「男と女は違う生き物だ」とよく言われていますが、同意します。明らかに、ものの考え方が違う。というか、からだの作りだって違うわけだし。

だからこそ、思わぬシチュエーションで様々な軋轢が生じたりする。例えば、トイレ。小の方をする場合でも、女子から「座ってしろ」と言われることが多くなってきました。でも筆者、座ってすると思わず大の方もしたくなっちゃうんだよなぁ。なんなんでしょう、あれは。


自動で便器がせり上がり、尿が着水するまでの距離を縮めてしまう


アートユニット「majikitchen(マジキッチン)」が開発しているトイレに、驚愕です。その名も『LIFTING TOILET』 は、火種の元を根こそぎから解決するトイレ。
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」

早速、majikitchenのアトリエにお邪魔し試作機を取材してきました。まずは、動画をご覧ください。

「ウイ~ン」という音とともに、便器が上がり下がりした!
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」
昇降実験用の試作機

正直、用を足す時に男性は立ってしたいじゃないですか? でも、それを押し通すと夫婦間で軋轢が生じてしまうこともある。ならば“立ってする人”と“座ってする人”、両者の股間高に合わせればいい! ……という発想で、このような昇降式と相成ったようです。
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」

便器を昇降させる操作法ですが、トイレへ入室する際にドアのレバーを上へ上げれば便器がせり上がり、女性(もしくは大をしたい男性)はレバーを下に下げれば便器が座る位置に来る。
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」
ドアレバーを模したスイッチの試作。便器本体とは無線で通信している

便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」

極めて単純なシステムで、両者に合う股間高へ自ら動いてくれるのです。

実は他メーカーによって、小便の飛沫が飛び散らないよう計算された“泡の出るトイレ”がすでに開発されています。一方、こちらのトイレの対策法はもっとド直球。開発者である福澤貴之さんは、以下のように語ります。
「問題の本質は、股間高に30センチのギャップがあることだと考えました。泡があると飛び散りにくいだろうけど、そもそも男性器の方向がズレる時がある。また、出る時からしぶきを上げ、リバウンドするんじゃなくて直接外に出る場合もあります。そう考えると、泡が出るのは100%の解決策ではないですよね」

現在のトイレ事情は、「男女のいびつな平等関係」そのもの


この『LIFTING TOILET』、実は壮大な“裏テーマ”というか“真意”が隠されていました。開発者が目指すのは「男女同権時代の実現」です。
「今まで、『男尊女卑』と言われる社会が長く続いてきました。次第に改善される兆しもあるとは思うのですが、いまだに出世競争は男性の方が有利だったり、男尊女卑だった頃の仕組みは至るところで残っています。また、その反動として女性の優遇が行き過ぎている節も散見されます。『女性限定の~』『レディースデー』などが象徴的だと思います」(福澤さん)
男性優位な時代の名残へ対抗するかのように、フラットにするつもりで女性優位に物事を進めるサービスも出てくる。要するに、シーソーゲームのような状況。
「結果、今の社会がどうなっているかというと、真ん中の状態ではなく『あっちは女性優位、こっちは男性優位』という、すごくいびつな平等関係だと思うんですね。そんなギャップを“見える化”させる意味で、このトイレを制作しました」(福澤さん)


色々な人間に合うことを前提にしたトイレを作ればいい


まずは、トイレのみにフォーカスして話を進めていきましょう。立位排尿は男性にとって自然な姿勢ですが、トイレ周辺を汚しやすいという側面もあります。
「また私の周囲をヒアリングした結果、その清掃を女性が担う場合が多いという実態もいまだにあるとわかりました。『気になった方がやろう』とルール決めをしたとしても、男の側が『まだ大丈夫』と思い、女性が耐えきれずに掃除しちゃうとか。その反動から、男性にも座位排尿を強要する声が女性側から日増しに高まっています」(福澤さん)

一方、一部の男性からはこんな声が。
「フェミニストの男性の中には『いまだに男が我を通すのは時代遅れで、女性に合わせることが正義なんだよ』という思想を持ってる人がいる。僕はそれ、すごく気持ち悪いんですね。仮に男性が座位排尿を徹底したとしても、合わせる側のポジションが女性から男性に変わっただけで、結局はどちらかが我慢して相手に合わせていることは変わらない。両方が気持ちよくできる状態になってないんですね。それって、平等じゃないじゃんって。いびつな男女平等社会が、用の足し方一つにも表れているんです」(福澤さん)

要するに、結論はこれです。
「物や事(製品やサービスなど)の方が、色んな人間へ合うことを前提にしてほしい。それが、真の男女同権社会を実現することにつながるんじゃないかなと思うんです」(福澤さん)


”30センチのギャップ”を解消すれば、社会問題が解決する


今まで語っていただいたことを踏まえ、もう一度動画を御覧いただきましょう。

昇降によって生じた30センチにフォーカスしてみました。この距離に、すべての問題が含まれています。
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」

でも、たったこれしきの技術で紛糾が解決するならば、考え方次第で世の中のあらゆる事が解決できるかもしれないですよね。
「各家庭内で小っちゃな揉め事というのは起こっていて、ヒアリングするとだいたいどこの家庭でも同じ問題で議論してるようです(笑)。そこまで行くと、もはや社会問題ですよね」(福澤さん)

ちなみにこの『LIFTING TOILET』、商品化についてはまだ未定だそう。現在は、技術的な検証をしている段階です。
便器が昇降するトイレで社会問題解決!?「いびつな男女平等社会が用の足し方にも表れている」

「商品化されれば、まずは新築の住宅に使っていただくとか、集合住宅やシェアハウス等に試験的に導入してもらうことになると想定しています」(福澤さん)
現状は二段階の高さしか設定されていないものの、センサーで測った身長から腰の高さをオートマチックに割り出す……といった機能を追加することも可能かもしれません。夢は膨らむ一方です。

「男女」に限定せず、あらゆる対立構造を平等にしていきたい


実は福澤さん、今回のような考え方に則って「トイレ」以外の制作に乗り出す可能性もあると教えてくれました。
「それは、決して男女に限らないと思うんですね。お国柄や地域(関東・関西など)とか、大人と子どもとか、もっと言えば宗教だってそうかもしれないし。人の行動様式は家庭内でも違うのに、家庭から離れたらもっと違うことが出てきます。みんな、そういうことをちょっとずつすり合わせ、たくさんのちっちゃいストレスを抱えながら生きています。一つ一つが小さいストレスだから我慢できてるだけなんですよね」(福澤さん)

人間同士の発想の違いで対立が発生している時、人間の側がどちらかに合わせて行動するのではなく、物(プロダクト)や事(サービス)の在り方を両方に合わせる。そんな考え方で社会のあり様を刷新させる作品が、新たに生まれるかもしれません。
いや~、予想外に壮大な話になってびっくりですよ!
(寺西ジャジューカ)