足湯を設置し無料開放したり、イベント会場ではマグロ解体ショーや全国各地の物産展、相撲のイベントなどを企画したりとさまざまな仕掛けを用意する。

 万葉の高橋弘会長は、他の2チームを押しのけて選ばれた理由を「温泉が決め手だった」と分析する。飲食・物販店の集積なら豊洲には人気の大型ショッピングセンター「ららぽーと」があり、差別化が図れない。そこで、万葉は24時間営業の温泉・ホテルを設けることで市場関係者や国内外の観光客にとって魅力的な場所にすると提案、評価されたというのだ。

 総投資額は180億円を予定。その大半をメーンバンクの静岡銀行から調達するが、万葉の売上高は約200億円なので、企業規模に対して借入額が多い印象だ。しかし「集客数は控えめに見積もっており、実際は上振れるだろう。10年で半額は返済したい」(高橋会長)と強気だ。

お湯と客層で差別化

 気になるのは、喜代村が撤退理由にも挙げた、直線で4キロメートルの距離にある台場の人気施設「大江戸温泉物語」との競合だ。これに対して「お湯の質と客層が違うから共存共栄は可能」(同)と主張する。

 大江戸は現地の地下1400メートルからくみ上げた強塩温泉で、コーヒーのような茶褐色。一方の万葉は、「無色透明で肌当たりの良い自慢の湯」(同)。横浜みなとみらいの施設で既に行っているように、湯河原の自家源泉から毎日、タンクローリーで新鮮な湯を運ぶ。

 ターゲットも異なる。大江戸の館内は射的などの出店がユニークで、テーマパークのような雰囲気。ファミリーや若者グループ、外国人に好評だ。一方の万葉は「癒やし」がコンセプト。リクライニングチェアを豊富にそろえ、飲食やマッサージをゆったり楽しめる造りで、客室も150室用意する。

「万葉の出店は気になるが、互いに客を奪うのではなく、地方や海外から来る新しい客を共に獲得できればいい」(大江戸関係者)。東京湾岸の温泉バトルは今後、熱くなりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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