固定式オービスの整備数は減少傾向

さてさてお待たせしました、最新の固定式オービスの都道府県別データ! まずは整備数からいってみよう。2020年度末の全国合計は400台。
前年度末より26台減った。減ったこと自体に驚きはない。

警察庁が情報公開法の対象になったのは2001年。以来、私は大喜びで(笑)いろんな文書を開示請求し続けてきた。固定式の保有数(昔の表記は設置数)のピークは2002年の701台。その後を5年ごとに見ると、2007年は669台、2012年は590台だった。2015年までは歴年(1月1日~12月31日)で、そのあとは年度末(3月31日時点)のデータになった。2017年度は490台。そして2020年度は400台。どんどん減り続けているのだ。

都道府県別では、北海道が大きく減った。2019年度は47台だったところ、2020年度は11台減って36台に。
埼玉も10台から6台に減った。逆に増えた県が2つある。山梨は2台から4台へ、愛知は25台から26台へ増えた。

【画像】あなたが住む都道府県にはどれだけ固定式オービスが設置されているのか

2020年、固定式オービスによる取り締まりが東京で急増したのはなぜ?

次に、固定式の取り締まり件数である。2020年から、可搬式だけでなく固定式についても、取り締まりの件数ではなく「撮影枚数」に表記が変更された。「×件を取り締まった」ではなく「×枚を撮影した」になったのである。変なのォ(笑)である。今回の記事では、そこは無視して取り締まりの件数でいく。

固定式の取り締まり件数は、ずっと歴年のデータだ。ピークは2000年で18万1758件。同じく5年ごとに見ると、2005年は13万9185件、2010年は8万3575件、2015年は6万3291件、そして2020年、3万8689件にまで落ち込んだ。高齢運転者が増えたとか、軽自動車が大人気だとか、若者たちがなんというかスマホに吸い込まれてしまったとか、また、固定式オービスの場所を報せるカーナビやいわゆるレーダー探知機が高機能になって普及したとか、理由はさまざまあるだろう。


都道府県別の取り締まり件数は、バラつきが非常に大きい。秋田、新潟、奈良、島根、鹿児島は0件。その一方で、トップ5は以下のようになっている。左側のデータが2020年、右側が2019年、カッコ内は台数だ。

1位 警視庁 8207件(51台) 3432件(51台)
2位 愛知  4823件(26台) 2981件(25台)
3位 北海道 4371件(36台) 5157件(47台)
4位 兵庫  4261件(37台) 4562件(37台)
5位 大阪  2930件(44台) 1万3957件(45台)

目を引くのは、まず警視庁である。ちなみに愛知は愛知県警、北海道警なのだが、東京だけは東京都警じゃなく警視庁という。この一覧表では東京だけ警視庁となっている。特別感、エリート感がばりばりある。ついでに言っておくと、警察庁は全国警察の総元締めだ。

警視庁は2020年、前年の2倍以上も取り締まった。なぜっ? 新型コロナで交通量が減り、スピード違反が増えたと2020年に報道された。都心環状線を猛スピードで周回するルーレット族が調子にのってかっ飛ばし、カモになった? いや、彼らの多くは固定式オービスの場所など頭に入っているだろう。
レーダー探知機を取りつけているだろう。そうじゃなく、違反慣れしてない運転者がついかっ飛ばしてしまった、というケースがけっこうあったのかも。

あと、多くのオービスの「設定速度」を下げたのかも。いちおう説明しておくと、固定式オービスは基本、いわゆる赤切符の違反、つまり首都高速(自動車専用道路)だと超過40キロ以上を取り締まる。けれど、超過速度が40キロを超えたらぜんぶ取り締まるわけじゃない。「これ以上の速度を取り締まろう」と警察のほうであらかじめ設定する。それを設定速度というのだ。私が知る限り、首都高速では超過50キロ前後に設定されているオービスが多いようだ。その設定速度を、2020年は数キロ下げた可能性がある。

「ぎょっ、オービスが光った! 今までこの程度の速度じゃ光らなかったのにっ!」

そういう飛ばし屋がたくさんいて、警視庁は2020年、ぶっちぎり第1位の座をゲットしたのかもしれない。

大阪が激減…整備数はほぼそのままなのになぜ!?

警視庁より驚愕すべきは大阪だ! 固定式の整備数は45台から44台へ1台しか減ってないのに、取り締まり件数は1万3957件から2930件へと大激減!

大阪の固定式の取り締まり件数は、2019年だけが飛び抜けて多かったんじゃない。2018年は1万9023件、2017年は2万0111件、2016年は2万2167件もあった。
ところが2020年に突然、ににっ、2930件に大激減したのである。設定速度を超過70キロか80キロに引き上げた? そんなおかしなことを突然するはずがない。いったいなぜ? じつは大阪の固定式オービスには特殊な事情があるのだ。

固定式オービスが初めて日本の道路に登場したは1970年代の後半だ。当初のオービスは36枚撮りフィルムを使っていた。1986年頃、大阪の阪神高速に「画像伝送式」のオービスが登場した。CCDカメラで撮影し、通信回線で警察の中央装置へ画像を伝送するのである。フィルム切れのない、画期的なオービスだ。測定方法はレーダー式。三菱電機と日本電機、松下通信工業が開発に関わったという。オービスマップでは、阪神高速の頭文字から「H」とされた。

その技術をもとに1992年、三菱電機製の「高速走行抑止システム」(RS-2000、略して高抑)が登場した。
最初の「感知器」が速度違反車を感知すると、先の電光掲示板で「速度落とせ」などと警告。応じない違反車を、その先のレーダー式のオービスで取り締まるのである。高抑は全国展開され、オービスマップでは「新H」と呼ばれた。

阪神高速の画像伝送式は、阪神高速だけで増殖した。それが猛威をふるい、前出のように年間2万件前後もの取り締まり件数になったのか、おそらくは設定速度をだいぶ低くしているのだろう、と私は読んでいた。ところが2020年、たった2930件ぽっちに大激減。阪神高速の画像伝送式が一斉に寿命を迎えたのか? とりあえずそう読むことができる。

大阪がこのまま引っ込むはずがない。いったいどう巻き返すのか。そこを私に語らせると、ものすごーく長い、超ややこしい話になる。今回は自粛しとこう(笑)。とにかくね、オービスは今、たいへんな混乱期にある。
警察庁内にディープな「暗闘」があるように思われる。どっちに味方するというのじゃなく、マニアとして見張っていきたいと思う。

〈文=今井亮一〉  
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を発行。
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