日本の“ものづくり”が見直されつつある、と言われて久しい。いろいろな職人技があるが、ちょっと注目したい手作り品がある。
それは、“肥後守”である。

ある年齢以上の人にとっては、非常に懐かしいナイフといわれている。それが肥後守。
これは戦前から一般的に流通していた折りたたみ和式ナイフ。昔は文房具屋さんにも売っていた、非常に身近なナイフだったそう。この肥後守を今でも販売されている、e刃物comさんに伺ってみた。


そもそもこの肥後守、兵庫県三木市で生まれたそうだ。その原型となるナイフの誕生はなんと明治時代にまで遡る。「兵庫県三木市の業者が、九州地方を行商している時に原型となるナイフを手にし、三木へ持ち帰って改良して作ったと聞いております」という。

かつては三木市の鍛冶屋で盛んに作られ、市内で作られるものを肥後守と読んでいたそうだが、時代が進むにつれて作る人間がどんどん減少。現在は兵庫県三木市にある永尾カネ駒製作所が登録商標を取得した。同じような形のナイフ(肥後ナイフ)を作る会社は何社かあるそうだが、純然たる肥後守を作る会社は永尾カネ駒製作所さんだけだそうだ。


現在は4代目がその鍛冶場を守り、その生産ラインは今でも完全家内工業の手作りにこだわっている。だからこそ同じナイフは二本とできない。素朴だが暖かみのある見た目が特徴。

現在でもこの肥後守、毎月平均数十本売れているそうだ。購入層は30歳代以上、50~60歳代の人がメイン。この肥後守に魅せられた人に、肥後守の魅力を伺うと、「全て手作りなので、同じものが二本無いということ。
手に馴染むサイズであること、そして使い込めば使い込むほど使いやすくなるところが素晴らしい」と、コレクター心をくすぐる様子。
ただし放っておくと錆びてしまうので、日頃から錆止め用の油を塗ったり砥石などを使って丹念な手入れが必要となるが、これがまた「自分で育てている」気分になるとか。安全性の高いカッターナイフなどが増えてきたこと、そして昨今の事件でナイフや刃物が少し遠い存在になってしまった。が、昔はもっと身近な存在だった。肥後守はそれを思い起こさせる存在なのかもしれない。

肥後守をどう使うかというと、
「プロの彫刻家の方が木彫りに使われたり、絵画家が鉛筆を削るのに使われることもございます」
さらに愛好家がコレクションしたり……と、使い方は様々。

近年、注目を浴びてる日本のものづくり。伝統工芸だけでなく、このような所にも日本のものづくり精神は息づいているのだ。

しかし、いくら小さいからといっても刃物は刃物。使い方を誤ると怪我をすることもあるし、何よりも「目的無く持ち歩くと、銃刀法違反になります。鞄の中に入れていても同じです」

せっかく愛情を持って作られた一品なので、使用の際はご注意を。
(のなかなおみ)