……なんて文句を言いつつも、妙なパワーを放っているドラマの世界に引き込まれてしまい、今期最大の注目作となっている倉本聰・脚本のシルバータイムドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)。
第2週は石坂浩二が、次々登場する老女優たちにモテまくるハーレム系ギャルゲーのような展開だったが、第3週は「姫」と呼ばれる伝説の大女優・九条節子を演じる八千草薫の魅力大爆発な週。

86歳の八千草薫がかわいく見えるよ……
最近亡くなった伝説の時代劇役者・大村柳次郎の遺族から九条摂子が形見分けとしてもらった絵が、実は横山大観のスケッチではないかということが判明。
テレビの「何とか鑑定教室」にも出ていた菊村栄(石坂浩二)の見立てでは、本物だったら5〜6000万円にはなるんじゃないかという。
さすがにそんなに高価なものをもらうわけにはいかないので遺族に返さなくては……と主張する、どこまでも上品な九条摂子に対して、ザ・下世話老女のお嬢(浅丘ルリ子)やマヤ(加賀まりこ)は「もらっときなさいよ!」とたきつけ、もらう・もらわないで大騒ぎとなる。
結局、遺族の方も「一度差し上げた物を返してもらうわけにはいかない」ということで押し付け合いになり、ひとまず正式な鑑定に出すことになるのだが、ちょいちょい「やっぱりもらっておけば……」という顔を出す九条摂子が、妙にかわいらしかった。
設定上は戦前から女優として活躍していたという……そして演じる八千草薫自身もリアルに86歳だというのに! レジェンド級の役者陣の実力はやっぱりスゴイ。
いきなりのハードすぎる戦争話についていけない!
そんな、形見をもらうかもらわないか騒動と同時進行していたのが「濃野佐志美」は誰か問題。
「こいのさしみ」というペンネームを聞くとどうしても、さくらももこの再婚相手である絵本作家・うんのさしみを思い出してしまうのだが、本作の濃野佐志美は正体不明の女流作家らしい。
以前、三井路子(五月みどり)が菊村に提案していた、女が一生のうちで経験する3つのターニングポイント……、
・誰かに処女を捧げるとき
・男にお金で買われるとき
・もう誰からも振り返られなくなって、自分がお金を出して男を買うとき
を描いた舞台の企画。
提案者の三井を差し置いて「やすらぎの郷」の老女優たちがこぞって「自分が主演をやる!」と言い出すくらい面白そうな企画なのだが、これとほぼ同じ話を濃野佐志美が小説「老女たちの春」として発表したことから、濃野佐志美は「やすらぎの郷」内にいる誰かで、企画をパクッたのでは……と噂されているのだ。
「やすらぎの郷」の運営側は、濃野佐志美の正体を掴んでいるようで、間もなく出版予定の濃野佐志美の次回作に「やすらぎの郷」を作った元・芸能界のドン・加納英吉と九条摂子の過去の黒歴史が描かれているということで、菊村に相談してきたのだ。
14話まではこれまで通りの老人たちによるドタバタコメディだったのだが、この15話では戦時中のハードな芸能界事情が語られ、一気にノリが変わる。
戦時中、九条摂子には映画監督・千坂浩二という恋人がいたのだが、千坂監督は戦争にとられ戦死してしまう。
一方、前線に役者や歌手、浪曲師などを慰問として送り込む仕事を担当していた加納英吉は詳細を伝えないまま、サプライズとして九条摂子をはじめとする女優たちを神風特攻隊の「最後の晩餐」の慰問に送り込んだ。
若い特攻隊員たちは、人気女優の突然の訪問に大喜びするが、次の日には当然、全員が特攻して戦死。
九条摂子は、そのことが大きなショックとして残っているようなのだ。
……さっきまで「あの絵、やっぱりもらっちゃうかしら」なんて言っていたかわいいおばあちゃんに、こんな壮絶な過去があったとは。いきなりそんなこと言われても受け止めきれないよ!
しかもこの話が、実際の戦争映像にかぶせて語られるのだ。……お、重い! 前日までの軽いノリの『やすらぎの郷』はどこに行った!?
大物俳優たちがワチャワチャやっているドラマと見せかけて、ボクたちはものすごいドラマを見ているのかも知れない……。
『水戸黄門』って石坂浩二の黒歴史じゃないの?
さて、コメディからハードな戦争話まで盛り込んできた「やすらぎの郷」第3週だが、もう恒例となった、倉本聰の個人的な思い&役者たち本人を反映したぶっ込みネタも色々ありましたよ。
大村柳次郎の遺族が茨城で納豆を作っているという話の流れから、突然、菊村が言い出した、
「熱い飯に納豆のせて、そこに沸かした熱い牛乳をお茶漬けみたいにヒタヒタにかけてですね、上から醤油をちょっとたらすんです」
「ドリアみたいで、コレ意外と旨いです」
という謎すぎる料理。
実はコレ、倉本聰自身が考案した「牛乳納豆茶漬け」なる料理だそうで、倉本もよく訪れる富良野の料理店「くまげら」ではメニューとして食べられるんだとか。
いや、おいしいのかも知れないけど、いきなりドラマの中でぶっ込んでこなくても……。
納豆=水戸つながりで、唐突に「水戸黄門ってあれ、本当にいた人?」なんて話題がぶっ込まれていたのにも笑った。
石坂浩二、2001年からドラマの『水戸黄門』やってましたよね。ヒゲなしという異色の黄門様で違和感がありまくりだったアレ(クレームが来たからなのか、終盤はヒゲをつけていたが)。独自すぎる役作りでまあまあ評判の悪かったアレですよ。
しかも石坂の直腸ガンが発覚して、2年あまりという短期間で降板。
さらに、九条摂子が戦時中に付き合っていたとされる映画監督・千坂浩二の名前にも違和感が。
戦死した人の役に、主演の石坂浩二と一文字違いの名前をつけなくても……。何かしらの意図があるのか、単なる偶然なのか!?
みなさん、長生きしてください!
さて、15話の最後では濃野佐志美の正体が井深涼子(野際陽子)であると明かされたのだが、井深涼子ってどんな人だったっけ……?
以前、チョロッと登場していたものの、「スキー、まだやってる?」みたいな話をしていたことと、時々入江に行ってスッポンポンで泳ぐので注意を受けたことがある、という情報しか覚えていない。……まあ、演じるのが野際陽子ということで、濃いキャラであることは間違いないだろう。
濃野佐志美=井深涼子に小説の出版をやめさせるよう、説得することを頼まれた菊村とどんなバトルを繰り広げるのか楽しみだ。
しかし、かつての『水戸黄門』では「続き物のドラマだと、私たちは来週観られる保証がない!」という高齢者からのリアルな意見により、一話完結になった……なんて話があったけど、放送期間が2クール(半年)もあり、続きが気になりすぎる『やすらぎの郷』は大丈夫なんでしょうか?
シニア層のみなさん、ぜひ長生きして『やすらぎの郷』の結末を見届けてください!
(イラストと文/北村ヂン)