記憶に残る名勝負も 人気を集めたジーコ監督時代の日本代表
思い返せば今から10年前。ブラジルの英雄・ジーコを監督に迎え入れた日本代表も、大変、観衆を沸かせたチームでした。
戦術的にはいたって凡庸なのに、アジア杯は優勝、コンフェデレーションズ杯ではブラジル・フランスに善戦と結果は上々。しかも記憶に残る好ゲームを連発。どんなに不利な展開でも、何故か最後は大逆転するというスリリングな試合は、観る者を釘付けにしました。
極めつけは、W杯直前に行われたドイツとの親善試合。完全アウェーの中、日本はスター選手揃いの開催国ドイツと2-2で引き分けます。しかも、FW 高原直泰が決めた最初の1点目は、日本サッカー史上屈指の名ゴールとして語り継がれるほどの一撃。
否が応でも期待が高まる中、迎えた本戦。ある一つの“事件”が起こります。当事者は、先述した高原のシュートで、美しいラストパスを供給したFW 柳沢敦。
2006年W杯 決定的チャンスを前にまさかの失態を犯した柳沢敦
それは、W杯本戦・グループステージ第2戦でのことでした。第1戦目のオーストラリア戦で、試合終了間際の6分間で3点を立て続けに決められ敗戦するという、かなり絶望的な負け方を喫しましたが、それでも希望をもって臨んだクロアチア戦です。この試合を落とせば決勝トーナメント進出が絶望的になるため、当然勝ちに行った試合でした。
事が起こったのは、0-0で迎えた後半6分。どうしても1点が欲しい状況で、SB 加地亮は、ドリブルと味方選手とのパス交換で相手のぺナルティエリアに進入し、センタリングを上げます。地を這う絶妙な横パスです。ボールに走りこんでいたのはFW 柳沢。ディフェンスもキーパーも加地に引き付けられ、完全フリーの状況。あとはインサイドキックで軽く触れば良いだけです。
ところが、彼は何故か難しいとされるアウトサイドでのキックを選択し、ボールはあらぬ方向へ。「はっ!?」日本中が言葉を失った瞬間。両手で顔を覆う柳沢、ガックリと落ち込む監督ジーコ、キレ気味の表情で自陣に戻る加地……。
柳沢敦の「QBK発言」、現代用語の基礎知識にも掲載されていた
結局試合はこのまま、引き分けで終了。あの時、まっすぐ蹴って押し込んでいれば……。悔やんでも悔やみきれないドロー。意気消沈する中、試合後のインタビューが行われ、当然、戦犯・柳沢にもマイクが向けられます。
ここで「悔しいです…」「申し訳ない気持ちで一杯です…」など、無難な一言で終われば、まだ良かったのでしょう。しかし彼は、決定機を外した原因について「急にボールが来たので…」と解説。
シュート以上に予想の斜め上を行く言い訳がましいコメントに、日本中から批判が殺到してしまいます。この発言はネット上で「Q=急に B=ボールが K=来たので」と呼ばれ、同年の現代用語の基礎知識にも掲載。今も一部ファンの間では、サッカーの試合で決定的シュートを外した際の略称として用いられています。
この一件のせいで、Jリーグにおいて日本人6位となる通算108得点をたたき出すほどの名手であるにも関わらず、引退するまでチャンスに弱い選手として語られるようになってしまった柳沢。「口は災いの元」という諺が、これほど当てはまる事例は、そうそうないでしょう。
(こじへい)
柳沢敦(鹿島アントラーズ) 2007年 カレンダー