7月17日(土)以降全国順次公開中の「ザ・ホード 死霊の大群」(以下「ザ・ホード」)でゾンビが走っている。

「ザ・ホード」はフランス生まれの〈走るゾンビ〉映画。
パンフレットによるとフランスでは既に何本かのゾンビ映画が制作されてはいるものの、〈走るゾンビ〉が出るのはこれが初とのことだ。
〈走るゾンビ〉とは何か。週末の夜の交通機関を見れば分かる通り、人間の理性がゆるんだ場合の行動パターンは大きく分けて二つある。無口になったりどんよりとした目で座り込んでしまうダウナー系。ゲラゲラ笑ったり突然怒り出したりするアッパー系。ゾンビも同じで、ぐったりした様子でノロノロ動く〈歩くゾンビ〉と、うなり声を上げて人間を見つけると走り寄ってくる〈走るゾンビ〉がいる。

なお〈走るゾンビ〉には先達がいて、「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー監督賞を取ったダニー・ボイル監督の「28日後…」が有名だ。特殊なウィルスで理性を失った感染者が、感染していない人間に襲いかかる。スピード感を出すために感染者に陸上選手を起用したというエピソードの通り、まるで細長い箱に収まっているように美しいフォームで火だるまになってもズンズン迫ってくる。これはこれで確かに怖い。

「ザ・ホード」の〈走るゾンビ〉には、そこまでの美しさや速さは無い。代わりにとにかく獰猛でとにかく頑丈。
一途でけなげと言い換えてもいい。まず、人間を見たら目と歯を剥いて一声吠えて脇目も振らずに走り寄ってくる。そこが狭い通路だったらもう激情が抑えきれないとばかりにバンバン壁にバウンドしてもんどり打ちながら向かってくる。さらに、殴り倒されてもショットガンで撃たれても跳ね起きて即座に再チャレンジ。へこたれない。台所の戸棚に頭を挟まれシンクの角に頭をぶつけられ蹴られて殴られて首しめられて引き倒されて踏まれて食器ぶつけられて冷蔵庫倒されて下敷き。ここまでやられてようやく止まる。

ゾンビがここまで一途でけなげだと想いを受け止めるほうにも相応の覚悟が必要だ。だから対するのは、一般人では無く警官とギャングのドリームチーム。警官といっても、仲間を殺されて「家族を殺した奴らを皆殺しにしてやる」と言い放つ、法律を気にしてる様子の無いアウトロー達で、ギャングもイメージに忠実な荒くればかり(そうでない人は序盤でゾンビの胃袋に退場)。このため、ゾンビ映画によくある、中盤以降ゾンビ慣れしてきた人間がゾンビをいじめて悦ぶ「ゾンビは怖いが人間はもっと怖い」パターンになかなかならない。本作でも群れからはぐれた女ゾンビの膝を撃ち抜いて「やーい。
このエロ女ー」というノリでセクハラするシーンはある。しかし、それでも私がタイマン張ったら負けそうだし、ヤンキーがヤンキーをいじめてるのを見るようなもので、依然としてゾンビも怖い。

このように、ゾンビ怖い→人間も怖い→いやゾンビもっと怖い→人間さらに怖い、とエスカレートしていく果てにある結末。ちなみに私はやっぱりゾンビが怖かった。(tk_zombie)
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