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きっかけになってくれればいい

――最初に「映画 プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち」監督のお話しがきたときにどう思われました?
志水 「映画 プリキュアオールスターズDX」シリーズのような、プリキュアが全員でてくるお祭り映画のようなものをやってくれと言われたら、制作時間的にそうとう厳しいことになっていたと思うんです。かなり厳しいスケジュールでしたので。

――今回は、映画オリジナルのプリキュア、坂上あゆみ/キュアエコーを中心にストーリーが展開していますね。
志水 そうそう。「DX」シリーズとは違う内容だというお話だったので、それならできるかなと。
――志水さんは「ふたりはプリキュアMaxHeart」「ふたりはプリキュアSplash☆Star」「フレッシュプリキュア!」の映画の監督を務めています。そういうところも起用された理由のひとつなのかなと。
志水 僕以外にも「プリキュア」シリーズに関わってきた人方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、ただ、時間が無い中で映画を作るとなるとある程度経験がないといけないですからね。
だから僕のところに来たのかもしれません。
――シリーズ全体を扱う「オールスターズ」はやっぱり難しかったり?
志水 「NewStage」は「スマイルプリキュア!」と「スイートプリキュア♪」がメインなので、割とポイントが絞りやすかったですね。経験豊富な演出スタッフをお願いして、かなり助けられました。新シリーズ「スマイル」も映画制作当時は、まだ文章でしか設定を見ていないので、どのくらいのキャラクターかというのもはっきりしていなかった。テレビシリーズと比べてみたときに子どもたちに違和感が出なければいいなと思います。
――制作はテレビよりも劇場のほうが先ですもんね。
実際に放映された「スマイル」を観てどうでした?
志水 まだ、はじまったばかりなのでなんとも言えないですけど、映画ではもっと子どもたちが喜ぶギャグを入れてもよかったかなと思いました。ただ、「スマイル」だけの世界でストーリーをつくってもいけないので、難しいですね。
――オリジナルプリキュアのキュアエコーについては。
志水 やっぱり今回が初登場だから、自由に動かせた。それはとてもやりやすかったですね。「女の子は、誰でもプリキュアになれる」がテーマですから、観ている子どもたちも、いっしょにプリキュアになって参加してくれればいいなと。
あゆみみたいな引っ込み思案でも、一歩踏み出せばみんなと仲良く楽しくできるんだよ、というきっかけになってくれればいいですね。


子どもの声には逆らえない


――「NewStage」のここを見てくれ! ってところは?
志水 舞台が横浜なので、実際に存在している風景を子どもたちにいかにたくさん見せるかは重要でした。それは美術背景さんもこだわって描いていましたね。映画で登場している横浜の観光名所をスタッフみんなで巡りながらプランを立てていきました。「地図でここからここに移動して」みたいなことを考えながらつくっていましたね。あゆみの家と学校がどこにあるかは曖昧なんですけど(笑)。

――現実の場所にそっている流れになっているんですね。横浜市をどこまで破壊したりとかは考えました?
志水 いや、破壊はしないという方向でいっていたんですよ。子どもたちが震災のことを思い出してしまうかもしれない。だから、街が破壊されたり、瓦礫の山になっているみたいな直接的な描写はやってはいけないことだと思いました。それでビルが魔法みたいにスーッと消えていくという表現にしたんです。
――3.11以降を生きる子どもたちへのメッセージでもあったんですね。

志水 そうですね。街を壊さない代わりにどうやって緊張感や、ピンチになっているかをわからせるか。そのために暗い色の吹雪を吹かせていたりしています。あと、地味なシーンが続くときは、間に妖精たちのシーンを挟み込んで、子どもたちが怖がらないように工夫してあります。
――けっこうホラーテイストですよね。「犬を食べる」描写も、実際に食べるシーンは見せないけど、次のシーンでは首輪だけが残っていたり。
お母さんが消える場面も。
志水 「食べる」というわけでなく、異次元に移動させてるんです。大人が観たら怖いかもしれないけど、映画の文法を知らない子どもたちにとってはストレートには伝わらないのかもしれない。子どもたちの想像力は大人とまったく違いますからね。一番最初にあのシーンに付いていた音楽はものすごいホラーで怖かったんですよ。それはやめてくれ、とお願いして、静かな感じにしてもらいました。
――もうひとりのオリジナルキャラクター、フーちゃん。熊田聖亜ちゃんの演技がすごく上手でしたね。
志水 すごくよかったですよね。今回、フーちゃんは大人の声優さんではなく子役にしようと思っていました。
――志水さんの発案だったんですね。舞台挨拶などで、キュアハッピー役の福圓美里さんが、こんな可愛い聖亜ちゃんとフーちゃんを倒すことはできないー! って言っていました。
志水 みんなこの敵には勝てないって言っていましたね。敵ではないんですけど。
――そこは狙っていたんですか? 倒さないといけない、でも、倒せない、みたいな複雑なニュアンスが出ている。そのために子役を起用されたのかなと。
志水 そうですね。子どもの声には逆らえないところってありますからね。フーちゃんを悪ものに見せないためという意味もあったんですよ。声優さんがふつうに演技をすると、あゆみが騙されているように聞こえるかもしれない。
――そうならないためには、ほんとうの子どもじゃないと。
志水 フーちゃんに騙されているという視点で観ると、相当怖い話ですからね(笑)。真実のことばでしゃべっているんだよ、というのがうまく伝わるといいなと思っています。


「今回は前とは違うんだよ」ということをあらかじめ言っておいていただけると

――「DX」シリーズの監督、大塚隆史さんにもインタビューする機会があったんですが、「DX」を作り終えるたびに「もう二度とやりたくない」って言っていました(笑)。「NewStage」を作り終えてどうでした?
志水 作画監督の青山充さんも、「今回楽だったねー」って。あゆみとフーちゃんのシーンをほとんどやってもらっているので、ふたりしかいないじゃないですか(笑)。
――いままで「DX」シリーズで20人以上のプリキュアをずっと動かしていましたもんね。
志水 「DX」シリーズをやっていたスタッフたちも同じ感じでしたね。今回、すべてのプリキュアが前に出ているわけではないじゃないですか。一画面にいる人数が少なくてすんだみたいなね(笑)。28人全員でアクションをされたら現場は大変なことになっていたかも。
――青山さんも、「DX3」で大塚さんからプリキュア21人分のカットを渡されたときに「これ、僕がやるの!?」って言ってたそうですね(笑)。
志水 ほんとは、プリキュア全員に台詞を入れてあげたかったんですけどね。もっと時間をかけてたっぷり活躍するところも見せたかったんですけど……。
――志水さんは「フレッシュプリキュア!」のシリーズディレクターもやっていいました。やっぱり「フレッシュ」がかわいいのではないかと。
志水 あー、ほんとうはもっと出したかったんですよ。「フレッシュ」と「ハートキャッチ」は脚本の段階ではもう少し出番が少なかったんですよ。そこをほんのちょっとだけ増やしている。
――こっそり追加して。
志水 うん(笑)。今回、子どもたちが絵面を見て、「また『DX』の続きだろう」と思って観に来たら、全然違っていてがっかり、ということもあるかもしれないですよね。だから親御さんは、子どもたちに「今回は前とは違うんだよ」ということをあらかじめ言っておいていただけるとありがたいです。そして先入観なく観てもらえれば違う面白さであることがわかるんじゃないかと思います。
(加藤レイズナ)

●志水淳児(しみず・じゅんじ)
1961年生。愛知県出身。「デジモンアドベンチャー」「ONE PIECE」「金色のガッシュベル」など、様々な作品の演出を担当。「プリキュア」シリーズでは、「フレッシュプリキュア!」のシリーズディレクター、「映画 ふたりはプリキュアMaxHeart」「映画 ふたりはプリキュアMaxHeart2 雪空のともだち」「映画 ふたりはプリキュアSplash☆Star チクタク危機一髪!」「映画 フレッシュプリキュア! おもちゃの国は秘密がいっぱい!?」を監督。「映画 プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち」は3年ぶりの「プリキュア」映画監督を務める。