1月4日、この日が2013年最初の営業日となった「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」では新年恒例の餅つき大会が行われました。ミュージアム内の3F「はらっぱ」に揃いのはっぴを着て登場したミュージアムスタッフが、来館者とともに「よいしょぉ、よいしょっ」のかけ声に合わせて餅つきを披露。
また、紅白大福も1000セット配られたり、ドラえもんの鏡餅が飾られたりと、館内の至るところで正月気分とおもちを堪能することができました。

季節感を大事にする漫画『ドラえもん』の中でも当然、お正月関連のエピソードはたくさん描かれています。そもそも連載第一話の設定がお正月。また、有名な秘密道具「もしもボックス」も、羽根つきと凧揚げのない世界にして欲しい、というのび太のわがままを受けて登場した道具なのです。
そんなお正月エピソードの中でも「おもち」が、『ドラえもん』の歴史を語る上でも重要なアイテムであることをご存知でしょうか。そこで今回は、ドラえもんと「おもち」の付かず離れずの関係性を振り返ってみたいと思います。



《「未来の国からはるばると」てんとう虫コミックス1巻
上記でも紹介したように、『ドラえもん』の記念すべき第一話は掲載号が「1月号」だったこともあり、お正月を舞台に描かれています。その2コマ目に早くも「おもち」を楽しみながらいつものように寝転がるのび太が登場するのです。そして突然現れるドラえもん。

ドラ「なにこれ?」
のび「おもち。」
ドラ「うまいもんだなあ。生まれてはじめて食べた。」

そうなのです。ドラえもんが最初に食したのは、ドラ焼きではなく「おもち」なのです。

この後で紹介する2巻のエピソードでもおもち大好きをアピールするドラえもん。一体いつからドラ焼き好きに変わったのか?

コミックス掲載順で追うと、3巻「スケジュールどけい」において初めてドラ焼きが登場。4巻「友情カプセル」では「ドラやきは大こうぶつなんだ。こんなに食べられるなんて。ああ、夢じゃないかしら。」と泣いて喜ぶほどのドラ焼き好きに変貌を遂げています。

ちなみにドラ焼きが大好物な理由は、「ドラ焼きの成分がドラえもんのエネルギー源に最適だから」(『ドラえもん大百科』より)とされてきましたが、1995年の映画「2112年ドラえもん誕生」において「ドラえもんの初恋相手・ネコ型ロボットのノラミャー子からプレゼントされた“初恋の味”だから」という新たな理由も加えられています。


いずれにせよ、<ドラえもん、実は「おもち」が大好物>というのは是非とも押さえておきたいトリビアならぬドラビアと言えるでしょう。


《「タタミのたんぼ」てんとう虫コミックス2巻
大好きな「おもち」を巡ってドラえもんが奮闘するのがこのエピソード。

ドラ「おもち大好き。」
のび「ぼくだって。」
と4つずつ食べたところでおもちが残り1つとなり、どちらが食べるかでケンカを始めるドラとのび。ママから「そんなことでけんかなんてみっともないわよ。」となだめられます。

通常であればここでのび太が「ドラえもん、もっとおもちが食べたいよぉ」と懇願するところですが、この回では「もちさえたくさんあればケンカをしなくてすむ!」と、ドラえもん自ら「もち製造マシン」なる秘密道具をポケットから取り出し、原料のもち米を入手するためにわざわざ秘密道具「タタミのたんぼ」を使って田植えを始めます。どれだけドラえもんがおもち大好きかがわかるエピソードです。


苦労のかいあってもち米を手に入れたドラえもんは「もち製造マシン」で259個のつきたて餅を作ります。2人で分けると129個と130個。そして、どちらが「130個」かを巡って再び始まる大げんか……「バイバイン」使って増やせばいいのにね、という突っ込みはナシです。


《「テレビとりもち」てんとう虫コミックス26巻
「もち」と聞いて連想する秘密道具で外せないのは「テレビとりもち」。
この「テレビとりもち」で画面をタッチすると、テレビに映ったものは商品だろうと人だろうとなんでも取り出すことができます。特にテレビCMを目当てに使えば、新発売の製品や発売前の商品も入手することが可能。
まさに夢のようなアイテムです。

このエピソードで注目したいのは、お約束のようにジャイアンに「テレビとりもち」を取られてしまった後。ジャイアンが家でテレビをつけるとやっていたのが「ウルトラセブンイレブン」という特撮番組でした。使い方を誤ったジャイアンは、欲しい商品を手に入れるどころか、うっかりテレビの中に閉じ込められてしまいます。

この話が描かれたのが1981年。その前年、セブンイレブンは店舗数が1,000店を越え、1981年には東証1部になるなど日本全国を旋風し始めた時期でした。
なんでも手に入る秘密道具とコンビニエンスストア、どちらも上手に使わないとね。というF先生のメッセージのようにも思えてきます。


《「モアよドードーよ、永遠に」てんとう虫コミックス17巻
この「とりもち」方式の秘密道具は「テレビとりもち」だけではありません。コミックス1巻では「影切りばさみ」という秘密道具で切り取った影を回収するためのアイテム「かげとりもち」も登場。
そして、もうひとつ、「タイムトリモチ」という道具もあります。「タイムホール」と組み合わせて使うことで、過去の失われたものを取り戻すことができるアイテムです。

当初、のび太はこの「タイムトリモチ」を使って、歴史上の偉人たちが使っていたものを取り出して金儲けを試みますが、「これはまじめな目的の機械なんだぞ。たとえば戦争のために焼かれた美術品とか貴重な文献なんかをとりもどすためにつかうんだ。」とドラえもんに叱られます。なぜそんな道具をドラえもんが持っていたのかはさておき、そこでのび太が思いついたのがモアやドードーといった“絶滅動物の確保”。
「絶滅した動物たちを昔の世界からつれてきてさ、こんどこそ大事に育てて増やしてさ」というのび太からの提案に対し、ドラえもんも「それはきみらしくないすばらしい思いつきだぞ」と絶賛します。

ちなみに、この「タイムトリモチ」と「テレビとりもち」、見た目も機能も同じにしか見えないのは内緒です。


《「ぐ~たらお正月セット」てんとう虫コミックス35巻
「元旦ぐらい、だれにもわずらわされず、フトンの中でウツラウツラとすごしたい。しかし、一方では人なみに正月らしいことをしたいな、とも思うんだ。こんな矛盾した願いも、ドラえもんだったらかなえられるんじゃない?」
誰もが憧れる願望を臆面もなく口に出せるのがのび太の強み。
ドラえもんはあきれながらも、誰とも会わず、部屋からも出ず、お正月のアレコレがひとりで楽しむことができる「ぐうたらお正月セット」を出してくれます。
お正月といえばたくさんのキーアイテムがある中で、おせちとともに入っていたのが「スーパーインスタントおぞうに」。お湯もいらない、ふたをあけるだけでOKの優れものです。

以前は「白い力もちうどん」などお餅が入ったインスタント食品もありましたが最近はとんと見かけません。お湯をかけるタイプでもOKですので、「インスタントおぞうに」、ぜひとも商品化してもらいたいものです。


「正月ももう終わりだと思うと悲しくて」
のび太が23巻「長い長いお正月」でつぶやいた台詞です。
今日から仕事始め、という方も多いと思いますが、のび太の台詞と同様に終わってしまったお正月を懐かしく感じる時間帯ではないでしょうか? 早くも2014年の正月が待ち遠しくなってしまった方に、ドラえもんがのび太にかけた次の言葉を借りて終わりたいと思います。
「たまにくるからお正月が楽しいんだ」

(オグマナオト)