公開中の『闇金ウシジマくん Part2』は、10日で5割(トゴ)、1日3割(ヒサン)という利息が非合法かつ非情なまでに高い闇金会社の社長・ウシジマ(山田孝之)を中心に、お金に翻弄され、どん底の人生を余儀なくされた人々の姿をこれまた非情に描く問題作。
真鍋昌平の漫画を原作にした深夜ドラマから映画化され、今回の映画第2弾は、ナンバー1を目指す新米ホスト(窪田正孝)、ホストに入れあげる女(門脇麦)、その女のストーカー(柳楽優弥)、多額の借金を負わされ、闇金の見習い社員になる男(菅田将暉)、ウシジマのライバル闇金のクレージーな女(高橋メアリージュン)などのくせ者たちがつながりあい絡み合った、スピーディーかつドロドロの金融地獄曼荼羅には、ただただ見入ってしまう。

漫画の映像化を企画して、自ら監督もしている山口雅俊に、作品の魅力を聞いた。

───今日は何件目のインタビューですか?
山口 6つ目ぐらいです。
───もう6回も! 同じ話ばかり繰り返してお疲れでしょうね。
山口 いえ、大丈夫です(笑)。でも、ある程度同じこと言うのって大事ですね。
───まあそうですね。
映画の宣伝のために絶対言っとかなきゃいけないことっていうのはありますよね。
山口 そう。「これは前の取材で言ったから良いや」ってなると困る(笑)。
───ではまず、基本的なところから伺っていきたいと思います。この『闇金ウシジマくん Part2』なんですけども、1があって2があって……好評だったから2ということですよね。山口さんとしては、これは想定内ですか?
山口 そうですね。
最初に原作読んだ時は「きっつい話だな」と思ったんだけど、逆に言うと、以前僕がプロデュースして映像化した『ナニワ金融道』(96〜05年まで6回、フジテレビのスペシャルドラマ)として放送された)と比べて、構造的にも時代的にも新しいものでした。『ナニワ金融道』は、SMAPの中居正広くんが演じる主人公が、視聴者と同じビギナーの目線で、緒形拳さんや小林薫さんなどの芝居で見せる大阪の街金のエグい世界を見て驚き、成長していくという、ものすごくオーソドックスな構造です。「闇金ウシジマくん」は逆で、主人公のウシジマ(山田孝之)は全くブレず、債務者やウシジマに挑んでいく側にドラマがある。ウシジマは「状況」に過ぎないという話です。しかも、主人公の彼がやっていることは犯罪です。だから話としてはすごく難しい。
ただ、この新しいジャンルというか、新しい物語の構造を、キャスティングも盤石にして、しっかり作れば、広く受け入れられるだろうという意識はありました。現代の拡大する格差社会や、富の偏在がより苛烈になってきたこの時代をうまく描いているので、観客は逆にそれをエンターテイメントとしておもしろく見るだろうという予感はありましたね。
───『ナニワ金融道』を山口さんがやられた時代に『ウシジマくん』があるよりも、今の方が『ウシジマくん』の世界が受け入れやすくなっていますか?
山口 あの時代に『ウシジマくん』をやったら、頭おかしいと思われます(笑)。
『ナニワ金融道』の世界では、「トイチ」という10日で1割の金利が出てきて驚かれた。もちろん、トイチも暴利ですが、今ではそれがもはや牧歌的に見えるほどひどい、10日で5割の「トゴ」や1日3割金利の「ヒサン」がある。ウシジマのところは10日で5割が基本だけど、ギャンブルしているような客には1日3割のヒサンで取るじゃないですか。
ヒサンなんて返せるわけないですよね? でも、ギャンブルを日常茶飯事でやっているような人は、「1日3割」でもなんとかなるような気がするんですね。エリエールの大王製紙の井川元会長も、「ギャンブルで20億円を100億円にして、それで子会社から借り入れていた借金を返せると思った」と(笑)。あんな賢い人でもそう思ってしまうのですから。そういう意味で、『ウシジマくん』は何か、新しい時代の新しい作品ですよね。ジャンル的にも新しいし、テーマ的にも新しい感じがします。
───その新しい漫画が誕生した時期(2004年)に山口さんは目を付けていたと。

山口 そうですね。わりと早い時期に。
───2010年、山口さんが深夜帯でドラマを始めて、映画化もされた時も、みんな「けっこう挑戦してるな」という印象で見ていたと思うのですけれど、それが2になって、山口さんが今おっしゃったように世の中の状況とますます合ってきていて……山口さんのプロデューサーとしての勘ってすごいなあという気がしているのですけれども。
山口 当時、映像化するなんて結局僕以外の誰も言ってなかったと記憶しています(笑)。『ナニワ金融道』なんかは、当時すごい人気があって、故・伊丹十三さんなんかも映像化権を取りにきていて、伊丹さんと競争していたんですよ。一方、この作品の映像化が世間的に注目されたのは、山田孝之くんが主人公をやってくれたことがでかいですよね。

───山田さんの存在がディープな世界を緩和しているということですか? それとも、その世界を増幅させているのか。
山口 増幅させているんだと思う。ウシジマというのは、もう本当に苛烈な状況の象徴に過ぎなくて。人間としてぶれないから、ウシジマの人間のドラマというのは、ほとんどないんですよ。映画では、戌亥役の綾野剛くんと絡むところで多少垣間見えるものがあるかもしれないけど……、生まれ故郷であったり、交友関係であったり、人間らしい部分を表す部分がまったく出てこない。あっても、スパイスとして忍ばせるぐらいの感じなんですよね。そうすると、ただ単に、外側の形だけを作れば良いように見えるけども、そうではないんです。しかも、内面的にもウシジマになりきるのはすごく難しい。ウシジマは原作ではすごく柄が大きいから、そういう人をキャスティングするのが常道でしょう。体型で選んじゃいがちですね。でも、僕はそんなに大柄ではない山田くんを選んで、山田くんも快諾してくれました。山田くんは役になりきる時に「恥ずかしい」というような気持ちが全然ない役者です。裸になろうが何しようが恥ずかしくも何ともない。「役の時はその人間であって、山田孝之ではないから」と山田くんは言っています。役者として当たり前の話だけれど、そういうことを言う役者が、今、すごく少なくて。そんな山田くんがウシジマの内面を充実させてくれた。中心になるウシジマが成立したからこそ、今回みたいな若手の綾野くんや菅田将暉くん、窪田正孝くん、中尾明慶くん、柳楽優弥くんや高橋メアリージュンさん、門脇麦さんや本仮屋ユイカさんが、「ウシジマに挑戦したい」「山田孝之と共演したい」という思いで集まってくる。こういう幸せな状況が生まれたという感じですね。
───本当に今回はいろんなおもしろい俳優たちがいて。柳楽優弥さんのストーカーも本当に気持ち悪かったし、中尾明慶さんと木南晴夏さんのヤンキー夫婦の生活感、窪田正孝さんの成り上がりたいホストの切実さ、門脇麦さんの変化など、皆さん、素晴らしい芝居をしている。ウシジマの旧友で情報屋・戊亥役の綾野さんもすごくおもしろくて。山田さんと綾野さんのコンビがすごく良かったですよね。
山口 そうですね。
───ふたりが並んでご飯を食べているとき、「向き合わないでなぜ並ぶ?」みたいな感じとか(笑)。あれは監督の演出ですか?
山口 たぶん、ウシジマと戌亥は、仲は良いんだけど、ウシジマは戌亥に対価を払って情報を得ているので、ある緊張関係もあるだろうし、その2人の空気感まで撮りたい。そうすると、何となくカットバックにふさわしくないんですね。
───向き合ったふたりの顔を交互に映すのではなく、ふたり並んで映すことで、関係性がちゃんと出るという。
山口 そうそう。まあ、カットバックで俳優ひとりひとりのアップに状況説明のためのツーショットで広い画という組み合わせは、テレビドラマとかでは良くやっていますけど。
───じゃあ、あえてカットバックをやらなかった?
山口 ふたりはカットバックしない関係なんです。空気を共有していて。
───おもしろいですね。山口さんは、もともとフジテレビのプロデューサーで、独立されて、『闇金ウシジマくん』で監督業も始められた。プロデューサーの視点と監督の視点というのは同時にやれるものなんですか?
山口 プロデューサーと監督というのは、本来は相反するものです。
───それをひとつにまとめて、しかも脚本も書いてらっしゃって、という。
山口 『闇金ウシジマくん』の場合は、スケジュールも予算もないところから始めたので、ジャッジがすごく早くないといけない。だから、全部の役割をひとりでやった方が良かったんです。ただ、現場で話をする時に「今から監督として話をします」とか「プロデューサーとして話します」みたいな分け方は、自分の中ではあります。
───それを口に出して言うわけではなく?(笑)
山口 まあ、ちょっと分かりづらい時は「今からの発言はプロデューサーとして言います」と断ることはあります。
───『闇金ウシジマくん』の場合は、監督としての発言が多いんですか? それともプロデューサーの方が多いんですか?
山口 いや、全て同じぐらいあります。現場ではほとんど監督として発言しています。
というわけで、後編は、ほとんど監督の山口雅俊さんのお話です。

(明日21日公開予定の)後編に続く