嘘と謎と恋が複雑に絡み合ってスタートした火10枠ドラマ『カルテット』。ドーナッツのようにどこか欠けている4人の弦楽奏者(松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生)が軽井沢の別荘で共同生活を送る姿を描く。

「カルテット」今夜3話。めちゃくちゃ面白い。視聴率0.2ポイント下降は「わからない」層の脱落か
イラスト/小西りえこ

坂元裕二による緻密すぎる脚本、主演4人による濃密な舞台のような芝居のやりとり、そして吹き荒れる高橋一生旋風。はっきり言って、めちゃくちゃ面白いドラマだ。

先週放送された第2話の視聴率は、第1話から0.2ポイント下降した9.6%だった。リアルタイムでツイッターを見ていたら、第1話でわずかにいた「つまらない」「何の話かわからない」という声が消滅していた。その人たちが脱落した分が0.2%なのだろう。

『カルテット』はタイムシフト視聴率が高そうなドラマだ。
繰り返して見るほど新たな発見があり、違う楽しみ方ができる。現在はTBSFREEで最新話が1週間限定で無料配信されているが、全話見せちゃったほうがファンは増えていくと思う。

「White Love」と「紅」に託される30代の実らぬ恋


第2話はカルテットの一人、別府司(松田龍平)メインのエピソード。なぜ司と真紀(松たか子)が“運命の出会い”をしたのか、その謎が明らかになった。

司が真紀に声をかけたのは、学生時代から抱き続けてきた強烈な片思いが原因だった。その後、何度も偶然会っていたのに声をかけることができず、司は“偶然”を“運命”に変えられなかった。だから、真紀の後をつけて声をかけ、“運命の出会い”を作りあげた(だから司は第1話で自分から「運命」と言っていた)。
あらためて愛を告白する司だったが、真紀はきっぱりと拒絶する。

同時に進んでいたのが、司と年上の同僚・結衣(菊池亜希子)のタイミングの悪い恋愛だ。2人はカラオケボックスでデートをする仲だが、お互い相手に踏み込まない。そうこうしているうちに、34歳の結衣は婚活で相手を見つけて結婚を決めてしまう。

真紀に振られた直後、泥酔した司は結衣の部屋に上がり込んで結衣と初めて結ばれる。押し倒された後、司の頭を抱えた結衣の両手がキスを導いているように見える。
結衣は司のことがずっと好きだったのだ。しかし、思い余った司からのプロポーズを軽くいなす。

結衣「まぁ、私もズルいし、別府くんもズルい。でも、寒い朝、ベランダでサッポロ一番を食べたら美味しかった。それが私とキミのクライマックスでいいんじゃない?」

司と結衣の恋愛は「下り坂」の恋愛だ。熱く燃え上がることのないまま、加齢とともにゆるやかに下っていき、おしまいになる。
クライマックスのサッポロ一番だけが熱く、2人を包む夜明けの風景は美しく、その分とてもせつない。菊池亜希子は本当に好演だった。

結衣と司によって繰り返し歌われるのがSPEEDの「White Love」で、ヤケになって司が歌うのがX JAPANの「紅」。この2曲の歌詞は非常にわかりやすく2人の心情を表している。

果てしない あの雲の彼方へ 私をつれていって その手を 離さないでね
SPEED「White Love」

お前は走り出す 何かに追われるよう 俺が見えないのか すぐそばにいるのに
紅に染まったこの俺を 慰める奴はもういない もう二度と届かない この思い

X JAPAN「紅」

「White Love」がリリースされたのは97年、結衣が14歳のとき。恋愛や結婚に夢と希望を抱く中学2年生の頃と、結婚を諦めかけていた34歳の今では、同じ歌詞も違った響きだったかもしれない。
一方、「紅」の「お前は走り出す 何かに追われるよう」という歌詞が、婚活で結婚を決めた結衣の境遇とピタリとハマっている。『最高の離婚』でもそうだったが、坂元裕二のJ-POP(歌謡曲)の使い方は本当に上手い。

ちなみにカラオケで司とドーナッツホールの面々がつけていたYOSHIKI風のコルセットは、ポテトの皿についてくるポリ製の丸皿枠だ。

「好き」とか「嫌い」は「滅びの呪文」


このドラマを読み解くために重要な2つのセリフがあった。

諭高(高橋一生)「言葉と気持ちは違うの!」

どう見ても脈がない有朱(吉岡里帆)からの着信に「脈がある」と言い張る諭高の言葉。「“連絡しますね”は“連絡しないでね”という意味でしょ!」と叫ぶ諭高のスマホに有朱から「連絡しますね」とレスが来ているのが哀しい。

それはともかくとして、『カルテット』の登場人物は言葉と真意がバラバラで、素直にわかりやすく自分の心境を語ることがない。
真紀は「私、弾けない」と言いつつ、ノリノリでヴァイオリンを弾き倒す。『カルテット』のキャッチコピーの一つに「嘘つきは、大人のはじまり」というものがあるが、言葉と気持ちの裏腹さも一種の嘘と言っていい。視聴者はそれを見極めていかなければならない。

一つ、これはドラマや映画のルールなのだが、「過去に起きたことの回想」は絶対に嘘の映像で描いてはいけない。だから、司が宇宙人の格好をして真紀の演奏を見ていたのはドラマの中では“事実”である。ここは揺るがない。このルールを破っているのはダメな作品なので要注意(“勘違い”を映像化することはある)。

真紀「はっきりしない人って、はっきりしないはっきりした理由がある」

真紀の言う「はっきりしない人」とは司のこと。真紀に拒絶された途端、結衣のもとに走って一夜を共にした後、プロポーズをした司に対して、「ひどい男だ」という声が視聴者から巻き起こった。そんなんだから、2人とも逃がしちゃうんだよ、と。

結衣の結婚式で新郎と新婦が退場するとき、司は一人で「アヴェ・マリア」を弾き、さらに途中から「White Love」に曲を変える。前者は真紀との思い出の曲、後者は結衣との思い出の曲だ。2人への思いをそれぞれ、あるがまま放ってみせる司とそれを見守る仲間たちは、やっぱりドーナッツのようにどこか欠けた人たちである。

でも、それでいいんじゃないかとドラマは語りかけているようだ。「はっきりしない人」は結婚できないかもしれないけれど、それが即不幸せというわけではない。エンディングテーマの椎名林檎作詞作曲「おとなの掟」には、

好きとか嫌いとか欲しいとか
気持ちいいだけの台詞でしょう
あぁ白黒つけるにはふさわしい滅びの呪文だけれど
手放してみたい 此の両手塞いだ知識
どんなに軽いと感じるだろうか


とある。「好きとか嫌いとか欲しいとか」は「気持ちいいだけの台詞」であり「滅びの呪文」なのだ。「知識」とは、これまでの世の中の常識やら何やらのことだろう。『逃げ恥』で語られていた「呪い」のようなものだ。

下り坂の恋愛にピリオドを打った結衣はドラマから退場したが、まさかの出会いをした4人はこの後、どうなっていくのだろうか? 「はっきりしない人」は司だけでなく、カルテットドーナッツホール全員なのかもしれない。

第2話の名ゼリフをご紹介


鏡子(もたいまさこ)「手品師がどうやって人を騙すかご存知? 右手で興味を惹きつけて、左手で騙す」

鏡子の意を汲んだすずめは、司を騙して真紀への好意を白状させる。その直後、司が持っているアイスを「左手」と選ぶが、これはすずめが「ウソついてました」とこっそり告白しているようでもある。ベンチで並んでアイスを食べるとき、思わず近づきかけたところ、ほんのちょっと遠ざかるすずめ。この時点で司を意識していることがわかる。

真紀「人生には、後から気づいて間に合わなかったってこともあるんですよ」

すかさず司が「ですよね」と答えているが、第1話で聞いた真紀の夫が失踪したことを思い出したのだろう。軽い音楽が流れているが、実は非常に重い一言である。

すずめ「質問に質問で返すときは正解らしいですよ」

終盤、真紀に「別府さんのこと好きなんですか?」と聞かれたすずめは「何でですか?」と質問で返している。ということは……。

真紀「悲しいより哀しいことってわかりますか? 悲しいより哀しいのは、ぬか喜びです」
真紀「捨てられた女、なめんな!(ドンッ)」


かなり怒っているように見えるのだが、翌日、真紀はすぐに通常のテンションを取り戻す。それどころか司には「私、宇宙人見ました」と告げ、学生時代の想いを肯定する。一方、すずめには「時々お線香の匂いがする」などと言って翻弄しているようでもある。

「別府さん、気づいてくれないの?」とすずめに語りかける顔の陰影、そして最後の写真の表情……。エキレビ!ライターの木俣冬さんは松たか子について「すべてを凌駕する魔物感」があると指摘しているが、非常によくわかる。おそろしい。

真紀「昼から食べる餃子とビールは人類の到達点です」

ですよねー。

松田龍平の宇宙人姿、八木亜希子の谷間さん、ロックンロールナッツとラブラブストロベリー、ポテトジェンガなどなど、第2話も笑えるフックはたくさんあった。突如、車に追い詰められて轢かれそうになる高橋一生の悲鳴に萌えたファンも多そうだ。重くなりすぎず、誰かがふわっと風を吹かす。それが『カルテット』らしさだ。

今夜10時から放送の第3話は、すずめの謎と過去が明かされる。そしてミノムシのようにぐるぐる巻にされた諭高の運命は!? ゲスト出演の高橋源一郎が何の役なのかも大変気になる。ひょっとして満島ひかりの父親役!?
(大山くまお)