
「この警視庁捜査第一課長、小野田義信の目を見て答えろ!」
オープニングで長谷川博己の目のクローズアップから徐々に引いていくショットがあったが、これは『半沢直樹』のオープニングとまったく一緒。期待していた視聴者へのサービス的な意味もあるのだろう。
『半沢直樹』が銀行という巨大組織の中で、上司たちの裏切りに遭いながら主人公・半沢直樹がバンカーとして自分の正義を貫く話(復讐成分多め)だとすると、『小さな巨人』は銀行よりも巨大な警察という組織の中で、長谷川演じる主人公・香坂真一郎が自分の正義を再発見してそれを貫く話、ということになる。
警視庁4万人の現場警察官の最高峰・捜査一課長を目指していた香坂だが、取り調べのトラブルによって所轄に左遷されてしまう。所轄で待っていたのは出世とは無縁の泥臭い刑事・渡部(安田顕)と無気力な刑事たちだ。
そんな折、ゴーンバンク(ソフトバンクっぽいネーミング)社長・中田(桂文枝)の誘拐事件が発生する。所轄の刑事たちのリーダーになった香坂は、渡部と協力して事件の解決に挑むが……というお話だった。今後、ストーリーは警察という組織内部の暗闘と、外部で発生する事件の解決を並行して描いていくことになるだろう。
香坂の上司にあたる捜査一課長、小野田義信(香川照之)は当然ながら、香坂と対立していくことになる。第1話からクセモノっぷり全開。エンディング間際でぶっ放した「この警視庁捜査第一課長、小野田義信の目を見て答えろ!」は小野田の決めゼリフになっていく予感がする。
また、小野田と同時期に放送されている内藤剛志主演の『警視庁・捜査一課長』と見比べてみるのも一興だろう。
『シン・ゴジラ』主演と『アオイホノオ』庵野秀明役のコンビ
第1話を見ると、香坂と小野田の対立以上に強調されていたのが、エリート刑事・香坂と所轄の刑事・渡部のバディものという側面だ。渡部は『踊る大捜査線』の青島と和久さんを足して2で割って不潔さでコーティングしたようなキャラクター。
バディ(相棒)ものとは、対照的なキャラクター2人組が難題に立ち向かうというジャンルのこと。香坂と渡部が対立と反発から入り、徐々に同じ目的に向かって協調していくのもバディもののパターンを踏襲している。2人のコンビネーションによって、ゴーンバンク社長誘拐事件の真犯人(長江秀和)にたどりつくことができた。それにしても長江秀和の阿藤快っぷりがすごかった。
香坂と渡部を結びつけるキーワードは「臭い」だ。渡部は「臭い」をもとに捜査を進める。最初に発するセリフも「臭うな」だった。自分自身も着替えをしないため、いつも悪臭を漂わせている(園児たちは平気だったんだろうか?)。
一方、渡部に向かって「臭うとか臭わないとか、そんな感覚的なことを捜査に持ち込まないでください。捜査は理論です」と言っていた香坂だが、隆一(加藤晴彦)を取り調べしたのは理論ではなく「勘」だった。
香坂の勘は、刑事だった父親(木場勝己)からの教え「人のことをよく見ているとな、臭いまで見えてくる。勘ってやつだ」という言葉と結びついている。また、清潔そうな服装をしているが、実は香坂のシャツも臭っている(指摘するのが妻の市川実日子。『シン・ゴジラ』ネタ!)。
あいまいな「臭い」や「勘」は、言いかえれば「正義を貫こうとする心」ということになる。巨大な組織のルールに従って生きることと、正義を貫こうとする心は相反することが多い。香坂が自分の「勘」=「正義」に忠実であろうとするとき、それに寄り添うのが渡部で、潰そうとするのが小野田と巨大な組織のルールという構図になる。
長谷川博己と安田顕のバディ刑事(『シン・ゴジラ』の主演と『アオイホノオ』の庵野秀明役のコンビでもある)が、警察という巨大組織のルールに抗いながら巨悪を追う展開に期待したい。巨悪の向こう側には、香川照之の影が見え隠れする。
いけすかない役を堂々と演じる岡田将生、敵か味方かまったくわからない春風亭昇太、香川照之に堂々と物申す芳根京子らメインキャストの動向にも注目だ。
(大山くまお)