「ぬいぐるみ専門の旅行会社を知っていますか?」
そんな文章が帯に書かれた書籍『お客さまはぬいぐるみ ~夢を届けるウナギトラベル物語~』(東園絵/斉藤真紀子・著、飛鳥新社・刊)を読み、正直とても驚いた。本当に、ぬいぐるみ専門の旅行会社が実在するということに! 
世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

ウナギトラベルは社員たった一人の小さな旅行会社。
持ち主の代わりに、ぬいぐるみに旅をさせるツアーを企画&運営していて、お客さまから送られてきたぬいぐるみをさまざまな場所に連れて行き、撮影。その写真と短い文章をFacebookやTwitterに随時あげて旅の記録を報告するほか、ぬいぐるみを持ち主に送る際、写真データも一緒に送るというサービスも行なっている。まさに本格的なツアー会社。

本書は、実際にウナギトラベルに申し込み、ツアーに参加したお客さま=ぬいぐるみたちが旅をしている様子と共に、その持ち主たちに焦点を当て、参加の動機や背景、ぬいぐるみを旅に出したことによる心の動きなどを紹介したノンフィクション。文章中心で綴られた4つの物語と、写真を中心に見る3つの物語が収録されていて、どのエピソードも心があったかくなるものばかり!

たとえば、物語のひとつ「くまちゃんの旅 冒険」では、親離れができない6才の男の子・崚平くんのお母さんが、彼が大事にしているぬいぐるみの「くまちゃん」を旅に出す。お母さんの目的は「くまちゃん」が自立した姿をみせて、崚平くんの奮起を促すこと。
ツアー中の写真で見る「くまちゃん」は、お風呂に入ったり、食事をしたり、同じツアーに参加中の仲間たちとじゃれあったり、本当に旅を満喫しているようで、とっても楽しそう。そんな旅の写真を眺めがら、いつのまにか崚平くんのお母さんと一緒になって、彼の心の変化を見守っている自分に気付いたりも……。
世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

また、「カエルの旅 願い」では、突然の事故で母親を失った女性・雅美さんが、旅行に興味を持っていた母への手向けにと、カエルのぬいぐるみを買って旅に参加させる。実は、雅美さんは母親とぎくしゃくした関係だったのだが、やがてカエルが旅する姿を母親と重ねるようになり、複雑な思いを乗り越え、先へ進んでいくという物語。これは個人的にも特に心に残ったエピソード。というのも、ぬいぐるみに強い思い入れがある参加者が多い中、雅美さんはぬいぐるみ自体にもともと興味がない。
それなのにカエルと母親の存在を重ねていくうち、今までにない思いが沸き起こるところが興味深く、感動的でもある。
世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

他には、休職中、部屋にこもりがちな毎日を送る女性が、ぬいぐるみツアーに申し込んだことで一歩を踏み出す「くまこさんの旅 一歩」、重い病で眠り続ける子どもを持つ二組の家族が、それぞれ子どもの名前をつけたぬいぐるみに旅を託す「美羽ちゃんととしくんの旅 記憶」といったエピソードを収録。どちらもかなり読み応えがある。
世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

さらに、写真と短いコメントで綴られている3つのカラーフォトストーリーも可愛くて楽しい。60年ぶりに来日を果たした、熊のぬいぐるみのエピソード「60年ぶりの日本ツアー」、寄付によって旅費が賄われる“ぬいぐるみ奨学生第一号”としてアメリカから旅に参加したワシのガイさんのエピソード「奨学生がやってきた」の2つは、世界からやってきたお客さまの物語。既にウナギトラベルには世界からもアツイ注目が集まっているのだ。

世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

また、「世界遺産、熊野へGO!」では、ぬいぐるみたちが一泊二日の長旅を! 
世にも珍しい“ぬいぐるみ専門の旅行会社”、感動の実話が一冊の本に!

各ツアーによって参加人数が10人を超えることもあれば、たった2人きりのこともある。そんなタイミングと縁も、旅ならではといったリアルさがあり、面白い。また実際、旅に申し込む人たちの動機はさまざまにあり、要望も人それぞれ。ウナギトラベルでは旅の演出に役立てるため、ツアーに申し込んだぬいぐるみの持ち主には必ずアンケートに答えてもらい、それらを旅に反映することを心がけているとか。ぬいぐるみたちの生き生きとした様子から、写真の撮り方にもこだわりがたくさん感じられる。本書を見ていたら、自分のお気に入りのぬいぐるみも、いつか旅させてみたい! と思わずにはいられなかったし、自分のぬいぐるみがツアーで初めて出会う他のぬいぐるみと仲良くしているのを想像するだけで、なんだかほっこりしてしまう。


発行元の飛鳥新社に問い合わせたところ、10月半ばの発売以降、感想が書かれた読者ハガキも早いペースで届いているそう。コメントの一部を抜粋すると……

「旅日記かと思っていたら心温まるお客さん側のお話で、写真も多く楽しめました」
「ただ楽しくフェイスブックを見ていましたが、その背景にこんなドラマがあったとは……。感動しました」
「外国からのお客さんの話にびっくり。国際的なサービスなんですね(笑)。ぬいぐるみ旅が教育に役立っているなんて! アメリカの先生は海外は発想が違いますね」
「学生の頃は旅行好きだったのですが、最近は仕事が忙しく休みが取れません。そんな不満を抱えていたので、心に刺さりました」

などなど。
やはり驚きの声が多いよう。ちなみに、書店での売り上げデータによると、男女別では意外にも男性の購入者が1/3もいるのだとか。本書の文章はほとんどの漢字に平仮名でルビがふってあるので、子どもでも簡単に読めるし、プレゼントにも喜ばれるはず。ぬいぐるみが好きな人だけでなく、感動の実話として、幅広く楽しめること間違いなしの一冊です!
(田辺 香)