今春に起こった『南アルプスの天然水&ヨーグリーナ』(サントリー)の大ヒットで、1990年代後半に小学生だった私は、ふと98年の『桃の天然水』(JT/96年発売)大ブームを思い出した。CMで人気絶頂だった華原朋美が言っていた「ヒューヒュー」のフレーズは、当時の流行語にもなるほど。

また、今でこそ珍しくないけれど、無色透明なのに果汁感のあるフレーバーウォーターは、子供心にとても新鮮で興奮した記憶がある。
90年代後半の清涼飲料水市場に起こった「ニアウォーターブーム」とは?

ちなみに『桃天』が発売された1996年は、500ml以下の小容量ペットボトル飲料の国内生産が解禁された年でもあり、これまでの350ml缶における「一度開けたらすぐに飲み干す」という前提が「時間をかけて少しずつ飲む」へと変わり、清涼飲料水のあり方に大きな変化が起こった時期でもある。ということで今回は、1996年~2000年にかけての清涼飲料水の歴史を調べてみることにしました。

【90年代後半の清涼飲料水事情「ニアウォーターブーム」】


1990年代後半は、『桃天』の他にも、中田英寿プロデュースで話題だった『オープラス』(アサヒ飲料/98年発売)、『サプリ』(キリンビバレッジ/97年発売)といった、無色透明で、ジュースというよりも水に近いビジュアルだったり、ヘルシーさや栄養機能を重視した商品がが各社からこぞって発売された時期でもある。

上記の特徴を持つ商品の台頭は、1995年頃から起こり始めた「ニアウォーターブーム」の影響が大きいようだ。ニアウォーターとは平たく言うと「清涼飲料水とミネラルウォーターの中間」に位置する飲料のこと。一般的なジュースよりも甘さ控えめで低カロリー、ミネラルや栄養素が入っていること、着色料不使用で、無添加・ヘルシーな印象を与えるさっぱりした飲み心地などが特徴だ。
これも、90年代始めに起こった「天然・自然なものを重視する」という消費者の食ライフスタイルの変化、健康志向が影響している。

そして前述の国内メーカーに500mlペットボトルが解禁されたことも、このブームに大きく関係している。これまでメインだった350ml缶とは違い、蓋の開け閉めが自由になったことで、時間をかけて好きなときに少しずつ飲むことができるようになった。
だから以前よりも「ぬるくなっても味に変化がなく、断続的に飲んでも飽きない味」が重視されるようになり、強い甘味や酸味よりも、最後までスッキリ飲めるあっさりとした味わいの商品が増えたのである。

【果汁入りジュース飲料・炭酸飲料にも影響が】


1990年代後半は、果汁入りジュースや炭酸飲料もニアウォーターブームの影響を受けている。濃厚さや100%果汁感が人気の昨今の事情と違って、「天然水使用」を謳ったものが多い。
『mistio』(ダイドー/96年発売)、『天然育ち』(キリン/97年発売)、『なっちゃん』(アサヒ飲料/98年発売)、商品名が話題だった果汁入り炭酸飲料『ごめんね』(サントリー/99年発売)など、天然果汁を使用した爽やかな飲み心地の商品が目立った年代だった。

90年代後半の清涼飲料水市場に起こった「ニアウォーターブーム」とは?

また、これらの商品は「天然水使用」を謳っているものが多いが、90年代は自然・健康ブームの他にも貯水タンクの汚染や水道水の汚染問題、また95年の輸入ミネラルウォーターの異物混入事件が問題視されていた時期。そのため国産商品の安全性・信頼を消費者により印象づけるために、「天然」「国産」を強調した商品が多数発売されたのではないかと推測される。

【「ニアウォーター」は500mlペットボトルの地位を不動のものに】


「ニアウォーター」の台頭は、健康・自然といった消費者の志向に合わせただけではなく、小容量ペットボトル解禁で起こった、「飲み方の変化」にも柔軟に応えてきた結果でもある。だからニアウォーターは、清涼飲料水市場に新風を巻き起こしただけではなく、500mlペットボトルの地位も不動のものにしたのだ。
今回、90年代の清涼飲料水事情を調べてみて、ペットボトル入り飲料の増加はここ十数年の話だったということに驚いた。ニアウォーターブームは、現代の清涼飲料水市場の土台を築いたと言っても過言ではないかもしれない。

(ぬる子)

【参考文献】
『90年代の消費トレンド』(日本経済新聞社/1989年)
『CM NOW』1998年7-8月号(玄光社)
『戦後の清涼飲料史』2011年版(全国清涼飲料工業会)
「JT 桃の天然水 1ケース(490mlPET×24本)」
「なっちゃん オレンジ 430mlペット×24本」