竹中知華&古瀬絵理「巨乳は淫乱だと思われる」
テリー伊藤「最高のホメ言葉じゃないですか!」
これはつらい。ふたりの「スイカップ」アナが大きすぎる胸の悩みをぶつけた「TVタックル」の欺瞞
5月25日に放送された「ビートたけしのTVタックル」の特集は「巨乳の悩み」。竹中知華と古瀬絵理が巨乳の悩みについて語り、足立梨花とテリー伊藤がそれに猛反論するプロレスだった。ちなみに巨乳が巨乳なりの苦労をするのは海の向こうでも同じで、『巨乳はうらやましいか Hカップ記者が見た現代おっぱい事情』(早川書房)に詳しい。

5月25日に放送された「ビートたけしのTVタックル」、2本立てのテーマの後半は「巨乳の悩み」。元NHKアナウンサーの竹中知華と古瀬絵理が出演し、巨乳でいることの悩みを語った。
2人とも「スイカップ」(スイカのような大きいおっぱい)として有名だ。

竹中はNHK時代を振り返る。
「本当につらかった。朝のニュースを読むと、視聴者からクレームが来る。『竹中アナの胸に目がいってニュースが頭に入らない』『青少年に悪影響』……」
上司は竹中に胸が目立たない服装を求めた。しかし体に合ったシャツを選ぶと、胸の部分がきつい。
シャツの場合は、ボタンとボタンの合間に隙間ができてしまう。その結果、出演前にシャツの隙間を縫うのが習慣になった。
「でも、言われるのは『パイナップル乳』『爆乳番長』『稀に見る逸乳』。アナウンス技術などの頑張っているところは誰も見てくれない。それだけなのか、私……って思いました」

古瀬も「巨乳は淫乱だと思われる」と語る。
「軽い女だと思われるみたいで。
仕事関係の人と一緒にごはんを食べたら、『君には愛情がない性交渉が必要だ』と言われた。真昼間なのに。この人は私とそういうことができると思っているんだなと、ぞっとしました……」

2人の結論は、「巨乳は損」。

その言葉を否定するのは、タレントの足立梨花(自称Aカップ)。
「何もかも自慢に聞こえる」
「貧乳の悩みを話すと、巨乳はそろって『分けてあげたいくらいだよ〜』と言うよね」
「私なんて前を向いてるのか後ろを向いているのかわからないんですよ」
「谷間ができないから、胸を強調した服が着られない! たまに谷間ができると『豊胸した?』なんて言われる」
とまあ、見事に「巨乳VS貧乳」「女同士の対決」として番組を盛り上げている。すばらしい仕事ぶりだな〜。


最も自分のキャラクターに忠実に行動していたのが、テリー伊藤。彼は先日、マイケル・サンデルに向かって「視聴率を上げるには、ミニスカの女の子を出せばいい」と言い切り、サンデルに絶句されたことで知られている。
「巨乳でイイ思いしたことあるでしょ?」
「(「巨乳は淫乱」は)最高のホメ言葉じゃないですか? セクシーってことでしょ?」
「(そういう褒め言葉を)全然言われない人生の人だっているじゃないですか。そうしたら味気なくないですか?」
「(「巨乳と言うだけで彼氏をとられそうに見られる」という言葉に対して)それもホメ言葉だよね?」
「お酒を飲むと胸も赤くなるんですか?」
「(「巨乳は頭が悪い」は)これまたホメ言葉! かわいいってことでしょう」
すごい。
しまいには「痴漢をされるってことは、あなたに魅力があるってことでしょ? 自信を持っていいんですよ!」とか言いだしそうだ。

テレビは、わかりやすく、なおかつ面白くするために、「女同士の戦い」を演出したがる。

しかし、その「女同士の戦い」の裏にあるのは、それを煽ろうとする男性、おっぱいの話を性的に楽しもうとする男性だ。
巨乳の悩みを告白する女性がいる。その「おっぱいエピソード」でちょっとエッチな気持ちになる。貧乳の女性から「巨乳はモテるからいいじゃない」と責めさせて、「エッチな気持ちになってもいいんだ、女性はそれで得をしているんだ」と思うことができる。
エッチではない話は面白くないのでいらない。
巨乳の悩みとして現実的なものは「下着のサイズがない(高い)」や「肩が凝る」や「重くて痛い」や「垂れるのが心配」だろうが、そういったことは今回の特集ではついぞ語られなかった。

巨乳の悩みを聞く特集ではなかった。悩んでいる巨乳にセクハラをし倒す特集だった。

ドイツの評論家レオ・バーグは、1891年の論文で「女性の総合的な人格を決定するのは乳房だけである」と書いている。
「女性の乳房は彼女自身をもっとも知的に表現することができる器官である。乳房は彼女の言語であり、詩であり、歴史であり、音楽であり、純潔であり、欲望である……」
「女性が考えていること、願っていること、気分のすべてが乳房につまっている」
やれやれって感じである(これを「男性のペニス」に置き換えてしまいたい)(完全に対称性があるわけではないから気が進まないけど)。
褒めてりゃいいってもんじゃないのだ。

バーグの言葉から100年以上経ってもなお、こうした考え方はなくなっていない。むしろテレビ番組で面白おかしく取り上げられている。
つらい。

ちなみに、竹中は自ら写真集を発売している。そこには胸を強調したポーズも映っている。
テリー伊藤が煽る。「言ってることとやってることが全然違う!」
竹中はそれに対して「コンプレックスだった胸を自信に変えたかった。自分の殻を破りたくて」と発売の動機を述べていた。スタジオは失笑モードだったが、なんとなくわかる。
Hカップでさまざまな悩みや男性からの性的な目線や嫌がらせを経験し、その結果おっぱいについて調べ上げて本にした記者スーザン・セリグソンは、『巨乳はうらやましいか? Hカップ記者が見た現代おっぱい事情』の終盤、ヌード写真を撮影する。
自分のおっぱいが好きになったから、撮ってもらいたくなった。プロに綺麗に撮ってもらうことで、もっと自分のおっぱいを好きになる。竹中もそういう気持ちだったのではないか。

女性なら誰でも、そして実は男性も持っているおっぱい。「TVタックル」を見て、自分のおっぱいを嫌いになる人がいなければいいのだが。

(青柳美帆子)