島田雅彦。とにかくめちゃくちゃ顔がかっこいい。

3月1日から2日間にかけて行われた芥川賞&直木賞フェスティバル。両賞の受賞作家が登壇する中で、1人だけ「特別枠」の作家が島田だ。
芥川賞に6回ノミネートされすべて落選した「最多落選作家」。芥川賞・直木賞は「新人賞」という位置づけのため、島田はもう芥川賞受賞作家になることはない。ある意味誰よりも芥川賞のことを知っている島田は、2010年から芥川賞の選考委員となった。『島田雅彦芥川賞落選作全集』上下巻なんてものも出た。

何はともあれ島田はかっこいい!! 「文壇のジュード・ロウ」と呼ばれるくらいの甘いマスクの正統派イケメン。現在52歳、甘さはそのままに渋さも加わっていてドキドキする。

トークイベントのお相手、桜木紫乃(2013年「ホテルローヤル」で直木賞受賞)は、男女の性愛について描く作家。直木賞の受賞のさいには「壇蜜」と称されていた。文壇のジュード・ロウと壇蜜が並ぶと、当たり前のようにオトナなムードになっていく。
桜木「島田さんは巨乳好きと聞いたので、つめものをしてこようかなとも思ったんですが、プライドが……」
島田「巨乳には二つある。
巨大なほうと空虚なほう。どちらも好きですから大丈夫ですよ」
最初っからこんな感じだ。お昼なのに、飛ばしてるなー!
トークのテーマは「小説の中の男と女」。島田の「モテ力」をひしひしと感じた1時間だった。

■島田雅彦のここがモテる1:万能で有能

島田は小説だけではなく、オペラや翻訳、俳優やタレントの分野でも活動している。
桜木「島田さん、できることがたくさんあって困りませんか?」
島田「売文業はたいへん不安定。
社会情勢に応じて干されるかもしれない」
島田はここで辻井喬(堤清二)のエピソードを紹介する。作家でもあり、セゾングループ(西武百貨店など)の創設者でもある辻井は、大型免許を持っていた。「必要ないでしょう」と島田が尋ねると、「百貨店が傾いて、物も書けなくなったときのために……」と答えていたのだとか。
島田「辻井さんでもそういう備えをしている。いたく反省して、料理を練習しました。居酒屋で出てくるようなものはだいたい作れますね」
そんな島田は、セクハラスキャンダルなどで干されたときは、鍛冶屋になりたいのだそう。
今から準備をしていて、あとは鞴(ふいご)を買えばOKという状態。
桜木「セクハラでクビになる予定があるんですか?」
島田「セクハラは事故ですからね。予定はないです」

■島田雅彦のここがモテる2:褒め上手

今回のトークのために桜木の作品を読んできた島田。「デビュー作で完成されている」と言われ、桜木は嬉しそうに恐縮する。小説家としての先輩である島田にこう言われて、嬉しくない作家がいるだろうか(反語)。
島田「わびしさとエロスが結びついて相乗効果がある。
男女の行為はどうしても照れくさいもの。やむにやまれずであったり、やましかったり、なにかから逃げる……みたいなものがあるので、むらむらっときますね」
桜木「やましさを入れないとな、とは思ってます」
島田「『おでん』(『ワン・モア』収録の短編)がよかった。読みがいがあった。童貞がいざチャンスに恵まれても、今まで童貞を守ってきたからプライドが優先しちゃう。リアリティがありますね」
桜木「童貞としたことないから、すごくいっぱい考えました」
工夫しているところや、がんばったところを見抜き、そこをピンポイントで褒めている。受賞作や表題作ではない「おでん」を具体例として挙げているのも「ちゃんと読んでくれているんだ!」感があって巧み。


■島田雅彦のここがモテる3:さらりとエロい

島田の主演映画『東京の嘘』を、トークイベントに備えて何度も見てきた桜木。映画の中での島田の第一声は「セックスしたいの?」だ。妻に向かって言う台詞。主人公は大学の教授だが妻とはうまくいっておらず、生徒と禁断の関係を結んでしまう。
桜木「あの台詞、島田さんは素でやってるんじゃないかなと思ったんですけど」
島田「明るく言ってもおかしいし、けっこう難しかったですよ。でも、主役の人は演技をしないよね。『うまい』演技をする人は脇役になる」
島田、照れないし「素」と言われて100%の否定もしない。大人の余裕だ。男性の描く性愛について聞かれたときも、さらりと答える。
島田「男の方が偏見が多い。それが転じて男根中心主義にもなる。『してほしいんだろ?』とか、『悦ばせてやる』というスタンスになる。どんなフェミニストでもそれは逃れられない」
司会「島田さんの心の中にも?」
島田「あるだろうね。退屈な男子として」

■島田雅彦のここがモテる4:アドバイスが的確

性愛を描くときには、作家の人間性がはっきりと出る。桜木の「デビューのときからずっと冷めた女ばかり書いている」という発言に対して、島田は「そんなことないよ〜」なんて言葉は返さない。
島田「自己分析を徹底的にしないと、同じ話ばっかりになってしまう。自分という感覚器官は変えられないけど、感覚のリニューアルはしないとダメだよね」
ある意味手厳しい、真摯なアドバイスだ。桜木は深く頷きつつ、ちょっとおどけて返す。
桜木「それは相手を変えるってことですか? 私、同じ相手(夫)とずっと一緒にいるんですが……」
島田「相手を変えるってのはいちばん安易なことだけど……それもいいかもしれませんね」
ともすれば不倫推奨みたいな台詞だが、オトナの軽口の応酬という感じ。真面目なアドバイスと、さらりエロスを混ぜるという上級テクニックだ!

■島田雅彦のここがモテる5:辛辣

女性に対して優しいだけではモテない。ときどきぎくりとするようなことを言うと「この人、女をわかってるんだな……」となる。
昨今の「美魔女ブーム」に対して、島田は肯定的な立場ではない。
島田「いろいろな薬とか施術とかあるんでしょ? 遊び足りなかったのか、もう一花咲かせようって感じだよね」
桜木「『もう一花』って、よくわからないんです。女の人はずっと咲いてるんじゃないのかな」
島田「造花なら枯れないけどね」
こ、怖っ! この言葉が僻みや嫌味ではないのがわかるから、余計に怖くてドキドキするよ(ある意味吊り橋効果だ)!

島田は自分がイケメンであることをはっきりわかっていて、女性に対して自信がある。その自信もモテオーラを増している。「※ただしイケメンに限る」の部分もありますが、モテたい男性のみなさん! 島田雅彦に学びましょう!
(青柳美帆子)

●電子書籍で「島田雅彦」リスト

島田雅彦芥川賞落選作全集上 [Kindle版]
島田雅彦芥川賞落選作全集下 [Kindle版]
ニッチを探して[Kindle版]
退廃姉妹[Kindle版]

●電子書籍で「桜木紫乃」リスト

ホテルローヤル [Kindle版]
ラブレス [Kindle版]
氷平線[Kindle版]
誰もいない夜に咲く[Kindle版]