なにがこわいかというと、唐沢なをき『まんが極道』がこわいよう。
こわくない? 私はこわい。フリーランス(ことに文筆業)で食っている人間は、みんなこの漫画を読むとぞっとするはずだ。
『まんが極道』は、唐沢なをきが「月刊コミックビーム」で2006年から連載している作品で、最新刊で単行本は5冊になった。漫画業界の内幕もの、と単純にくくってしまうのはたやすいが、それ以上の痛々しさがこの作品にはある。唐沢が繰り出してくるキャラクターたちは、売れっ子の漫画家あり、万年アシスタントでデビューにこぎつけずにもがき苦しんでいる者あり、漫画業界の周辺でうろうろしている得体の知れない人士ありで、実に混沌としている。売れっ子には売れっ子の悩みがあり、そうではない者にはそうでないなりの苦しみがある。立場こそばらばらだが、必ずどこかが読み手の琴線に引っかかるようになっているのだ。
今までで私が一番こわかったのは、4巻に収録されている第40・41話「墜落」の前・後編だ。この話の主人公は売れっ子漫画家「だった」山本孫太郎虫先生で、『まんが極道』では以前にも登場したことがある。彼は売れっ子であることを鼻にかけ、アシスタントに対しては暴君としてふるまってきたのだが、その孫太郎虫先生が、「落ち目」になってきてしまうのである。
ひーっ、これは想像するだけで怖い。人気漫画『ゴワゴワくん』の次の連載『オメガくん』の単行本は、1万部スタートだった。『ゴワゴワくん』の累計部数は5千万部だから、孫太郎虫先生としては心中穏やかではないわけである。