記録よりも、記憶に残る選手。

プロ野球界ではよくそんな言葉が使われる。

タイトル獲得経験もなく、目立った通算成績とも無縁。だけど、強烈な個性でいまだにファンの間では語り継がれる。

19年間の現役生活でわずか211安打にもかかわらず、晩年は代打稼業でチームに貢献した川藤幸三(元阪神)、新人時代からそのトーク術で人気選手になるも、たった5年間の現役生活後に芸能界へ転身したパンチ佐藤(元オリックス)、“キューバの至宝”の肩書きを引っさげ来日しながらシーズン打率.000という凄まじい成績を残して消えたフレデリク・セペダ(元巨人)。
みんな愛すべき超三流選手である。

記憶に残る選手を描いた実話『オールド・ルーキー』


今回取り上げるアメリカ映画『オールド・ルーキー』も、MLBの記録よりも記憶に残る選手を描いた実話モノだ。

主人公は元メジャーリーガーのジム・モリス投手。モリスはタンパベイ・デビルレイズに99年と00年の2シーズン在籍し、通算21試合0勝0敗、防御率4.80という成績が残っている。
マジ平凡な成績。なんだけど、特筆すべきは高校の教師から入団テストを受けて、35歳でメジャーリーガーになったという事実だろう。まさに「奇跡の35歳」(ただしおっさん)である。

と言っても、映画は能天気なアメリカン・ドリームでもなければ、超人的な能力に目覚めたスーパーヒーロー作品でもない。シリアスに仕事と家庭に板挟みの30代男性の悲壮を描いている。
地元で仕事に就き、結婚して家族を持ち、年を取る。
思春期とはまた別の「これでいいのかな俺の人生……」状態に物足りなさを感じる男の悲しい性。

ジム・モリスが交わした約束


そんなデニス・クエイドが演じるジム・モリスは子どもの頃から無類の野球好き。しかし、海軍勤務で転勤の多い父親からは引っ越し中にグローブを失くすと「人生には野球より大切なのがあると早く気付け」と理不尽に叱られる始末。

高校卒業後に大学野球でプレーしていたらドラフト指名され、憧れのメジャーリーガーへの夢が叶うと思ったが、左肩の故障が原因で24歳の若さで現役引退。幼少時代を過ごしたテキサスに戻り、安月給の高校教師をやりながら、野球部監督に就く。

そしてある日、試合で大敗を喫した弱小野球部のナインに向けて「夢と誇りを持て」なんつって説教している際に、逆に生徒達から「そう言う先生の夢はなんなの?」と突っ込まれる。

練習でモリスの全力投球を目にしていた彼らは、あれだけのスピードボールを投げられる教師はそうはいない。もったいないよとモリスを責める。そして「俺らが地区優勝して州大会に出ることができたら、監督もどこかのプロチームのテストを受けてください」と約束を交わすのだ。

「156キロを投げる一般人のおっさん」のリベンジ


映画前半部の1時間あたりまでは『がんばれベアーズ』の現代版のような展開が続く。ダメチームが一致団結して地区優勝を勝ち取るお約束のストーリー。正直、けっこう退屈でしんどい。

ただ、そこからジム・モリスが子どものおむつを替えながらプロテストを受けるあたりから、物語は一気に動き出す。

15年前は136~7キロの直球しか投げられなかった平凡なサウスポーが、いきなりとんでもない剛速球を連発。スカウトは驚愕し、観客もその奇跡に引き込まれる。なにせ「156キロを投げる一般人のおっさん」のリベンジである。面白いに決まっている。

あの時ああしていれば……。厳格な父親のせいで夢がつぶされた……。やりたいことはあるけど家族を養うためにも我慢……。
中年男性なら共感できそうなリアルな問題を抱えたモリス。野球選手と言ってもマイナーリーグだから金はないし、遠征の連続で家族とも会えない。歳の離れたチームメイトたちからは「客寄せパンダ」扱い。

そんな逆境で幾度となく挫折しかけるも、腐らず結果を残し、9月になるとついにレイズでメジャー昇格。タイミング良く地元のテキサスレンジャーズ戦でデビュー戦を飾る。


自分は公開時直後にこの映画を観ているが、20代前半のあの頃よりも、主人公のジム・モリスと年齢が近くなった今の方が断然面白く感じられた。

なにせ感情移入度が半端ないのだ。夢を追いかけて転職したものの、新しい職場になじめないあの感じ。昔は可愛かったおネエちゃんが現実主義の鬼と化す悲しい現実。悪いのは俺だと自分でも分かってる。でも、このまま静かに終わっていくなんて寂しすぎる。

勇気を出して初めての挑戦。映画『オールド・ルーキー』は野球映画であると同時に、すべての30男たちに捧げるおっさんの希望と再生物語なのである。

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『オールド・ルーキー』
映画公開日:2003年1月18日
監督:ジョン・リー・ハンコック
出演:デニス・クエイド、レイチェル・グリフィス、ブライアン・コックス
キネマ懺悔ポイント:83点(100点満点)
道路脇のスピード測定器にボールを投げたら「76マイル(121キロ)」でがっかりと思ったら、実は電球切れで「96マイル(153キロ)」出ていた……という有名なシーンはなんと映画上の演出とのことです。
(死亡遊戯)

※イメージ画像はamazonよりオールド・ルーキー [Blu-ray]
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