「辛来飯」の銀座カレー店、66年の歴史に幕
先週金曜日の読売新聞でも大きく取り上げられたこの事件。「ニューキャッスル」と言えば、テレビ番組やグルメ雑誌でも何度も取り上げられ、カレー好きなら一度は食べておきたいお店のひとつ。
そんな伝説の味を味わえるのも、もうあと1週間だけ! というワケで早速行って来ました。

ニューキャッスルがあるのは銀座二丁目。プランタン銀座や有楽町イトシアのすぐそばだ。そんな、一等地of一等地には正直似つかわしくないトタン囲いの外観なので、周りとのギャップですぐに目に留まった。閉店の理由が店舗の老朽化、というのも失礼ながら納得だ。
ところで、「ニューキャッスル」という店名、なんだか喫茶店っぽい、と思った方、正解! もともとこの店は珈琲店として開業されたのだ。
66年前、この地でカレー店を始めたのが、今の店主・宮田博治さんではなく、初代店主の柳田嘉兵衛さんだ。開業当初の様子が、岩崎信也著『食べもの屋の昭和』(新潮文庫)という本の中に記されていたので紹介したい。

<柳田氏が、焼け跡の銀座二丁目並木通り横に店を構えたのが、昭和21年。当初は進駐軍から仕入れたコーヒーを商って押すな押すなの評判となったが、コーヒー屋の繁盛に疑問を感じでカレーを思いついたのが24、25年頃のこと。これがカレーライスの老舗「ニューキャッスル」のはじまりである。>

銀座の復興とともに歴史を刻んで来た、まさに「食の文化遺産」と言えるだろう。

店頭には「料理記者歴40年」でおなじみの岸朝子氏の記事が飾られていて期待感を増長してくれる。中に入ると、カウンター3席にテーブル席が4つ。お昼時を外し、15時に来店したためすぐに席に着くことが出来たが、切れ目なく来客があり、常連客が多いようで「お店、今月いっぱいなんだって?」「新聞読んだよ!」と口々に挨拶を交わしていた。

さあ、本題のカレーライスを頼もう。もとい、この店ではカレーライスではなく「辛来飯」という呼び名が正式名称だ。そして、ボリュームのランクも「大・中・小」などではなく、「蒲田・大森・大井・品川」という遊び心がある名称だ。
早速、「辛来飯・蒲田」を注文する。これら独特のネーミングに関しても、それこそグルメ番組などでも何度も紹介されているのでご存知の方も大井、じゃなくて多いことと思う。上述した『食べもの屋の昭和』にその経緯が詳しく書かれていたので引用しよう。

<うちのカレーにはへんてこな名前がついてるでしょ。大森とか大井とか。これはもう12、3年前、いやもう少し前でしたか、京浜東北線で横浜に行くとき電車の中で思いついたんです。
大井は多い、大森は大盛り、それより多いのは大森の先の蒲田。品川は大井の手前ですからダイエット用、小盛りですね。それから「辛来飯」ってのは、召し上がっているうちに辛さが来るっていう意味です。こういうランクをつけたのは、お客さんは自分の好きな量、好きな金額を決められて満足する、こちらも残さずに召し上がっていただいて満足する、そういう営業方針なんだからです。>


今日では当たり前の「食のカスタマイズ」の先駆けとも言えるのではないだろうか。
さて、注文した辛来飯・蒲田が「蒲田ぁ到着でーす」のかけ声とともにテーブルに届く。
早速ルーを一口。噂に違わずしっかり辛い! 少し荒いルーのおかげで、味が長く舌に残る。上に乗った目玉焼きの黄味を崩すと少しまろやかになるが、それでもじんわりと汗が噴き出してくる。少しずつ、もったいぶって食べてみたのだが、それでもアッという間に完食してしまった。大盛りよりも多い「蒲田」ではあるが、正直、男性であれば余裕で食べられる量だと思う。女将さん曰く、女性でもほとんどのお客さんが「大森」以上を頼んでいます、とのことだった。

この「少し物足りない感じ」が後を引いて、また来店したくなるんだろうか。といっても、あと1週間しかないんだけど、また食べることは出来るだろうか?
会計を済ませ、「また食べたいけど今月中にもう一回来られるかわからないです。」と女将さんに伝えてみた。すると、「皆さんにそう言って頂いてありがたいです。でも、うちの孫だけは、『僕はじいじにいつでも作ってもらえるもんねー』って言ってるんですけどね」とにこやかに答えてくれた。お孫さん、羨ましすぎです!
(オグマナオト)

【ニューキャッスル】
東京都中央区銀座2-3-1
(平日)午前11時~午後9時、(土曜)午前11時~午後5時、日祝休み
・辛来飯(蒲田)740円・辛来飯(大森)630円・辛来飯(大井)530円・辛来飯(大森)480円