「本願寺派僧侶としての立場もあるが、惠光の目的は、まず仏教伝道協会を立ち上げた沼田惠範氏の初志を受けて、仏教を含めドイツにおける日本文化の窓口となることです」と所長の青山さんは語る。

独特な形態をもったドイツ惠光寺
日本の伝統仏教の中で、本願寺派はもっとも海外進出に積極的な宗派と言っていい。ハワイ、米国本土、ブラジルなど海外に建つ本願寺派の寺は多い。しかし、それらは明治時代以降に日本人移民と共に渡っていったもので、日本とまったく縁のない土地に布教し、根付いたわけではない。惠光寺は信仰の下地がまったくないドイツという場所で、ゼロから地元と交流を深めてきた。惠光寺に勤める本願寺派の僧侶にとっても、海外におけるこのような状況は、歴史上初めてのパターンなのだ。
このような中、2015年「惠光」文化センターは30年を迎えた。式典には、デュッセルドルフ市長と、同市があるノルトライン・ヴェストファーレン州首相が挨拶を寄せ、同センターが地域と共に歩んできたことを印象付けた。
現地の宗教・文化を否定するのではなく、相手を尊重し細かな理解を積み重ねていくこと。ドイツで認められた惠光寺は、海外における宗教的文化活動の目指すべき一択を示した。その試みは浄土真宗および日本仏教にとって、新たな歴史を紡いでいるといっても過言ではない。
(加藤亨延)