今さらながら今年2月に3週間限定で公開されたMr.Childrenの映画「Mr.Children REFLECTION」の詳細レビューを書いていきたい。この映画は2014年に全国のライブハウスで開催したミスチル初のファンクラブ会員限定ツアーでのライブ模様を収めた内容となっている。
それでは収録された演奏曲を順に振り返っていこう。

1. Everything(It’s you) 颯爽と登場したメンバーたちは4人でまずこの曲を披露した。通常のミスチルライブではメンバー以外にサポートメンバーがいるため、4人だけで演奏するのは極めて異例だ。今まで「Everything(It’s you)」はピアノ主体のアレンジも多かったのだが、今回はガッツリしたバンドサウンドでの披露となった。
ところで1曲目で感じたのはファンの一体感の凄さだ。ファンクラブ会員限定ということもあって曲中のフリなどはもちろん完璧である。

2. 旅人 続いてはこの曲。ミスチルとしての披露は「regress or progress」('96~’97)以来となる。ライブハウスということもあり、物理的にメンバー間の距離がとても近い。桜井さんがギターを激しくかき鳴らしていたのが印象的だった。

続くMCでは、桜井さんがキーボードメンバーとしてSunnyを紹介、久しぶりに桜井さんの口から「キーボードSunny(高音)」が聴けた。Sunnyの参加はミスチル単独のライブとしては2005年のツアー以来であり、ファンから「おかえり」との声も出た。
最近のミスチルライブではプロデューサーの小林武史がキーボードを担当していたが、今回はそれに代わる形だ。

3. 名もなき詩 桜井さんの「では、最後の曲です」との紹介の後に演奏された。

桜井さんは「名もなき詩」演奏後のMCで「これまでのMr.Childrenを聴いてもらいました。次からはこれからのMr.Childrenをお届けします。」と語る。
ここで面白いのが「これまでのMr.Children」と称して演奏した3曲がどれも1996年~1997年のものであるのがとても興味深い。というもの、この時期はミスチルの歴史の中でも"どん底"と言えるような時期で、後に桜井さんが「この時期は死ぬことを考えた」と語ったほどだからだ。たまたまかもしれないが、年を経て辛かった時期をメンバーたちが受け入れているように感じた。

さて、このファンクラブ会員限定ツアーは「初披露となる新曲を中心に演奏」することがある種コンセプトだった。桜井さんは新曲披露にあたって「一生懸命聞かないで、つまらなくなるから。音楽に身を委ねて」と話した。まさに音楽を誰よりも愛する桜井さんならではの言葉だ。

4. Melody 現在は発売済であるが、このライブの時点では未発表だった。
新しい曲を目の当たりにしたファンのワクワクした表情が印象的。

「Melody」披露後のMCではファンの「I love you」という声に桜井さんが「I love you too」と返答する。このように桜井さんがライブ中、ファンからの声を返すのは珍しい。桜井さんいわく、ライブハウスではお客さんとの距離が近いため、ファンからの声が聞こえるらしい。
また、この曲に「クリスマス」との歌詞があることも印象的だ。1992年発売の「抱きしめたい」でも桜井さんは歌詞の一部にクリスマスを入れようとしたが、プロデューサーの小林武史に反対されてやめたというエピソードがある。最近、小林武史がミスチルのプロデュースを辞めたことが大きな話題になったが、ここにもその影響が表れているのではないか。

5. Fight club この曲は1999年公開のブラピ主演映画「Fight club」が元になっていることが桜井さんの口から明かされた。映画公開時に20歳だった少年がこの映画に憧れる。しかし、2015年になり20歳だった少年も34歳に。若かった時と比べるとバカなことも出来なくなっているが、それでも日常で戦い続けるという内容の歌だ。
曲調は今までのミスチルにない感じだが、疾走感を感じさせるもの。
イントロやソロ部分で田原さんのギターが光る曲なので、田原さんファンには堪らない曲だと思う。

6. 斜陽 昨年のFNS歌謡祭でも披露されていたが、この曲も今までのミスチルらしくない曲調。ロシア民謡のような、郷愁を誘う曲だ。

7. 蜘蛛の糸 「美しく妖しい大人のバラード」と桜井さんが紹介したこの曲は「CANDY」、「ロザリータ」のようなピアノ主体バラード。この曲はまさにミスチルの王道をいくラブバラードだ。かつてbank bandでカバーした中島みゆきさんの「糸」と同じく恋する相手を糸に例えた歌詞が印象的だ。

また、MCで「斜陽」と「蜘蛛の糸」がそれぞれ太宰治と芥川龍之介の作品に由来していることを明かした。(桜井さんいわくこの2つは「文豪シリーズ」)

8. I can make it 今までのミスチルにない曲調でロック色が強くしゃがれ声で歌っていたのが印象的。しいて挙げるとしたら「Love is blindness」のような歪んだ曲調だ。
「プレッシャーの前に引っ込めるアイデア」という歌詞があり、桜井さん自身の創作者としての苦悩が表れているのではと感じる。かつて桜井さんは作詞したものには自身の深層心理が出ると語っており、同時期に「足音~Be Strong」の制作にかつてないほど悩んだことなどが歌詞に表れたのではないだろうか。

9. 放たれる リリース版とは異なり、イントロが流れた後の桜井さんの歌いだしはアカペラに近い形だった。


10. 花 -Memento-Mori- 桜井さんが1番のみをアコギで弾き語りした。また、映画ではカットされていたが、ファンクラブ会員限定ツアーの札幌公演では「1/6の夢旅人2002」(北海道が生んだ名番組「水曜どうでしょう」のテーマ曲)も歌ったらしい。まさにこれを聞いたのは当日会場にいたファンのみの特権だ。

11. 進化論 NEWS ZEROのテーマ曲になったこの曲。桜井さんはMCで「進化論の新説で"前の世代の努力がどこかに受け継がれる"というものがある。その新説には、頑張ったことが結果として今の世代では上手くいかなくても次の世代に受け継がれるという希望がある」と説明した。文学といい進化論の説といい桜井さんの関心は広く、それを歌にしてしまうのが凄いところだ。

12. 足音 「聴いてほしい、聴こえてほしいこれが僕らの新しい足音」との桜井さんの声とともに演奏が始まった。改めてこの曲にはミスチルが新しい一歩を踏み出すという並々ならぬ決意を感じる。かつて活動休止後の初シングルとして「終わりなき旅」をリリースしたが、この曲もそれに近い、これからも歩み続けるのだというメッセージが感じ取れる。

13. 幻聴 この曲は過去の作品でいうと「蘇生」や「擬態」に近い曲。早くもファンからの評価は高く、ライブで歌われ続けるんだろうなという名作だ。
ファンクラブ会員限定ツアーでは初披露にも関わらず、曲中での観客とのコール&レスポンスが完璧だった。ライブではこの曲がアンコール前最後の曲となる。

桜井和寿インタビュー 映画ではここで桜井さんのインタビューが入る。「自分は作り手だが、他のメンバーは聞き手の視点を持っている。だから他の3人を信用して意見を尊重している。」と語った。
確かに桜井さんは曲にも積極的にメンバーの意見を反映させるし、プロモーション方法などに関しては他のメンバーが主張するという。桜井さんの他メンバーへの強い信頼がうかがえた。

14. 口笛 「ファンクラブ会員が選ぶライブで聴きたい曲ランキング」の1位になったこの曲を披露。ちなみにこのランキングを見るとベスト10に「旅人」、「heavenly kiss」、「one two three」、「渇いたkiss」、「UFO」など隠れた名曲揃いであり、さすがはファンクラブ会員と言ったところか。

15. 未完 「口笛」披露後、サニーが帰り、またステージ上はメンバー4人のみに。桜井さんは「僕たちは完成されないバンドだ。でも常に何かにトライして失敗する、発展途上でありたい。」と語り、そんな想いを歌にしたのがこの曲だ。

常にトライしたいと言う想いの通り、これまでにないような新しい曲調になっている。ロック色が強く、ピアノの主張が強い小林武史サウンドとは一線を画すものだ。

メンバーインタビュー 「未完」終了後、映画ではメンバーのインタビューが入る。田原さんが映画のタイトル「REFLECTION」の由来をこのインタビューで語った。田原さんが話すにはライブ中の写真に映った光の反射が奏でる音と客の想いを可視化したもののように自身が感じたことが由来らしい。
インタビューの最後に田原さんは
「やりたいことは山のありますよ、僕らの場合。憧れはあり続ける」
と力強く語った。普段あんまり喋らず、寡黙な田原さんがここまでミスチルについての想いを熱く語っていたことは珍しく、かなり印象的だ。

16. 独り言 Wアンコール(ちなみにミスチルのライブでWアンコールは異例)に迎えられメンバー4人で演奏した。4人が前に出てファンのより近く歌う形であり、新しいことに挑戦してもミスチルはファンとの距離は近いままなのだと感じる。
また、本来はドラムのJENがタンバリンとハーモニカを担当し、2001年のツアーで「独り言」を披露した時とまったく同じ形での演奏となる。この曲でファンクラブ限定ライブは終了となった。

最後にエンドロールのクレジットを確認すると、小林武史はスペシャルサンクスに留まっており、企画と制作は株式会社エンジン(小林から独立したミスチル所属の会社)、そして「Produced By Mr.Children」と書かれていた。今回の映画も小林武史が関与することなく、メンバーが中心となって制作されたことが分かる。
ところで、ミスチルはこの映画で伝えたかったのだろう。それは「これからも走り続ける、新たなMr.Childrenを見せる」ということではないだろうか。実際にファンクラブ限定ライブで披露された新曲でも"新しいミスチル"を感じる曲が何曲もあった。ここ10年ほどのミスチルは小林武史の影響が大きく曲やライブに表れ、ピアノの主張が強いものが多かった。しかし、今後は小林武史のプロデュースから外れたことで、かつてミスチルが90年代に見せたようなロック色が強く、バンドサウンドが前面に出た曲が増えるのではないだろうか。そもそも本来の桜井さんは「worlds end」や「過去と未来と交信する男」などロックやダークな印象が強い曲を高く自己評価している人物である。
6月にはニューアルバム「REFLECTION」も発売されるミスチル。今後の活躍がますます楽しみだ。
(さのゆう)
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