「これは不幸の手紙です。この手紙と同じ手紙を、3日以内に3人のひとに出しなさい。さもなければ不幸になります」

「不幸の手紙」は、昭和40年ごろに流行した。
突然、差出人不明の手紙がやってきたかと思うと「不幸になる」という文面なのだ。
赤いペンで書けという指示があるパタンもあって、おどろおどろしい。

ピュアな子供は「不幸になる」という不気味な手紙に恐れおののく。
恐怖から逃れるために泣きながら、何通もの不幸の手紙を書き、ともだちに送ってしまう。

あっという間に「不幸の手紙」は大ブームとなった。

バカバカしいと思えて、無視して手紙を捨てられる子は、いい。
だが、そうできない子供もたくさんいた。
怖くて、送られてきた手紙をどうすればいいのか不安にさいなまれる。
「不幸の手紙」を友達に送れば、罪悪感でいっぱいになるだろう。
送らなければ不幸になるかもしれない。
ブームが過熱化したころは、公共機関や雑誌編集部が「不幸の手紙」を引き受けるという処置を取ったという話も聞いた。

不幸の手紙に対抗するように「幸福の手紙」というのが少し流行った。
「幸福になる」という逆のバージョンだ。

「これは幸福の手紙です。この手紙と同じ手紙を、3日以内に3人のひとに出せば、あなたは幸福になります」


で、ただいま大流行中の「アイス・バケット・チャレンジ」である。
「アイスバケツチャレンジ」「アイスウォーターチャレンジ」と名称はいろいろ。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の認知度をあげるムーブメントだ。

twitterやFacebookなどでメッセージが回ってきた人は、
「24時間以内に氷水を頭からかぶり動画を公開する」というチャレンジを受けてたつか、
挑戦しない場合は、100ドル(約1万円)をALS協会に寄付する。
そして、次のチャレンジャーを3人指名してメッセージを回すという仕組みだ。

アマゾンのジェフ・ベゾスザッカーバーグ、ザッカーバーグから指名を受けたビル・ゲイツと、そうそうたる富豪たちがチャレンジしている。

映像も凝ったもので、パフォーマンスとしてもクオリティが高い映像になって見応えがある(ビル・ゲイツは、アイスバケット・マシーンを設計し作って、そのマシンで水かぶっててスゴイ)。

日本でも、著名人が水をかぶる。
堀江貴文山中伸弥、IT系企業のCEOの人たち、
さらに、はあちゅうさんは、
“せっかちものの私は、
自分がやらないうちから、
バトンを次にまわし”
たりして、はあちゅう主義、ここに極まれり。
8/20(水)にソフトバンクの孫正義もかぶる(かぶったようです)。
水をかぶるが寄付もすると明言している映像も多い。

調べてみると、
「一般社団法人 日本ALS協会」の「お知らせ」にこう書いてあった。

“アメリカで始まったフェイスブックによる「ALSアイスバケットチャレンジ」
というALS患者と患者団体を支援する募金イベントが広がっています。
日本ALS協会でも先日から理事有志の呼びかけでスタートしました。”

日本ALS協会の理事有志の呼びかけでスタートさせちゃってるのか、うーん。

いまは、善意と共に、著名人やセレブの寄付パフォーマンスとしても成り立っているが、
「バトンが回ってきたことに困惑する」という人にも拡散していくだろう。
心理的圧力で行動を喚起し、ネズミ算式に拡散する仕組みは「幸福の手紙」や「不幸の手紙」といったチェーンメイルと変わらない。

だから、バトンを無視したことで、
そのひとを批難したり、単純に評価したりすべきではないだろう。
もし、そんなことになれば「圧力で行動を強制する仕組み」に変わってしまう。
一時的なブームで終わらせないためにも、そのあたりは慎重に考えるべきだ。

ああ、でも。
「意義のあることを楽しくやってるのに水をさすなよ」って言われそうだな。
ごめんね。水をさすべきじゃないのかもしれない。
このブームがヒートアップして、どんどん参加者が増えたほうがいいのかもしれない。
1日3人ペースで増殖すればネズミ算式に2週間もしないうちに(ちがう? 18日間?)日本の人口を突破する。
別のことで寄付してほしいひとが、マネして同じようなことをはじめるだろう。
そうなれば、あらゆる人があらゆる人に寄付をしあって、お金がぐるぐるとすごい勢いで世界中を回るようになり、貨幣価値がバターみたいに溶けていくだろう。という幻視は、ちょっと綺麗だ。



(米光一成)