『告白予行練習 ヤキモチの答え』という本が人気だと聞いて、普段ティーンズ向け恋愛小説は手に取らない自分も、興味が湧いて読んでみたわけでして。
様々なキャラクターが、どうやって告白をするか思い悩む物語でした。

かーっ、照れる! おじさん照れる!! 

『告白予行練習』シリーズの二冊目にあたるこの巻。
ヤキモチやきでドストレートに感情をぶつける熱血青春少年の蒼太と、恋愛がさっぱりわからないあかりの、真剣でちぐはぐな告白模様(恋愛模様までいってないんだこれが)が描かれます。

確かに「初恋」という題材で描かれた少年少女を見るのは心地いい。
にしてもだよ。
発売後即重版がかかり、累計30万部売れるっていうのはちょっとすごいよ。
ティーンズ向け恋愛小説が星の数ほどある中で、なぜこの作品は売れているんだろう?

実はこの作品は、原案がボーカロイド曲の「ボカロ小説」です。

表紙だけだと、全くわからないですね。

原案になっている曲を作っているのはグループHoney Works(通称ハニワ)。
ボーカロイドのキャラクター、鏡音リン・レンをモチーフにした恋愛曲『スキキライ』を作り、ニコニコで大ヒット。
小説化もされています。こちらは見た目がリンレンなので「ボカロ小説だな」とわかりやすい。

2011年に、10cm横の相手に気持ちを打ち明けられない恋物語『初恋の絵本』という楽曲が発表されます。

ここのニコニコのコメントが、見ている子達の、恋バナ打ち明け大会になっていてびっくり。
「○○くん、小学校の時から好きだよ」
「同クラで前の席に好きな人が…」
「○○のバーカ。大好き」
「小2の時から○○に片思い」
うおお、今の小中学生ませとるな!
……と思ったけど、こういう話はみんな当たり前にしていましたね、クラスの中で。
それが、だれでも見られる「ニコニコ動画」という場の匿名コメントで、知らない人同士でも共有されるようになりました。

その後、Honey Worksは完全オリジナルキャラのストーリーPV付き楽曲を、連続して発表。
現時点で小説化されている『告白予行練習』と『ヤキモチの答え』が、「告白」をテーマにした楽曲です。

少年少女達がどうやって相手に思いを伝えるか。物語仕立ての曲になっています。

面白いのは、歌のクライマックスになって、キャラ達の告白が近づいてくると、コメントが一斉に書き込まれること。
「いけえええええ」「がんばれえええええ!」って。
見ているメインの層は小中学生。キャラの「初恋」を見て、応援しているのです。

初恋の時の告白できるかできないかってのは、みんなが通る道だもんね。重ねあわせますよ。
基本片思いで、恋愛が成立していない、というのもポイント。

このような背景の元、小説『告白予行練習 ヤキモチの答え』が生まれました。
主役の蒼太とあかりの二人をはじめ、蒼太のいる映画研究会の面々、あかりの友達などの群像劇になっています。
全員、本当の「告白」がわからず、どうにも恋愛がうまく行っていない。


お気に入りは、蒼太があかりに、決心して告白したシーン。
「だから、好きなんです! 絶対悲しませないし、毎日だって笑わせてみせます! お弁当だって毎日つくってほしいです!」
「え……毎日お弁当つくるのは面倒くさいので、ヤです」
だよね。

今のニコニコ動画文化、ボカロ小説文化が、恋愛小説にどう影響を及ぼしていくのかを見るのに、うってつけのサンプルだと思います。
曲を聞いて、若い子達のコメント見てから小説読むのと、そうでないのとではもう、面白さは雲泥の差。
Honey Worksの楽曲はさらに「another story」として、逆サイド(告白される側)の視点もつくられています。これも小説に盛り込まれている。

告白する子、される子、応援する子の気持ちをわかった上で読むことで、小説の「恋ってなんだろう」「告白ってなんだろう」というテーマがより一層、自分の身近な感覚につながってくる。
恋愛小説という、「夢を見たい」「共感をしたい」というジャンルにおいて、ボーカロイド曲を視聴し、コメントする体験は、今後物語にのめり込ませる強力な武器になりえます。
 
ああ。
「めっちゃ共感できるー」って素直に言えていた頃が、ぼくにはないんですけど。
ないんですけど、なんで胸キュンするんだ。
えい畜生。初恋した小学校時代に引き戻されるわ。
(たまごまご)


藤谷 燈子(著) HoneyWorks(原案)
『告白予行練習』
『告白予行練習 ヤキモチの答え』