内閣府が設置した「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」の提言骨子案が公開され、インターネット上では「企業によるハラスメントを助長するのではないか」という批判が飛び交っています。撤回を求める署名運動も行われており、12月14日現在で既に約9,000人が署名しているようです。
とりわけ既婚従業員が独身従業員の結婚に向けた活動を支援する「婚活メンター(婚活サポーター)」や外部相談員の設置に関しては、個人情報をもとに企業が独身社員のライフプランに口出しするケースも想定され、かなりハラスメントが危惧されるところです。
確かにハラスメントにならないよう配慮する必要があると骨子では明記してはいるものの、ハラスメントが依然蔓延る職場も少なくありません。直接的な表現は昔に比べれば少なくなったのかもしれませんが、ハラスメントが何かという本質を理解していない人も多いために、いまだにこの国の職場にはねっとりと残っているのです。
たとえば、プライベートの話を振っていないのにパートナーの有無や結婚願望について聞かれる、結婚していないことやパートナーがいないことが笑いのネタにされる、「やっぱり既婚者は責任感が違うな」「やっぱり主婦は気配りや女子力が違うな」と暗に独身でいることを卑下される、気難しい男性や自分の意見をはっきり述べてバリバリ仕事ができる女性や多趣味の女性に「だからあいつは結婚できないんだ」とプライベートな面にまで言及されることが当たり前にされるのです。
マンスプレイニング(求めてもいない上から目線のアドバイス)をする人もたくさんいます。男性に対して「そろそろ結婚も視野に入る年齢だから男としてしっかりしなきゃね」のように言い、女性に対して「(独身生活を謳歌していたら)ご両親も心配しているんだろうに」や「そういう格好は男ウケが悪いよ」と言い、結婚したいとは考えていないという人に対して「そのうちわかるものだよ」と結婚が当たり前かのように言うのです。男性から女性に限らず、あらゆる方向からハラスメントは存在します。マウンティングも少なくありません。
一部のケースは証拠があって訴えれば勝訴できるケースもあると思いますが、上下関係の規範が強く、正しいことを主張するよりも事を荒げることが悪とされる日本社会においては、ちょっとした声をあげるにも多大な労力を有します。リスクも相当なものです。そのため、被害者が非常に訴えにくい構造になっており、加害者が野放しになっているわけです。
そのような状況の中で、単に明記しただけではあまりに対策として不十分です。
国は少子化対策先進国の真似をしてください
ではハラスメントが仮に撲滅できれば実施しても良いのかと言えば、もちろんそうではありません。というのも、そもそもこの検討会の必要性すら理解不能だからです。「少子化対策をしよう→結婚する人を増やそう→出会いが無い人が多いらしい→職場でも斡旋してもらおう」という思考回路なのだと思いますが、子供が欲しいと考えている若者が欲しているものは、本当に職場内での結婚奨励策でしょうか?もちろん違います。
(1)子どもの社会保障を北欧並みにして、
(2)所得と再配分の世代間格差や正規非正規格差を解消して、
(3)長時間労働を是正して育児がしやすい環境を整えて、
(4)多様で、ジェンダー平等で、現代社会の価値観に合った様々なパートナーシップが実現できるよう現行の結婚制度や文化を見直して欲しいのです。
そうすればパートナーを見つけられる人は自ずと増えるはずですし、勝手に早産化も進みます。そのような国がやるべき対策をまともにせずに、ただ企業を通じて若者に向けて結婚を奨励するキャンペーンを行っても、結婚する人は一向に増えません。出生率をV字回復させたヨーロッパの国々は基本的に「現行の結婚そのものの奨励策」なんてしていないのは、少子化対策に触れている人なら誰もが知るところでしょう。
そもそも現行の結婚制度と文化はもう時代遅れなのです。各種調査で現行の結婚に対して悪いイメージを持つ人はどんどん増えています。
若者の状況やニーズを無視しないでください
また、立ち止まって考えて欲しいのですが、既に様々な民間サービスが提供している出会いの場があります。でも、結婚を希望する人たちですらそのような場に出向かない若者が多数派なのです。参加してもすぐやめてしまう人が大半です。なぜだか分かりますか?
それは多くの人がお互い加点評価で見ることができる「自然な出会い」を求めているからです。というのも、既に結婚した人の大半が自然な出会いで結ばれているからであり、「出会いを求めた出会いの場」では外見や年収等のスペックや表面的な印象だけで判断されてしまうことが大半だからです。つまり、自然な出会いとはかけ離れた結婚支援という取組み自体にニーズがあまり無いのです。
また、検討会では結婚支援の取り組みを行っている企業に対して国が認証を行い、就活生向けの就職情報としても掲載を想定しているとも述べられていましたが、果たして若者は本当にそのような企業に就職したいと思うでしょうか? むしろ前述のようにハラスメントを怖れて嫌がる人も多々いることでしょう。男女比率が著しく偏った一部の職場の例をあげて斡旋することの必要性を訴えている委員もいましたが、それはあくまで例外です。全体で見れば少数派だと思います。
ちなみに認証された企業で独身ハラスメントを受けたという情報がネットに出回れば、「ブラック企業大賞」と同じように、若者が避けるべき「認証ハラスメント企業」として認知されると思われます。それくらいリスクと隣り合わせであるものだということを理解して欲しいものです。
お金をかける場所を間違えないでください
このように若者の状況やニーズをほとんど顧みずに結論ありきで決めようとしていることに対して、私は若者世代(18歳~34歳)の一人として、強い不信感と不快感を抱きました。相手の求めていないことを自分たちの都合で奨励しようとする、そう、実は検討会設置の趣旨そのものがハラスメントだと思うのです。
このような官製ハラスメントをやっていれば、ますます結婚に対するイメージを悪化させる独身者が増加するのではないでしょうか? まさに「結婚ネガティブキャンペーン政策」だと思います。
もちろん私は少子化対策に予算をつけること自体は反対ではありません。むしろ大歓迎です。ただし、どうか出生率をV字回復させたヨーロッパの国々が行ったように、社会保障の充実等の「王道の対策」に回して欲しいのです。財政状況が厳しいのは理解できますが、OECDが公表しているように、GDPに対する教育への公的支出の割合がOECD33か国中32番目なのは異常な状態です。最低限平均にまで底上げするべきでしょう。
経済的支援以外の面でもするべきことは多々あると思います。予算をさほど確保せずに効果を得られる対策としては、やはり男性の家事育児参加の促進でしょう。下記データが示すように、男性が家事育児を行っているカップルほど、第二子の出生率が高くなっています。
家事育児をする男性は「イクメン」ではなく、「父親」です。そんなスマートな男性が当たり前の時代にならなくてはなりません。私自身も近いうちに男性の家事育児参加に関するプロジェクトを立ち上げようと思っていますが、どうか政府も経済的な面以外の対策を行うのであれば、このような旧態依然の価値観に切り込むことに力を注いで欲しいと思います。
まとめ
今回は結婚を推奨する内閣府検討会の問題について触れてきました。中にはしっかりとした意見を述べていらっしゃる方もいましたが、海外の少子化政策に詳しい人物が見当たらない等、選考そのものに大きな疑問を感じます。重要なステークホルダーである労働組合関係者も0名です。また、当事者である独身の若者も12名中わずか1名しかいませんでした。最低でも3割は入れるべきでしょう。
私はもともと結婚に対してかなり興味があり、それゆえ海外の結婚制度や文化についても調べるようになりました。でもそうすると現代日本の結婚制度や文化が後進的で、因習や神話が多く、個人の人権が軽視されていて、ジェンダー不平等で、非常に出来の悪いものだと分かるようになり、どんどん日本式結婚に対する評価が下がって行きました。今やインターネットで海外の情報が当たり前のように手に入る中で、抜本的な構造改革をしなければ、「日本で結婚したい」と思える人は今後も減少して行くでしょう。
とにかく現状の結婚制度や文化に関する構造改革をせず、ただ結婚を奨励しようとする政策に断固反対します。どうかこの国を間違った方向に進めないでください。
(勝部元気)