4月12日(土)からはじまったドラマ「弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜」(NTV/土・21時〜)。第1話の完成度がものすごく高くて、ドラマ好きとしてはニコニコの連続でした。


視聴率も13.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、まずまずの滑り出しです。
ドラマの概要はこうです。
頭はいいけれど野球は弱い、超進学高校の野球部員を、臨時教師・田茂青志(二宮和也)が、タイトル通り「弱くても勝てます」論理で、甲子園を目指して奮闘させるというもの。

演技派で知られる嵐の二宮和也(以下ニノ)が主役ということで、最初から期待はしていましたが、そのほかのキャストも盤石でした。
有村架純、福士蒼太、荒川良々、薬師丸ひろ子(登場順)と、昨年話題だったドラマ「あまちゃん」ファンにはたまらないキャストで、ニノのバックアップ体制を強いていることに、このドラマの野望を感じます。

青志が赴任してきた母校・小田原城徳高校の生徒役の有村、福士、野球部の頼りない監督役の荒川・・・と来て、青志のアパートの管理人役で薬師丸ひろ子が登場し、これでもか感の強さに若干苦笑しているとーー
なんと、薬師丸ひろ子演じる楓が経営しているのが、喫茶店。

クドカンドラマには欠かせないシチュエーションです。

まさか、ここでニノがナポリタン食べたりしないよね? と思っていたら、カレーで、ちょっとホ。
カレーはクドカン脚本、ニノ主演のドラマ「流星の絆」のハヤシライスつながりですね。
そして、店内のランチ(たぶん)メニューのAにはナポリタンが。
SNSで話題にしろとばかりの、つり餌に食いつくのは悔しいですが、書かざるを得ません。

つり餌は、「あまちゃん」だけではないんです。
なんと、ねつ造事件まで登場。

ニノ演じる青志は、そもそもは、大学のラボで生物学を研究していました。
ところが、教授の研究ねつ造疑惑(!)によって研究費が凍結されてしまいます。教授がこの疑惑をはらすための1年の間、ラボは休止、青志はその間、母校で教師をやることになったというわけです。

あまちゃん、小保方さん、と、つかみは大成功ですが、「弱くても勝てます」は、単に話題のものにのっかっているだけの「商品」ではなく、志ある「作品」であることは、ひしひしわかります。

例えば、青志の高校時代の回想シーンです。
ここは凄かった。

青志は母校で野球部に入っていましたが、野球が下手で負けてばかり。
ある日の試合でさんざんな負け方をします。
ぼろぼろになった青志は、ロッカーに額をどんどんとぶつけ、「痛え、痛え」とつぶやきながら泣くのです。

ストレートに負けて悔しいと泣くよりも、こういうまわりくどいことをすることで、心の傷が深くて複雑であることが伝わってきます。

「いいなあ」と薬師丸ひろ子演じる楠見楓が、つぶやくシーンがドラマに時々出てきますが、まさに「いいなあ」とうっとりしたい場面です。


脚本は、倉持裕。
主戦場は舞台で、演劇界の直木賞+芥川賞である岸田國士戯曲賞を受賞している優れた作家です。
現実からちょっとスライドした不思議な世界を描く作家だからこそ、現代、学園、スポーツを要素にしたドラマにひねりを加えてくれそう。
「まずは対象となる生物を観察する。生物学者としての基本だな」とか「なにをしてもエラーはしただろう。ただ、そもそもなぜ左利きのおれがキャッチャーをやったのか。
そこから検証すべきだろうな」とか「苦手分野をさけて得意分野に特化するっていうのは生物としての自然な流れだからな」などと言う理屈ぽい、東大出、研究職の青志らしい台詞もいいし、突如でて来る「試合が終わった後、赤岩くんのユニフォームだけが熱闘を物語ってた」(有村演じる柚子の台詞)なんていう詩的な台詞も良いです。

また、台本にあるか不明ですが、冒頭、青志の高校時代の回想場面、キャッチャーミット越しの青志のアップは、鼻にうっすら痣があります。野球が下手な青志は、何度もボールをぶつけているのだろう、と想像してしまいます。このように言葉ではない表現もたくさん。
演出は、菅原伸太郎。「泣くな、はらちゃん」や「悪夢ちゃん」など、土曜9時ドラマの演出を多く手がけています。


プロデューサーは、「泣くな、はらちゃん」「車イスで僕は空を飛ぶ」「妖怪人間ベム」「Q10」「野ブタ。をプロデュース」「すいか」などの良作を手がけている河野英裕なのですから、このドラマ、大いに期待していいはず。

主人公の青志は、前述の、ロッカー頭ぶつけシーンをはじめとして、大変ひねくれていて、そこもくすぐりどころ。

まず、校長に「なんでもやります」と言ったそばから「なんでもやるって気持ちなだけで、実際やるわけではありません」と開き直ります。

そして、彼にとって教師の仕事は腰掛けに過ぎず、就任の挨拶で「1年後、(ラボに)まいもどる」と堂々と宣言。「戻るのか」「教師は不本意なんだな」と生徒につっこみを入れられます。

家出している赤岩(福士蒼太)に、「来い」と言ってつれていくのは、学校の理科室。従来なら、自分の部屋に泊めるであろうところ、青志はそんなことはしません。

青志は、この手のドラマにありがちな熱血先生では全くないのです。
「野球自体が無駄なんだ。やらなくたって 誰も困らない」なんてことも言っちゃいます。
とはいえ、どうやら本当は野球が好きなようなフラグもちらほら立っていますが、常に斜に構え、野球への思いにふたをしています。
自分が頭いいというプライドは、あからさまに出すにも関わらず、です。

この複雑な人物像を二宮和也が、シリアスさとユーモラスさをミックスさせながら鮮やかに表現しています。

さて、青志に近い人物が、もうひとりいます。家出中の高校生・赤岩です。
彼もまた、野球が全然うまくなくて、試合でさんざんな目にあって、野球部を辞めています。

でも、赤岩は青志と話していて、
「苦手と下手は違います。苦手とは自分でそう思ってるってことで下手は客観的に見てそうだってことです」と独自の論を展開、さらにおずおずと「怒られそうですけど、自分の中で、野球は得意です」と宣言。
それを聞いた青志は、「これは『好き』ってことだな。得意分野ならのばすべきだな」と赤岩の気持ちを肯定します。

ここで青志は、自分の高校時代の野球愛を思い出していたようで、やがて、「弱くても勝ちたい」という強い思いによって、青志はさんざん打ちのめされた常東学園と試合をやることにします。
けれど、部員は6人しかいないので、補充しないと試合ができません。
青志は、頭の良さを活用して、学校でくすぶっているふたりをスカウトします。

彼の、人をその気にさせる論法は、さすがです。
中でも特に唸ったのはこれ。

「バッターボックスに立てるのはひとりだけなんだ
常にひとりだけなんだ
その場所をオーケストラに例えるなら
ここ、指揮者台だ
観衆の注目を一新に集める場所だ
オーケストラとの違いはただひとつ
野球の場合そこに立つチャンスが全員に、しかも平等に、
そして何度も訪れるということだ」

これは、オーケストラ部で、指揮者をやりたいけれどシンバル奏者の身に甘んじているも人物を、野球部にスカウトするための青志の言葉。
詭弁ではありますが、その反面、野球に、人類皆平等な魅力が秘められていたとは!と衝撃を受けました。

こんな調子で、なんとか9人集まった、城徳高校野球部は、晴れて、常東学園と試合をしますが、この試合の経緯が、とんでもなくダメダメです。

見かねた青志が、相手チームの監督に対してとった行動は、思いがけないものでした。
青志の言動によって、辞めた赤岩もとうとう戻ってきて、ピッチャーとしてマウンドに立ちます。

「野球なんて無駄だ
こんなもの やったってやらなくたっておんなじだよ

でもな この大勢に支えられた無駄は 単なる無駄じゃあない
これ 偉大なる無駄なんだ

無駄だからこそ勝ち負けにこだわることができる
じゃんけんと同じだ
買ったからといってえらいわけじゃないし
負けたからといってだめってわけじゃない
だからこそ
だからだからこそ、よけいなことを考えずに思いきり勝負することができるんだ
とにかく勝とうぜってな

おそらくおまえたちは弱いまんまだ
でも勝つ
むしろ弱いまんまで勝つその方法を考えよう

弱くても勝てるんだっていうことをいっしょに証明してみせようじゃないか」

青志は、こんな名台詞で生徒たちを鼓舞します。

たとえ青志が斜に構えていようとも、大変感動的な展開の第1話。
弱くても勝てるとは、魅力的な言葉です。
ただ、青志と、野球部の生徒たちは、頭の良さにおいては、強者なのですが。
そして、はたと、もしや青志は過去、自分が負けた悔しさをはらそうとしているだけなのではないか? という疑惑も沸いてくるのも事実・・・。

青志の本心はいったい? そして、小田原城徳高校野球部の人々は、我々視聴者にどんな希望を与えてくれるのか? 第2話が待ち遠しい!

あと、このドラマですごいと思ったのは、市川海老蔵が、回想で高校球児役を演じているのですが、違和感がなかったこと。36歳なのに。30歳のニノの高校生役もはまっていましたが、それ以上。なんなんだろう、あの若さ。
(木俣冬)

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