もはや説明不要なほど注目度の高い連続ドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち」(フジテレビ木曜22時〜)。いまの結婚生活に物足りなさを感じているふたりの主婦・紗和(上戸彩)と利佳子(吉瀬美智子)がほかの男性と恋に落ちるお話も、残すところあと2話となりました(最終回は9月25日)。


紗和と北野(斎藤工)、利佳子と加藤(北村一輝)はどうなるの? と毎週木曜日の夜が待ち遠しくてならないかたわら、もうすぐ楽しみがなくなってしまう一抹のさみしさも感じる今日このごろです。

最初は、日常の退屈さをまぎらわすロマンチックな出来事だった不倫が、本気になるにつれて、単なるいいものではなくなって、9月11日放送の9話では、紗和は、北野の妻・乃里子(伊藤歩)に「泥棒猫」と公衆の面前で罵られた上に警察で事情聴取され、パート先でも白い目で見られ、姑(高畑淳子)にも夫(鈴木浩介)にもバレてしまいます。

パート上司の「(客の旦那と不倫したからといって労基法があって解雇はできないから)泥棒猫でも飼わなきゃならない」という嫌みな台詞は最高でした。さすが、井上由美子の脚本。

一方、利佳子のほうは、家を出て、加藤と暮らし始めますが、お金を稼ぐためにホステスとして働きはじめます。そんなとき、夫・滝川(木下ほうか)の策略で、加藤の元嫁・亜紀(高橋かおり)が表れて、なんだか複雑なことに・・・。

利佳子のお尻を触るお店のマネージャー役が村上淳。贅沢なキャスティングでした。

元嫁が絵画の仲介事業をしていて、加藤の仕事の役に立ちそうというところで、これまで常に自信にあふれていた利佳子の立場ががぜん危うくなります。ホステス用の安っぽい支給ワンピースを着た利佳子と、おしゃれなドレスに身を包んだ元妻が向き合うシーンは、いたたまれないものがありました。

利佳子は紗和に言います。
「(雑誌には)昼顔妻は家庭を壊さず器用に情事を楽しむって書いてあったけど、
そんな余裕ない。
深い関係になって、ああ、この人好ききかもと思ったときには本気になってる。しょせん昼顔妻なんてどこにもいないのよ」
常に自信満々余裕綽々だった利佳子は、恋をして弱くなってしまった感じがします。

それとは反対に、平凡な主婦で、いつもどこかで控えめな印象だった紗和は、恋して強くなりました。恋をすると、人は変わるということでしょうか。いえ、恋をすると、知らなかった自分の別の顔に出会うのかもしれません。
紗和は、困難に立ち向かっていく毅然とした面が育ってきて、利佳子は、愛した人に尽くす楚々とした面が際立っていく。

もっとも、もしかしたら、こちらこそが、本来あり得たかもしれない自分である可能性も。
人は、本当の自分を教えてくれる相手を、いつも探しているのかな、と「昼顔」を見て思いました。

紗和の人間性を映し出した北野は、何もしないで、いつも申し訳なさそうな顔をしているばかりの、でくの棒みたいな男ですが、図書館での修羅場では、紗和を全身でかばいました。
紗和の旦那にも、実直そうに、90°腰を曲げて謝罪。
こういうどこまでも生真面目で、やるときはやるみたいなところが、俺様キャラで道ならぬ恋をする人よりも、視聴者の好感を呼ぶのでしょう。
鍛えてまっせ! 的な筋肉じゃなくて、でこぼこ、ギラギラと主張してないのに、いい上腕しているんですよね、斎藤工。
でくの棒っぽいけどでくの棒じゃない、そのキワキワ感がこしゃくです(褒めてます)。

でもですね、よけいなお世話ですが、ちょっと考えてしまうのは、このまま、紗和と北野、利佳子と加藤が結ばれたとしたら、結局、世の男は、自分より強い女は要らないという図式が見えてしまうってことです。
北野は、自分より出世している妻の言動がなんだかんだでやっぱりきつい。
加藤も、貧乏をいやがって出ていってしまった元妻と元さやには戻れそうにない。なぜなら、ふたりの女性とも、夫を応援しているようで、夫のプライドを傷つけているからです。亜紀を見つけてきた滝川は彼女を「生意気そうな女」と表していました。

仕事で負けまいとがんばっている延長線上で家庭でも微妙に出過ぎてしまうことを、女としては気をつけなきゃいけませんね。

女は変わりたい。男は、ありのままの自分をよしとしてほしい。
劇中、「女は自分の好きになった人を特別だって思いたがるけど、特別な男なんていない。女には遊びの恋ができないのと同じよ」と利佳子が言いますが、「特別な男なんていない」という井上由美子の視線は鋭いですね。

紗和の夫・俊介を追いかける美鈴が、「男として自信を失いかけてる年齢って振り回すと面白いから」と言ったとき、ああ、なるほど、俊介が寝る前にクリーム塗ったり、日焼けを気にしたり、抱き枕抱いて寝たり、女性化していたのは、
美鈴がいうところの感情の複雑な表れだったわけか、と知らされるのです。

だから、ちょっと強引で不気味な美鈴のアプローチも、「いじらしい」なんて思ってしまう。自分を見て肯定してほしいのですな。

このように、井上由美子の視点は、大変、フォーカスがぴしりと合わさっていて、見ていて小気味いいのです。
寝取られ妻・乃里子の紗和への追いつめ方も、さすが、研究室で出世コースにのれるだけはあるという隙のないものでした。

井上は、不倫ものを描くのは、これがはじめてではありません。2010年、井上はテレビ朝日で「同窓会〜ラブアゲイン症候群」(TBSの「同窓生~人は、三度、恋をする~」とはちがいます)の脚本を書き、こちらも高視聴率をあげました。
こちらは、30年ぶりに同窓会で会った男女が恋に落ちたことでこれまでの生活が激変するという話です。主要キャラが45歳で、不治の病、政治的な事件など、シビアなエピソードも盛り込まれていて、「昼顔」よりも大人のドラマでした。
こちらでは、週刊誌編集長がサブタイトルにもある「ラブアゲイン症候群」という言葉を使っていました。

「昼顔」9話で、俊介が、紗和とのぎくしゃくした関係をごまかそうと歌う「森のくまさん」は、「同窓会」にも出てきているのです。また、「同窓会」では、妻が夫に「パパ」と言って「パパじゃない」と反抗される場面もあります。

面白いのは、「同窓会」から4年後に、フジテレビで井上由美子を起用して「昼顔」という新しい不倫の形を描き、TBS では新たに「同窓会」で再会する男女のドラマをつくったというところです。

ところで、気になるのは、目下人気画家になりかかっている加藤。亜紀が、外国の画集を買い集めていた彼の過去の話をしたときに映った画集と加藤の絵が似ていました。「誰にも言わない」という亜紀。加藤の絵ってもしかして・・・この秘密、最後の爆弾になる?
(木俣冬)