『家政婦のミタ』以降の遊川作品を振り返ってみよう
10月7日より、遊川和彦脚本、天海祐希主演の新ドラマ『偽装の夫婦』(日本テレビ系・水曜22:00〜)が放送開始となる。

遊川和彦&天海祐希のタッグということで『女王の教室』(ついでに『演歌の女王』)を思い出す人も多いかと思うが、今回は天海祐希の方はちょいと置いといて、遊川和彦の近作を振り返りつつ『偽装の夫婦』がどんなドラマになっていくのかを予想してみたいと思う。
遊川氏の脚本作といえば、近年でいうとやはり2011年に日本テレビで放送された『家政婦のミタ』ということになるだろう。
業務命令ならどんなことでも完璧にこなすものの、マシーンのように決して笑わない家政婦という現実離れした設定と、予想のつかない激しいストーリー展開で視聴者のハートをガッチリつかみ、最終回の視聴率はなんと40%。「みんな、まだこんなにテレビを見ていたんだ!」と驚かされるミラクル級のヒットとなった。
アニメや漫画からの実写化ではなく、オリジナル脚本でのヒットということもあり、遊川氏の脚本家としての評価もこの『家政婦のミタ』でスポーンと跳ね上がったわけだが、『ミタ』以降に手がけた、2012年のNHK連続テレビ小説『純と愛』と、2015年1月期に『ミタ』と同じ日テレ水曜22時枠で放送された『○○妻』は、賛否が極端に別れるドラマとなっており(というか否定的意見が多め)、良くも悪くも世間をザワつかせる脚本家としてドラマファンたちから注目されているのだ。
ある意味伝説となった朝ドラ『純と愛』
『家政婦のミタ』の大ヒットで高まりまくった遊川氏の発言力が思いっきり反映されたと思われるのがNHK連続テレビ小説『純と愛』。
遊川氏自身「これまでの朝ドラの常識を壊す!」と宣言していたように、ヒロインの旦那(風間俊介)が「人の本性が見える」超能力を持っていたり、父親(武田鉄矢)が鬼畜レベルのクズだったりと、登場キャラクターからしてかなり異色の朝ドラとなっていた。
ストーリーも通常の朝ドラであれば、降りかかってくる様々なトラブルをヒロインのがんばりで解決していき、最終的には夢がかなう……的な流れとなるのがお約束だが、『純と愛』では、ヒロインに不条理すぎるトラブルが次々と襲いかかり、がんばって解決しようとすればするほど空回り。さらに周囲のクズのせいで事態が悪化しまくり、さらなる理不尽なトラブルが……という悲惨スパイラルの連続で、ボク個人的には「なんじゃこのドラマ!?」とワクワクしながら見ていたものの、朝ドラの視聴者層を考えると「朝からこんなイライラするドラマ見せるな!」と思っていた人も少なくなさそうだ。
とはいえ、極端すぎるキャラクターたちが繰り広げるイライラ展開からの、最終回で様々な問題や謎が解決して感動のエンディング……というのは遊川脚本の王道パターンともいえる。
しかし『純と愛』の場合は結末もまた、朝ドラ史上に残る放り投げっぷりで、ヒロインの夢だったホテルは開業直前に台風でメチャクチャに、さらに旦那は植物人間状態になってしまい最終回へ突入。ここからどうやって15分で収集をつけるのかなーと思ったら、結局、メチャクチャになったホテルはどうにもならず、旦那も目覚めないままエンド。テレビも前で思わず「これで終わり!?」と叫んじゃいましたよ。
いくら朝ドラの常識を壊すっていっても、もうちょっと朝らしいサワヤカな話にできなかったもんか……。
『ミタ』の大ヒットでイケイケ状態となっていた遊川氏が「朝ドラらしくないものを!」と意気込みまくっているのに対し、誰も意見できなかった結果、とんでもない方向に行ってしまったんじゃないだろうか? ……なんて妄想も広がってしまう。まあ、実際に脚本のみならず、ちょくちょく現場に行って演出にまで口を出していたみたいだけど。
遊川氏自身もインタビューなどで「NHKを否定するところからはじめちゃって失敗した」とも語っている『純と愛』だが、その点、ギャグや小ネタが頻出する作風が若者からは指示されていたものの、中高年層にはウケが悪かった宮藤官九郎が、NHKという縛りの中で『あまちゃん』を生み出して、幅広い層から高評価を受けたのとは対照的といえるだろう。
最終回でとんでもないことになった『○○妻』
そして、今年の1月より放送されていた『○○妻』。こっちもスゴかった。
『純と愛』での失敗(?)を糧に、『家政婦のミタ』の夢よ再びとばかりに、『ミタ』のスタッフが再集結したという触れ込みでスタートした本作。訳ありだけど、主婦業&旦那のサポートを完璧にこなす妻……という、どことなく『家政婦のミタ』を思わせる設定に、主人公の名前も『ミタ』の「灯(あかり)」に対し『○○妻』が「ひかり」というあたり、「やっぱ意識してんでしょ? コノコノー」と期待も高まった。
ニュースキャスターの旦那と、よくできた妻。一見、理想の夫婦なのに、実は正式に籍を入れていない「契約結婚」を続けている夫婦だった……というあたりも、遊川氏が好きそうなセンセーショナルな設定ではあるが、『純と愛』的な過剰にイライラさせる展開もなく、連ドラ初主演となる柴崎コウの健気な演技もあいまって、「こりゃあ最終回は『ミタ』級の大号泣か!?」とグイグイ引き込まれ、視聴率もまずまずだったようだし、ボクも毎週楽しみに見ていた。遊川さん、やっぱやればできるじゃない!
……そんなこんなで最終回へ。
様々な問題が一応解決し、契約結婚を続けたふたりも正式に結婚することに。これでハッピーエンドになるのかなー? と思ったら、突然出てきた不良高校生たち(伏線なし!)に暴行を受け、ひかりが死亡してしまうというすさまじい展開!
グッと感情移入して見ていただけに「マジか!?」と、これまた思わず叫ばずにはいられない最終回だったのだ。
この、お茶の間を思いっきりザワつかせたドラマ『純と愛』と『○○妻』からは、「キレイにまとまって終わるのばかりが連ドラじゃねーだろ!」という遊川氏からのメッセージを感じ取れないこともないのだが、やっぱり半年なり3ヵ月なり見続けてきたドラマなんだから、ベタでいいから最終回を迎えた後のスッキリ感が欲しいよ!
まあ、ボクはどちらも、なんだかんだ最終回までバッチリ見ちゃってるので、まんまと遊川氏の術中にハマッてるのかもしれないけど。
新ドラマ『偽装の夫婦』はどうなるのか!?
……というわけで今回の『偽装の夫婦』だ。
人嫌いで「ひとりで生きていくこと」を決意した主人公・嘉門ヒロ(天海祐希)が、実はゲイだった元カレ・陽村超治(沢村一樹)と偽装結婚をすることになり……という話らしいが、「訳あり結婚」というテーマはどうしても『○○妻』を思い出してしまい、少々イヤーな予感が……。
しかし、沢村一樹のゲイ設定をはじめ、天海祐希に恋心を抱く田中要次と佐藤二朗。さらに、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』でのメッチャ怖い姑役を思い出さずにはいられない、怖そうな叔母役でキムラ緑子。謎のシングルマザー役に内田有紀と、なかなかクセのある出演者が勢揃いだ。
近年、やたらと重くて暗いドラマを作りがちな遊川氏だが、もともとは『ママハハ・ブギ』『予備校ブギ』などの『ブギ』シリーズを手がけ、コメディドラマを得意としていた人。これだけ面白そうな出演者が揃っていれば、久々にコメディ路線のドラマを見られるんじゃ!? という期待も。
果たして暗い話なのか、明るい話なのか? そして、今回は最終回でキッチリとカタルシスを味あわせてくれるのか? それとも、またまた放り投げエンドで視聴者をポカーンとさせてしまうのか!?
個人的には、視聴者を総ズッコケさせるようなラストを再び見てみたいような気もするけど……。
とりあえず、『純と愛』と『○○妻』を1分動画で振り返りながら放送を待とう!
(北村ヂン)
1分で振り返る「○○妻」youtubeでも見れます