Part1は3人のクリエイターがそれぞれの視点でゲームテキストの条件を考察して大好評。
part2では「このゲームのこのテキストが好き!」をわいわい語ってもらいましょう!
(麻野一哉、とみさわ昭仁、米光一成のプロフィールはこちら


失われた物語を取り戻すことができる

麻野 ゲームのテキストでお気に入りってある?
とみさわ それはRPGでも何でもいいの?
米光 僕は「ドラクエ」で敵にやられたときに「あなたはしにました」って言われるところが好き。
勇者に「らっこ」って名付けてたんだけど、今まで「らっこは……」って呼ばれていたのに、死んだときだけ「あなたは……」って急にプレイヤーになるんだよ。今までプレイヤーと主人公が一体化していた「らっこ」として扱ってくれていたのに、死んだときに「お前をゲームから放り出す」みたいなイメージを受けるのね。
麻野 「らっこが死んだ」だとすごい人ごとっぽいからね。誰やねんって。
米光 でも「らっこ」って自分が入れた名前だから、ゲームの世界のキャラでもあり、プレイヤーの俺でもある。
とみさわ プレイヤーキャラクターじゃなくて僕が死んだの!? って恐ろしさは感じる。
米光 生き返ったあとは名前で呼んでくれるのよ「おおらっこよ、しんでしまうとはなにごとじゃ」って。このゲーム世界にもう一回戻してもらえた、みたいな。
麻野 すごいのはどちらのセリフも、普通に生きていたら絶対に聞く事がないということなんですよね。
とみさわ 「あなたはしにました」ってありえないよね。
麻野 突き放しているような印象もあるけど、あまりにアホくさくて、笑えてしまう。ありえないから。

米光 「ドラクエ2」以降はシステムに生き返らせる要素が入るじゃない、呪文やアイテムで復活できたり。でも「ドラクエ1」のときは、「しんでしまうとはなにごとじゃ!」という一言で全てを解決していて、そういうのがゲームならではですごく好き。当時は愛や勇気、熱血ってちょっと笑いの対象だったじゃない。中高生男子は愛の物語とか絶対読まない。でもゲームだと出来る。
麻野 世界を救うなんて大きな物語を恥ずかしげもなく読めるからね。
とみさわ お姫様を助けにいくストーリーなんて、小説だったら読まない。
麻野 どんどんゲームも物語が細分化して、身近な物語になっている。「龍が如く」とか。歌舞伎町のヤクザの方がリアリティあるんだろうな。世界は救うというのはウソくさいけど、女とか仲間とか組をなんとかしたい気持ちなら、わかる、というか。
とみさわ 「MOTHER」を発表した直後の糸井(重里)さんにインタビューしにいったことがあるんだけど、そのとき「ゲームでは失われた物語を取り戻すことができるんです」って言っていました。
ゲームだと仲間を助けたり、世界を平和にするとか、こっ恥ずかしかい王道の物語を堂々とやれるんだって思いましたね。
麻野 人ごととして物語を読むんじゃなくて、自分が世界に入って活躍しているからでしょうね。シンボリックなのも大きかったと思うよ。きちっとした顔の絵だとなんか嘘くさい。
米光 僕たちおっさん3人が「みんなで力をあわせて!」って手をつないでもコメディなんだけど、ドット絵になれば「いけるんじゃね?」みたいな(笑)。


勝手にシチュエーションを付けたした

とみさわ だから「ドラクエ」のデザインの鳥山明さんは抽象性として丁度よかったんですよ。「ファイナルファンタジー」だと恥ずかしくなっちゃわない?
麻野 天野(喜孝)さんの絵に友情とか向かないからね。どっちかというと耽美的。
米光 だからこそ「ファイナルファンタジー」は物語がハリウッド映画的になっていった。主人公も喋るしね。悪役をガッツリ描いたり。映画の文法になっていく。

とみさわ 「ドラクエ」は主人公は喋らないのがいいよねってのがすごく広がっていて。僕なんかもそういう影響はずいぶん受けていますね。
麻野 「ドラクエ1」でも、最後の最後に喋ってんねんけど。
とみさわ あれ、そうだっけ。
麻野 エンディング前に一言だけ。王様から「アレフガルドを継いでくれ」と言われたとき、「しかし○○○○はいいました」って説明が入って、「いいえ、僕はここから自分の力で生きていくことにします」みたいなことを言うの。
とみさわ ええー、覚えてないわ。
麻野 「トルネコの大冒険」のときも、最後にトルネコが、奥さんのネネに対して「ありがとう」みたいなことを言って終わらせようとしたんだけど、まわりから総スカンくらってナシになった(笑)。しゃべらすな、と。
米光 それは「ドラクエ1」のオマージュなの?
麻野 もちろん。
とみさわ 喋っていたんだねえ。ずっと無口な人だと思っていた(笑)。

麻野 主人公が喋らないと、叙述トリック的なことも出来るよね。「メトロイド」で、ずっと主人公のことを○○だと思っていたら、最後にマスクを取ると△△だったとか。ゲームの場合、小説以上にショッキングに感じる。「かまいたちの夜2」のときも似たようなことやったなあ。
とみさわ 米光さんの「トレジャーハンターG」とかもそうですよね。実は……。
米光 えええ、サルが! みたいな、馬鹿展開ですけどね。
麻野 あとなんのテキストが好きかなあ。
とみさわ 「ドラクエ3」で猫に話しかけると、「にゃーん」って言われたあとに「はい」「いいえ」の選択肢が出てくるの。あれ笑ったなあ。
米光 猫語わからない!(笑) 面白かったよね。
麻野 「ドラクエ3」だと、「私は喋る馬のエド」って馬が喋りだすの。

米光 「ミスターエド」、元ネタはアメリカのドラマだよね。
麻野 面白いギャグだった。あ、あと「ドラクエ4」ってキャラごとにパートが別れているんじゃない。
とみさわ お姫様の章とか商人の章とかね。
麻野 最後の章の頭で村に敵が攻めてくるのよ。で、主人公は、「ここに隠れなさい」って地下室に入れられる。しばらくするとビシッバシッって攻撃や、メラやギラなんかの魔法の音だけがする。
米光 どうも村中が惨劇になっているらしいんだけど、それを説明セリフで説明したりしない。
麻野 動けるようになって地下室を出てみると、村は壊滅状態。村人たちもみんな死んでいる。あれはほとんどテキストらしいテキストを使ってないんだけど、ものすごい想像力が沸くんですよ。
米光 すごいよね。
感動したな。あのシーンって、俺ずーっと雨が降っているって記憶していたのよ。地下室を出ると雨が降り始めていて。みんな死んで「うわーすげーことになっているなー」って記憶に残っていて、何年かしてやり直したら雨降ってなかったの(笑)。
麻野 ただの妄想やん。
米光 勝手にシチュエーションを付けたしちゃうぐらい好きなんですよ。
麻野 あれは堀井さんから指示書が来たんですよ。作りながら「すげー!」って言っていたのを覚えている。あれが本当のシナリオライターの仕事だと思う。テキストをどう書くとかじゃなくて、シーンをちゃんと作る力ね。
とみさわ 演出に近い。
麻野 大事なんことは大事なんだけど、セリフひとつひとつは、あくまでもゲームを成り立たせるための部品なんです。一般的に、映画の脚本は「映画の設計図」っていわれるんだけど、それと似ている。セリフだけじゃなく全体のシーンが出来ていて、それを伝えることが大切。


プレイヤーの心を読んで配置

米光 映画と似ているって話が出たけど、違うところもあって、街に入った瞬間に「ここはナントカの街です」なんて、映画ではちょっと言わないような説明セリフを使っちゃう。でも、それいるんだよね。プレイヤーの行動のヒントになるセリフが適切な場で出てくるのって、うれしい。そうするとリアリティとはまた別の強さが出てくる。
麻野 町にはいると、「ナントカの町です」っていう人が門のところにいる。あれって、その「ナントカ」の町を目指して満身創痍になるまで戦って、「やっと着いた、でも本当にここはナントカなんだろうか。まちがってない? 確かめたい。真っ先に確認したい」って気持ちがあってこそ、意味があるんだよね。
米光 もし、奥のほうにいる村人が話すようにしたら台無しになるから。
麻野 今のに限らず、堀井さんは、プレイヤーの気持ちを先読みするのがうまい。「ドラクエ1」でローラ姫を探してこいって言われて、城を出てとなりの街に行くの。で、そこにいる女の人に「まさか、これが姫だったりして」とニヤニヤしながら話しかけると、「いーえわたしはローラひめじゃないわ」とか。
米光 この女の人がもしかしたら……って話しかけると「わたしはちがいます」っていうのは、心を見透かされているよね。
とみさわ ちゃんとプレイヤーの心を読んで配置している。
麻野 すべてのセリフに意味がある。話しかけて「良い天気ですね」「これは川です」って言われても、そんなことわかっとるわ! ってなるでしょ(笑)。
米光 なにか入れなきゃいけないから入れちゃったって感じの、ただの埋め草になっているセリフがあるゲームってあったよね、けっこう。
とみさわ 書くこともそんなに思いつかないですから。
麻野 そのキャラクターが少しは想像できることを書けば、まだイメージは膨らむんだけどね。例えば「謎の盗賊」というキャラクターを設定しておいて、ある街に行ったら「誰々が謎の盗賊にやられたらしい」って聞ける。最後の方の街だと、「謎の盗賊は捕まったそうだ」って、そういうセリフでもいいんですよ。埋め草をするにしても意味のあることやった方が絶対にいい。
とみさわ 「いーえわたしはローラひめじゃないわ」みたいなセリフを思いついたら、配置している人物の位置を変えたりしますもん。重要なセリフを言うやつは奥に置いて、どうでもいいやつは手前に置こうとか、そういう手間は重要なんですよね。



俺は「MOTHER」で「地下室のカギ」を手に入れて「食べる」を選択したら「やめてください」表示されたのが今でも頭に残っていますねー。
思わず「あ、はい」って言っちゃった。
Part3も引き続き、好きなセリフの話。とみさわさんの「ポケモン」や米光さんの「バロック」話も出てくるよ!
(加藤レイズナ)
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